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異界の国のアリス
向かうべき場所
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「……一応聞くけど、家ってお安いの?」
「現代での価値は知らん。場所によるんじゃないか?」
そんな役に立たないアドバイスを聞いた私は、拠点の機能で久々にジョゴダの町に戻ってきていた。
ほんと久々よね……何日ぶりだったかしら?
相変わらず色んな人が行き交っているけど、お店をやっているのは魔族ばっかり。
こうしてみると、力関係がよく分かるって感じだわ。
「不動産屋とかはないんだったわよね」
「……貴様の言っていた土地物件の仲介専門業か。そんなものは恐らくだが存在しないだろう」
「そっか、残念」
「売り出している家であれば、札がかかっているはずだ。それを探せ」
こんな会話をしているけど、アルヴァは今は私の腕輪になっている。
見た目は金細工に赤い宝石のついた、ちょっと派手な感じのやつ。
あんまり私の趣味じゃないけど、アルヴァ曰く私の服のデザインに寄せたらしい。
それでも1人で会話してる変な奴と思われそうだけど、意外と誰も気にしてない。
……人間に興味がないだけかもしれないわね。
「えーと……あ、早速あったわね。金貨40枚で月払い……?」
中央通りにあった建物にかかった札を見ると、そんな事が書いてある。
店舗利用可、その他応相談……高くないかしら。
「まあ、地方の町とはいえ町の中心近くならこんなものだろうな」
「地方でこれなら、王都とかどうなってるのよ……」
「ふむ……ああ、そうか。いっそ王都の方に行くのもいいかもしれないな」
「なんでよ。そんなお金ないわよ?」
何言ってるんだコイツという気持ちを込めてアルヴァに言うと、アルヴァはフンと笑う。
「逆だ。王都だからこそ存在するものもある」
「……それって?」
「貴様は知らんだろうが、魔族の歴史は長い。しかし諍いも多く、王都が滅びるような事件も歴史上は何度かあった」
「うん」
「つまり……廃棄街と呼ばれるような区画が存在する」
え……それって、まさか。
「そこに住めっていうの? 廃棄街とかいうとカッコよさげだけど、スラムじゃないの?」
「そんな良さげなものではない。文字通りに廃墟だ」
「もっとダメじゃないの」
「だが、タダだ。しかも何をやっても文句は言われないし、申請すれば住所として登録も出来る」
「……そうなの?」
「勿論、まともな行政サービスなど期待できんがな。だが、貴様には逆に良かろう?」
「それは、まあ」
そうかもしれないけど。でも、それって正直どうなのかしら。
「そもそもの話、王都の連中程他人に興味のない連中もいない。貴様のような異物を隠すにはもってこいだ」
「異物って」
否定はしないけど……うーん。
「幸いにも、E級冒険者としての身分証もある。問題もない」
「そういうものかしら」
「そういうものだ」
王都、ねえ。そう聞くと悪くない気はしてきたけど。
「でも、私……場所分からないわよ?」
「遷都しているのでなければ俺が場所を知っている」
「まあ、それなら」
どうせ、拠点にリターンホームで戻るんだし……そういうことなら、王都の廃棄街とかいうのに住むのもいいのかもしれないわよね。
そんな場所なら、あまり探り入れてくる人もいないだろうし。
「じゃあ、早速行きましょうか」
「今からか?」
「うん。私の場合、アレがあるから荷物なんていらないもの」
「……ああ、まあ……そうだな」
リターンホームの事を知っているアルヴァは渋い声を出すけど、実際リターンホームがあればテント要らずの荷物要らずよね。拠点に全部放り込めばいいし、帰ればいいんだもの。
「それなら、北門から出ろ。王都はその方角だ」
「分かったわ」
頷いて北門を目指し、私は歩く。獣人にゴブリン、オウガ、人間……色々いるけど、人間は肩身が狭そうというか……。
「ちょっと、そこのお嬢ちゃん」
「え?」
突然声をかけられて振り向くと、そこには人の良さそうな表情を浮かべた人間の男の姿。
なんとなく高級そうな服を着てるけど……町の人?
「あまり見たことがない顔だけど、旅の人かい? ご両親は何処だい?」
「あー……ご心配ありがとうございます。大丈夫です」
「そうかい? もし1人なら、気をつけなきゃいけない。人間の女の子が1人で暮らすには、色々と危ないからね」
うーん……ただの良い人?
まあ、あまり心配されるような強さじゃないって自覚はあるんだけど。
私がこの場をどう去ろうかと考えていると、男の人は私に笑いかけてくる。
「私は王都で店をやっていてね。もし仕事に困ったなら、来るといい。同じ人間の苦境を放ってはおけないしね」
「はあ……」
「銀の乙女亭、という店だ。ナグルの名前を出せば話が通るはずだから」
そう言うと男の人……ナグルは去っていく。
「……どう思う、アルヴァ?」
「どうもこうも。怪しさの塊だろう」
「そう思うわよねえ」
銀の乙女亭だっけ……覚えておこうっと。
勿論、関わらない為だけど。
「現代での価値は知らん。場所によるんじゃないか?」
そんな役に立たないアドバイスを聞いた私は、拠点の機能で久々にジョゴダの町に戻ってきていた。
ほんと久々よね……何日ぶりだったかしら?
