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異界の国のアリス
挿話:アルヴァの考察
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……目の前で無邪気に喜んでいるコイツには、中々言い難いことではあるが。
この違法奴隷商事件は、思ったよりも根が深いだろう。
そもそもの話、鉤鼻の魔女が主犯であったとする説は筋が通ってはいるが多少の無理がある。
鉤鼻の魔女が主犯であるとして、「転生魔法」を餌に現状に不満を持つオウガを手駒として更に人間どもを動かし、「天眼」を集める目的隠しとして大規模な「人間奴隷」の売買を始めた……ということになる。
一言で言おう。あまりにも迂遠に過ぎる。
元々魔女どもは閉鎖的なコミュニティの中で生きていて、何かあれば自分たちで解決しようとする傾向にある。
あのリーゼロッテとかいう魔女が最初アリスに絡んでいったのも、同族の犯行を疑い「それっぽい容姿」をしたアリスを捕まえようとしたから……もっと言えば、独力での捜査をしていたからに他ならない。
そんな連中であれば、転生魔法が目的であると気付いても魔王や官憲に頼ると決めるのに大分時間がかかる。その間に鉤鼻の魔女は目的を達成できていたはずだ。
だというのに、わざわざ人間奴隷の事件を起こす必要がある?
ハッキリ言って、ほとんど意味がない。
人間と間違えて魔女をさらったと言い張る為の理由作り?
有り得ない。魔女とて魔族の一員だ。そんな連中が何人もさらわれたともなれば、間違いなく人間以外の何者かの関与を疑うし、その時点で魔国の捜査は本格的なものへと変わるだろう。
そう、一連の違法奴隷事件と魔女誘拐事件は、互いに邪魔しあっているのだ。
鉤鼻の魔女がただのアホということであれば、それでもいいのだろうが……いや、実際に鉤鼻はアホだろう。
よりにもよってアリスを狙った。それに関しては以前の俺も似たようなものではあったが、まあそれはいい。
問題はそこではなく、悲願であるはずの転生魔法を完成させるよりも前にアリスに手を出したことが問題なのだ。しかも魔王にバレかねない転送魔法を使ってまで……だ。
これはつまり、鉤鼻の魔女が欲望を抑えきれない性格であることを示しており……魔王や魔国の動きに配慮するような緻密な動きを出来ないという証拠に他ならない。
ならば、これは何を意味しているのか?
……簡単だ。鉤鼻の魔女は計画がバレた時のスケープゴートだ。
主犯であると納得できるだけの力と証拠、手先となるオウガどもの存在。
そして、いかにもと言わんばかりの証拠書類の数々。
ああ、断言しよう。この事件には裏がある。
おそらくソレにとって、転生魔法も違法奴隷による利益もどうでもいいのだ。
ソレが狙っているのは、混乱。転生魔法も違法奴隷も、その為の手段に過ぎないのだろう。
そして俺は……そういう事をするモノに、多少の心当たりがある。
「どしたのアルヴァ、なんか難しい顔して」
「ずっとムッツリしてますわよ? この方、表情の変化とかあるんですの?」
「よく見るとあるよ。たとえばこの辺りにシワがよってると」
「触るな」
「なにさケチ」
ええい、気楽な連中め。そもそもアリスのやつめ、この家に魔女を引き込むとは。
連中のコミュニティに組み込まれでもするつもりか?
アイツらは魔法が好きすぎて天眼に記録するような魔法フェチどもだぞ?
