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異界の国のアリス
どうすればいいのかな?
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この件については、何か手段を考える。そう言ったハーヴェイと別れて、私とアルヴァは自宅に戻ってきていた。
普通であれば自宅への襲撃を警戒するところだけど、我が家に関してはその問題はない。
何しろ現役の魔王様が入れなかった家だ。その辺の悪党が入ってこれるとも思えない。
そして私は……クッキーと紅茶を前に、唸っていた。
「むー……」
「何をそんなに悩むことがある」
「そりゃ悩むでしょ。どうしたらいいのよ、こんなの」
「どうもこうもない。何もするな」
「えー?」
「何がえー、だ」
「だってさー。当事者よ? 私」
成り行きとはいえ、狙われているのだ。自分で解決しようとして何が悪いっていうのよ。
そんな事を考えている私を見通したかのように、アルヴァは紅茶のカップを机に置く。
……なんだかんだコイツ、この家のビックリ構造に適応してるわよね。
「いいか。今代の魔王は『考える』と言ったんだ」
「そうね。でも解決できるとは言ってないでしょ?」
「貴様の頭と一緒にするな。奴の言う『考える』とは具体的手段を整えるということだ」
「それは私だって同じじゃないの」
「全然違う。貴様のは場当たり的な解決だろう」
否定はしないけど。むー。
「だったら、その具体的手段って何よ。潰すのに変わりはないんでしょ?」
「それはそうだろう。放置する理由がない。だが潰すにも段取りというものが要る。貴様とて、先程の会話……少しくらいは理解した部分もあるだろう?」
「要はただやっつけるだけじゃ戦争の理由にされちゃうってことでしょ?」
「そのままだな」
「こんにゃろう……つまり、あれでしょ? えーと」
こういうのなんて言うんだっけ。やっつけても「仕方ない」と許されるようなやつ。
えーと……えっと。あ、思い出した。
「大義名分だ。こっちが正義で、やられた奴は自業自得だってやつ。それを探すつもりってことよね」
「そういうことだ。違法奴隷取引の組織と一言には言うが、奴隷が違法なのは魔族の国の話だ。人間の国では、その理屈は通用しない」
「うわあ……じゃあ何? 奴隷は違法だから潰したって理由には文句が出るってこと?」
「その可能性が高い」
「つくづく嫌だわー、人間の国」
絶対近寄らないぞ、私は。
まあ、ともかく……奴隷取引自体は大義名分にならない、と。
「でも私をどうにかしようとしてた所から見るに……連中、誘拐組織でもあるんでしょ? それが理由にはならないの?」
「なる。だが難癖だと言われないように相応の証拠を揃える必要があるだろうな」
「ふーん……」
つまり、そっちの方向で何とかしないといけないってことかあ。
でも、難しそうだよなあ。そんな事を考えていた私は……ふと「彼等」の事を思い出す。
「あ、そういえば……奴隷取引を追ってる冒険者と私、会ったわよ」
「何? 俺はそんな奴は記憶にないが」
「貴方に会う前の話だし」
私は、この世界で最初に会った冒険者……グレイたちの事を話す。
大人しく聞いていたアルヴァは、やがて聞き終わる頃にはソファに身体を投げ出していた。
「そうか。随分とやらかしていたようだな」
「それは否定しないけど」
グレイたち、私が超強いってこと知ってるしね。ほんと良い人たちだったなあ。
「だが、魔法薬か……その線から追うのは悪くなさそうだ」
「そうなの?」
「ああ。魔法薬というものは、ポーション1つであっても作成者のクセが出る。相手を抵抗できなくするような魔法薬ともなれば、恐らくは規制対象であるのは間違いない。そこから絞り込みも出来るし、追い詰める事とて可能だろう」
おお、なんか探偵みたいだわ。名探偵アルヴァ。あれ、でもそうなると私がワトスン君?
