召喚世界のアリス

天野ハザマ

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異界の国のアリス

オークナイト

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 更に数日後。私のソードマンとしてのレベルは30になった。
 レベル30で解放される権限はなかったけど、オーク相手に上げられるレベルが鈍化してきているのを感じていた。

「んー、それにしても……」

 鉄の剣を地面にサクッと突き刺すと、私は手を重ね置く。

「レベルなんて概念は、ゲームには無かったわよね」

 破滅世界のファンタジアはアクションRPGというジャンルだったけど、まずステータスとかレベルという概念がなかった。
 あるのはライフ……つまり5個のハートと、各種の装備。
 プレイヤーキャラの性能に加え、武器と防具による補正値で能力が決定する。
 つまり、強い武具を手に入れないと強くなれないゲームだったのだ。

 でも、この世界にはレベルがある。そしてレベルが上がる度に自分の動きが鋭くなっていくのを私は感じていた。
 私のステータスはファジーな感じだから体感でしか確かめられないけど、レベルの上昇は間違いなく身体能力にも変化を促している。
 つまり私は「ゲームのアリス」より強くなっているということ。
 それって……控えめにいって最強じゃない?

「それにしてもオーク……ちっとも居なくならないわね」

 もうかなり倒したはずなんだけど……ほんと、何処から湧いてくるのかしら。
 それとも、やっぱり何処かに親玉がいて、それを倒さないと無限に増えるとか?
 それってかなり嫌だわ。
 
「嫌っていえば……いい加減クッキーと紅茶も飽きたわ」

 いくら女の子が夢と甘いお菓子で出来てるっていったって、限度があるわよね。
 この身体は小食だからあまり感じないけど、それでも味のバリエーションの問題もあるし。
 キッチンはあるけど、食材がない。
 庭が解放されればお野菜を育てられるはずだけど……と思いながら、私は足元の地面をチラリと見る。
 こんなところに何かの種を植えても、なんか呪われた植物の類が生まれそうよね。

「……快適な生活までの道は遠いわ」

 なんとなく遠い目をしながら私は呟いて、ジョゴダの町の事を思い返す。
 あの町でお金を稼ぐには、冒険者として依頼をこなす必要がある。
 私のランクは最低のE。あまり難しい依頼は受けさせてもくれないだろうし、受けてクリアしても面倒ごとが増えるはず。
 とはいえ、雑用依頼をチビチビやってもお金は溜まらない。
 食材を手に入れるには、何か別の仕事をしなきゃいけないけど……。

「やるなら……やっぱり駆除とか討伐の戦闘系依頼かしら」

 これに関しては、依頼は単発である事が多いので後腐れがない。
 ランクも試験をクリアしなきゃ上がらないはずだし、それがいいかもしれないわね。
 ……あー、もう。拠点にずっと引きこもっていられたらいいのに。

「っと」

 背後から振られた剣をヒョイっと避けて、私は振り返る。
 またオーク……って、あら?
 現れたモンスターを見て、私はちょっと目を丸くする。

「ブゴオオオオオ……」

 今まで斬ってきたオークよりも、二回りくらい大きい身体。
 纏っている金属鎧は頑丈そうで、持っているのは巨大な大ナタみたいな剣。

「普通のオークじゃ……ない、みたいね」

 名づけるならオークナイトとハイオークとか、そんな感じ?

「ブゴオアアアア!!」

 オークナイトが地面に大ナタを突き刺すと、その場所から岩の槍みたいなのが私に向かって次々と生えて向かってくる。

「魔法!? でも……このくらいなら!」

 横に跳んで避けると、私はオークナイトに向かって鉄の剣を振るう。
 一撃、二撃。三撃、四撃。
 最初の一撃を大ナタで受けたオークナイトは、けれど二撃目は耐えられずに大ナタを弾き飛ばされる。
 三撃目はオークナイトの鎧を斬り裂き、四撃目はオークナイトを斬り裂いた。

「ブギャアアア!?」

 ……切れ味が悪い。やっぱり鉄の剣は弱い。
 でもレベルのせいか、鉄の剣でも戦えている。
 自分の成長を感じながら、私は装備を素早くスペードソードへと切り替える。

「これで終わりよ!」

 深々と斬り裂いた一撃。鉄の剣とは比べ物にならない切れ味を感じながらも、私は「やはり」と思う。
 この世界では、私の……アリス自身の能力が「レベル」というシステムによって上昇している。
 
「ガ、ア……」
「これで確証が持てたわ。あと気になるのは……」

 私がレベル30なんじゃなくて、ソードマンとしてのレベルが30ってことかしら。
 この辺りについてはグレイ達にも聞いてなかったし。

―レベルアップ! ソードマンがレベル31になりました!―

「たぶん、あるわよね……ジョブチェンジ」

 やっぱり1回、町に戻って調べる必要があると思う。
 図書館か何かがあればいいんだけど、そう上手くはいかないかしら?
 考えながら、私は装備を鉄のものに戻し、拠点に戻ろうとして。

「なんだぁ、これは……」

  そんな声が聞こえて来たのは、その直前のことだった。
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