相変わらず色んな人が行き交っているけど、お店をやっているのは魔族ばっかり。
こうしてみると、力関係がよく分かるって感じだわ。
「不動産屋とかはないんだったわよね」
「……貴様の言っていた土地物件の仲介専門業か。そんなものは恐らくだが存在しないだろう」
「そっか、残念」
「売り出している家であれば、札がかかっているはずだ。それを探せ」
こんな会話をしているけど、アルヴァは今は私の腕輪になっている。
見た目は金細工に赤い宝石のついた、ちょっと派手な感じのやつ。
あんまり私の趣味じゃないけど、アルヴァ曰く私の服のデザインに寄せたらしい。
それでも1人で会話してる変な奴と思われそうだけど、意外と誰も気にしてない。
……人間に興味がないだけかもしれないわね。
「えーと……あ、早速あったわね。金貨40枚で月払い……?」
中央通りにあった建物にかかった札を見ると、そんな事が書いてある。
店舗利用可、その他応相談……高くないかしら。
「まあ、地方の町とはいえ町の中心近くならこんなものだろうな」
「地方でこれなら、王都とかどうなってるのよ……」
「ふむ……ああ、そうか。いっそ王都の方に行くのもいいかもしれないな」
「なんでよ。そんなお金ないわよ?」
何言ってるんだコイツという気持ちを込めてアルヴァに言うと、アルヴァはフンと笑う。
「逆だ。王都だからこそ存在するものもある」
「……それって?」
「貴様は知らんだろうが、魔族の歴史は長い。しかし諍いも多く、王都が滅びるような事件も歴史上は何度かあった」
「うん」
「つまり……廃棄街と呼ばれるような区画が存在する」
え……それって、まさか。
「そこに住めっていうの? 廃棄街とかいうとカッコよさげだけど、スラムじゃないの?」
「そんな良さげなものではない。文字通りに廃墟だ」
「もっとダメじゃないの」
「だが、タダだ。しかも何をやっても文句は言われないし、申請すれば住所として登録も出来る」
「……そうなの?」
「勿論、まともな行政サービスなど期待できんがな。だが、貴様には逆に良かろう?」
「それは、まあ」
そうかもしれないけど。でも、それって正直どうなのかしら。
「そもそもの話、王都の連中程他人に興味のない連中もいない。貴様のような異物を隠すにはもってこいだ」
「異物って」
否定はしないけど……うーん。
「幸いにも、E級冒険者としての身分証もある。問題もない」
「そういうものかしら」
「そういうものだ」
王都、ねえ。そう聞くと悪くない気はしてきたけど。
「でも、私……場所分からないわよ?」
「遷都しているのでなければ俺が場所を知っている」
「まあ、それなら」
どうせ、拠点にリターンホームで戻るんだし……そういうことなら、王都の廃棄街とかいうのに住むのもいいのかもしれないわよね。
そんな場所なら、あまり探り入れてくる人もいないだろうし。
「じゃあ、早速行きましょうか」
「今からか?」
「うん。私の場合、アレがあるから荷物なんていらないもの」
「……ああ、まあ……そうだな」
リターンホームの事を知っているアルヴァは渋い声を出すけど、実際リターンホームがあればテント要らずの荷物要らずよね。拠点に全部放り込めばいいし、帰ればいいんだもの。
「それなら、北門から出ろ。王都はその方角だ」
「分かったわ」
頷いて北門を目指し、私は歩く。獣人にゴブリン、オウガ、人間……色々いるけど、人間は肩身が狭そうというか……。
「ちょっと、そこのお嬢ちゃん」
「え?」
突然声をかけられて振り向くと、そこには人の良さそうな表情を浮かべた人間の男の姿。
なんとなく高級そうな服を着てるけど……町の人?
「あまり見たことがない顔だけど、旅の人かい? ご両親は何処だい?」
「あー……ご心配ありがとうございます。大丈夫です」
「そうかい? もし1人なら、気をつけなきゃいけない。人間の女の子が1人で暮らすには、色々と危ないからね」
うーん……ただの良い人?
まあ、あまり心配されるような強さじゃないって自覚はあるんだけど。
私がこの場をどう去ろうかと考えていると、男の人は私に笑いかけてくる。
「私は王都で店をやっていてね。もし仕事に困ったなら、来るといい。同じ人間の苦境を放ってはおけないしね」
「はあ……」
「銀の乙女亭、という店だ。ナグルの名前を出せば話が通るはずだから」
そう言うと男の人……ナグルは去っていく。
「……どう思う、アルヴァ?」
「どうもこうも。怪しさの塊だろう」
「そう思うわよねえ」
銀の乙女亭だっけ……覚えておこうっと。
勿論、関わらない為だけど。
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