ええい、こんな美少女なワトスンがいてたまるもんですか。
「何やら馬鹿な事を考えている顔だが、続けるぞ」
「私はいつだって大真面目よ」
「そうか、残念な奴だ」
こんにゃろう、ぶっ飛ばしてやろうかしら。
立ち上がりかけた私にアルヴァがクッキーを投げてきて、思わずキャッチする。もぐもぐ。
なんかお腹空いたかも。もう1枚食べよっと。
「その冒険者どもに話を聞いてみる必要があるな。得られた情報を今代魔王に渡せば、そこから追い詰める事も可能だろう」
「直接ハーヴェイのところに連れていくんじゃダメなの?」
その方が話が早そうな気がするんだけど。
「それでもいいが、せっかくフリーで動いているんだ。紐付きにする必要もないだろう」
「そういうものかしら」
「そういうものだ。魔王……というか国の動きは当然警戒しているだろうからな」
「あー、そっか」
こういう場合、城にスパイがいるってのも定番よね。
「あっ、思いついた」
「聞きたくないが言ってみろ」
「なんで聞きたくないのよ」
「どうせロクなアイデアじゃないからだ」
コイツの中で私の評価、どうなってんのかしら。
「そうは言うけどねー。聞いたら驚くわよ!」
「そうか。聞くだけ聞こう」
「魔王城でクローバーボムをぶちかます! そうすると私の敵だけが消滅するから自ずと」
「自ずと指名手配だな。もういい、貴様は頭を使おうとするんじゃない」
結構いいアイデアだと思ったんだけどなあ……。
普通であれば自宅への襲撃を警戒するところだけど、我が家に関してはその問題はない。
何しろ現役の魔王様が入れなかった家だ。その辺の悪党が入ってこれるとも思えない。
そして私は……クッキーと紅茶を前に、唸っていた。
「むー……」
「何をそんなに悩むことがある」
「そりゃ悩むでしょ。どうしたらいいのよ、こんなの」
「どうもこうもない。何もするな」
「えー?」
「何がえー、だ」
「だってさー。当事者よ? 私」
成り行きとはいえ、狙われているのだ。自分で解決しようとして何が悪いっていうのよ。
そんな事を考えている私を見通したかのように、アルヴァは紅茶のカップを机に置く。
……なんだかんだコイツ、この家のビックリ構造に適応してるわよね。
「いいか。今代の魔王は『考える』と言ったんだ」
「そうね。でも解決できるとは言ってないでしょ?」
「貴様の頭と一緒にするな。奴の言う『考える』とは具体的手段を整えるということだ」
「それは私だって同じじゃないの」
「全然違う。貴様のは場当たり的な解決だろう」
否定はしないけど。むー。
「だったら、その具体的手段って何よ。潰すのに変わりはないんでしょ?」
「それはそうだろう。放置する理由がない。だが潰すにも段取りというものが要る。貴様とて、先程の会話……少しくらいは理解した部分もあるだろう?」
「要はただやっつけるだけじゃ戦争の理由にされちゃうってことでしょ?」
「そのままだな」
「こんにゃろう……つまり、あれでしょ? えーと」
こういうのなんて言うんだっけ。やっつけても「仕方ない」と許されるようなやつ。
えーと……えっと。あ、思い出した。
「大義名分だ。こっちが正義で、やられた奴は自業自得だってやつ。それを探すつもりってことよね」
「そういうことだ。違法奴隷取引の組織と一言には言うが、奴隷が違法なのは魔族の国の話だ。人間の国では、その理屈は通用しない」
「うわあ……じゃあ何? 奴隷は違法だから潰したって理由には文句が出るってこと?」
「その可能性が高い」
「つくづく嫌だわー、人間の国」
絶対近寄らないぞ、私は。
まあ、ともかく……奴隷取引自体は大義名分にならない、と。
「でも私をどうにかしようとしてた所から見るに……連中、誘拐組織でもあるんでしょ? それが理由にはならないの?」
「なる。だが難癖だと言われないように相応の証拠を揃える必要があるだろうな」
「ふーん……」
つまり、そっちの方向で何とかしないといけないってことかあ。
でも、難しそうだよなあ。そんな事を考えていた私は……ふと「彼等」の事を思い出す。
「あ、そういえば……奴隷取引を追ってる冒険者と私、会ったわよ」
「何? 俺はそんな奴は記憶にないが」
「貴方に会う前の話だし」
私は、この世界で最初に会った冒険者……グレイたちの事を話す。
大人しく聞いていたアルヴァは、やがて聞き終わる頃にはソファに身体を投げ出していた。
「そうか。随分とやらかしていたようだな」
「それは否定しないけど」
グレイたち、私が超強いってこと知ってるしね。ほんと良い人たちだったなあ。
「だが、魔法薬か……その線から追うのは悪くなさそうだ」
「そうなの?」
「ああ。魔法薬というものは、ポーション1つであっても作成者のクセが出る。相手を抵抗できなくするような魔法薬ともなれば、恐らくは規制対象であるのは間違いない。そこから絞り込みも出来るし、追い詰める事とて可能だろう」
おお、なんか探偵みたいだわ。名探偵アルヴァ。あれ、でもそうなると私がワトスン君?
ええい、こんな美少女なワトスンがいてたまるもんですか。
「何やら馬鹿な事を考えている顔だが、続けるぞ」
「私はいつだって大真面目よ」
「そうか、残念な奴だ」
こんにゃろう、ぶっ飛ばしてやろうかしら。
立ち上がりかけた私にアルヴァがクッキーを投げてきて、思わずキャッチする。もぐもぐ。
なんかお腹空いたかも。もう1枚食べよっと。
「その冒険者どもに話を聞いてみる必要があるな。得られた情報を今代魔王に渡せば、そこから追い詰める事も可能だろう」
「直接ハーヴェイのところに連れていくんじゃダメなの?」
その方が話が早そうな気がするんだけど。
「それでもいいが、せっかくフリーで動いているんだ。紐付きにする必要もないだろう」
「そういうものかしら」
「そういうものだ。魔王……というか国の動きは当然警戒しているだろうからな」
「あー、そっか」
こういう場合、城にスパイがいるってのも定番よね。
「あっ、思いついた」
「聞きたくないが言ってみろ」
「なんで聞きたくないのよ」
「どうせロクなアイデアじゃないからだ」
コイツの中で私の評価、どうなってんのかしら。
「そうは言うけどねー。聞いたら驚くわよ!」
「そうか。聞くだけ聞こう」
「魔王城でクローバーボムをぶちかます! そうすると私の敵だけが消滅するから自ずと」
「自ずと指名手配だな。もういい、貴様は頭を使おうとするんじゃない」
結構いいアイデアだと思ったんだけどなあ……。
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