この家の存在が連中のコミュニティに流れたらどうなることか……いや、違う。
思考を元に戻そう。
ともかく、この事件はこれでは終わらないだろう。
魔王がどの程度まで切り込めるかが今後を占うカギになるだろうが……まあ、あまり期待はできまい。
今代魔王は苛烈な部分もあるにはあるが、基本的には調和を重視している。
それを崩すような行動には、容易に踏み込めないだろう。
そんな事が出来るのは、余程バランス感覚に優れたものか……あるいは深くものを考えない馬鹿のどちらかだ。
「だから触るな」
「いいじゃん。減らないでしょ」
「そういう問題ではない」
……遠からず、再び何かが起こるだろう。俺は積極的に口出しなどしないし、平穏だの何だのと言ってるコイツは関わりたがらないだろうが……予感はある。
どうせコイツは関わるのだろうな、と。
そしてその時、きっとまた中枢に斬りこむのだ。
平穏だの平和に生きたいだのと言いながら、あの剣を握りしめて。
きっと、何もかもを斬り裂くのだ。
この違法奴隷商事件は、思ったよりも根が深いだろう。
そもそもの話、鉤鼻の魔女が主犯であったとする説は筋が通ってはいるが多少の無理がある。
鉤鼻の魔女が主犯であるとして、「転生魔法」を餌に現状に不満を持つオウガを手駒として更に人間どもを動かし、「天眼」を集める目的隠しとして大規模な「人間奴隷」の売買を始めた……ということになる。
一言で言おう。あまりにも迂遠に過ぎる。
元々魔女どもは閉鎖的なコミュニティの中で生きていて、何かあれば自分たちで解決しようとする傾向にある。
あのリーゼロッテとかいう魔女が最初アリスに絡んでいったのも、同族の犯行を疑い「それっぽい容姿」をしたアリスを捕まえようとしたから……もっと言えば、独力での捜査をしていたからに他ならない。
そんな連中であれば、転生魔法が目的であると気付いても魔王や官憲に頼ると決めるのに大分時間がかかる。その間に鉤鼻の魔女は目的を達成できていたはずだ。
だというのに、わざわざ人間奴隷の事件を起こす必要がある?
ハッキリ言って、ほとんど意味がない。
人間と間違えて魔女をさらったと言い張る為の理由作り?
有り得ない。魔女とて魔族の一員だ。そんな連中が何人もさらわれたともなれば、間違いなく人間以外の何者かの関与を疑うし、その時点で魔国の捜査は本格的なものへと変わるだろう。
そう、一連の違法奴隷事件と魔女誘拐事件は、互いに邪魔しあっているのだ。
鉤鼻の魔女がただのアホということであれば、それでもいいのだろうが……いや、実際に鉤鼻はアホだろう。
よりにもよってアリスを狙った。それに関しては以前の俺も似たようなものではあったが、まあそれはいい。
問題はそこではなく、悲願であるはずの転生魔法を完成させるよりも前にアリスに手を出したことが問題なのだ。しかも魔王にバレかねない転送魔法を使ってまで……だ。
これはつまり、鉤鼻の魔女が欲望を抑えきれない性格であることを示しており……魔王や魔国の動きに配慮するような緻密な動きを出来ないという証拠に他ならない。
ならば、これは何を意味しているのか?
……簡単だ。鉤鼻の魔女は計画がバレた時のスケープゴートだ。
主犯であると納得できるだけの力と証拠、手先となるオウガどもの存在。
そして、いかにもと言わんばかりの証拠書類の数々。
ああ、断言しよう。この事件には裏がある。
おそらくソレにとって、転生魔法も違法奴隷による利益もどうでもいいのだ。
ソレが狙っているのは、混乱。転生魔法も違法奴隷も、その為の手段に過ぎないのだろう。
そして俺は……そういう事をするモノに、多少の心当たりがある。
「どしたのアルヴァ、なんか難しい顔して」
「ずっとムッツリしてますわよ? この方、表情の変化とかあるんですの?」
「よく見るとあるよ。たとえばこの辺りにシワがよってると」
「触るな」
「なにさケチ」
ええい、気楽な連中め。そもそもアリスのやつめ、この家に魔女を引き込むとは。
連中のコミュニティに組み込まれでもするつもりか?
アイツらは魔法が好きすぎて天眼に記録するような魔法フェチどもだぞ?
この家の存在が連中のコミュニティに流れたらどうなることか……いや、違う。
思考を元に戻そう。
ともかく、この事件はこれでは終わらないだろう。
魔王がどの程度まで切り込めるかが今後を占うカギになるだろうが……まあ、あまり期待はできまい。
今代魔王は苛烈な部分もあるにはあるが、基本的には調和を重視している。
それを崩すような行動には、容易に踏み込めないだろう。
そんな事が出来るのは、余程バランス感覚に優れたものか……あるいは深くものを考えない馬鹿のどちらかだ。
「だから触るな」
「いいじゃん。減らないでしょ」
「そういう問題ではない」
……遠からず、再び何かが起こるだろう。俺は積極的に口出しなどしないし、平穏だの何だのと言ってるコイツは関わりたがらないだろうが……予感はある。
どうせコイツは関わるのだろうな、と。
そしてその時、きっとまた中枢に斬りこむのだ。
平穏だの平和に生きたいだのと言いながら、あの剣を握りしめて。
きっと、何もかもを斬り裂くのだ。
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