召喚世界のアリス

天野ハザマ

文字の大きさ
26 / 58
異界の国のアリス

王都

しおりを挟む
「おおー、此処が王都……!」

 アゼルさん達と出会ってから、更に数日後。
 紹介状代わりの家紋入りペンダントを押し付けられ……もとい、貰った私は王都の中を見回していた。
 アゼルさん達は私を招待したがってたけど、あれ以上はなんかこう……なんだかんだで丸め込まれそうな気がするので遠慮しておいた。
 何しろ、あの数日で「とりあえず王都で会う」約束までさせられてしまったのだ。商人、超怖い。
 そんなアゼルさん達の代わりに今私の隣に居るのは、人型をとっているアルヴァだ。
 周囲を見回していたアルヴァはやがて、つまらなそうにフンと鼻を鳴らす。

「相変わらずつまらん場所だ。危機感がない」
「町に危機感とかいらないでしょ……」

 危機感のある町って何よ。アポカリプスなの?

「この場所にいる魔族は、誰もが自分の未来を疑っていない。今日と同じ明日が来ると信じているのだ」
「それは、そうでしょ。首都なんだし。そこに住んでるってだけで自慢になるでしょ?」
「フン、ならばよく周囲を見てみろ」

 言われて、私は周囲を見回す。すると……。

「うっ……」

 さっきは気付かなかった、ギラつく視線が幾つも、幾つも。
 私を見ているものもあれば、別の何かを見ているものもある。
 そのどれもが……この町の住人であろう、人間の視線。

「ええ……なにこれ……?」
「此処は確かに王都、国の中心だ。だが魔族の国の中心であって、人間の国の中心ではないということだ」
「ど、どういうこと?」
「つまるところ、人間には優しくない。殊更に差別しているわけでもないが、優遇はされていない」
「な、なるほど?」
「分かっていない顔をしているな」

 チッ、と舌打ちするとアルヴァは私の頭をコツコツと叩いてくる。ちょっと、何するのよ。

「この中身の詰まってない頭でも分かるように言うとだな、『優遇されているかいないか』というのは、見方によっては差別に見える。たとえそれがどれほど合理的なものであろうとな」
「……」
「そして優遇されていない側がそれを差別と受け取った時、そこには不満が蓄積する。それが合理的で正しく、優遇されていないのが正しい事だとしてもだ。そしてその不満が蓄積した結果……どうなると思う?」

 ……なるほど、そう言われると何となくだけど理解できる。
 とっても難しい問題だ。たぶん、私の頭では正解を導き出せないくらいに。
 つまるところ、この国は魔族の国で、当然魔族の為の優先策が多数ある。
 だからこそ人間には生き辛くて、それが不満に繋がってる……ってことなんだろう。

「みんな平等……ってわけにはいかないんだよね」
「言葉面は立派だがな、それは滅びの呪文に近い。特に今の人間と魔族の関係性ではな」
「……難しいね」
「それが分かっていれば上等だ。悩むのは為政者の連中の仕事だ」

 フッと笑うアルヴァを見上げて、私は思わず問いかける。

「なら、私の仕事って何?」
「平穏を目指すことじゃないのか? 無理だと思うがな」
「なら、アルヴァは?」
「魔導の深淵を追求する事だ」

 それを聞いて、私は大きく頷く。
 ……そうだよね。私がちょっと強いからって、どうにか出来る問題でもない。
 何より、どうにかしていい問題でもない。
 それより私が今気にすべきことは。

「……で、さ。それは分かったけど、私に突き刺さる視線は何なの?」
「決まっているだろう。貴様を何かに利用できないか考えているのだ。恐らくは、何かの商品としてな」
「それって違法奴隷とかいう……」
「娼館に売り飛ばすというセンもあるだろうな」
「うわあ……」

 私が思わずドン引いた顔になると、アルヴァは「だが」と続けてくる。

「俺が一緒に居るからな。あからさまに貴様を騙そうと近寄ってくる奴は居ないだろう」
「アルヴァがいると何か違うの?」
「傍目に今の状態を見れば、貴様は俺という魔族の庇護を受けている人間だ。つまるところ、生活の安定などを餌に騙す余地がない……ように見える」

 ……なるほど、庇護者。アルヴァが、ね。
 そりゃまあ、身長差とかを考えれば妥当ですけど?

「養ってるのは私じゃないの」
「別に貴様に養われている覚えはないぞ」
「カレー食べたじゃない」
「食わずとも平気だし、貴様の理不尽を体験させられたのは明らかな被害だ」

 しばらく睨み合う私とアルヴァだったけど、やがて同時にフンと視線を逸らす。

「まあ、いいわ。今はえっと……廃棄街に行かないとだし」
「そうだな。貴様のアレについてはいずれ丸裸にしてやるつもりだが、まずはそれだ」
「……なんか一々言い方が変態くさいのよね」
「貴様というやつは……」

 そんな言い合いをしながら、私とアルヴァは廃棄街に向けて歩いていく。
 段々と人通りの少なくなっていく道。明らかな治安の低下が、その道中にはあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...