勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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永遠に

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 そしてまた、時間は巻き戻る。
 たった一人で暗い空間に投げ出されたイクスラースではあったが、他の者達とは少々状況が異なっていた。

「……なにこれ。どう判断すればいいのかしら」

 目の前にあるのは、暗い空間を貫く光の道。
 丁度人一人が通るのに丁度よさそうな幅のそれは、イクスラースを導くかのように目の前にある。
 まあ、普通に考えるならば「この道を通れ」という意味なのだろうが……闇の神の試練で「光」に導かれるというのもまた奇妙な感覚だ。
 奇妙ではあるが……わざわざ「光の道」を外れるというのも愚かしい話だろう。
 だからこそ、多少の警戒を抱きながらもイクスラースは光の道へと踏み出し歩き出す。

「……何も無いわね」

 最初の数歩は警戒していたものの、何も起こりはしない。
 てっきり道から蹴落とすような「何か」があると思っていただけに、少し拍子抜けしながらもイクスラースは歩く。
 ……だが、勿論それで終わるはずなど無い。
 歩いた先……道の両端に、「何か」が立っているのをイクスラースは見つける。
 疑問に思いながらも、歩みを進め……「それ」がよく見える距離まで来たとき、イクスラースはぎょっとする。
 道の端に立っていたそれ等は、人間であったのだ。
 知っている顔、知らない顔……様々な人間達が、道の端に立っている。
 そしてそれ等はイクスラースに気づくと、一斉に顔を向ける。
 ぼうっとしていた顔は一気に歪み、その口から言葉が溢れ出す。

 許さない。
 殺してやる。
 どうしてお前が生きているんだ。

 響く。
 怨嗟の声が響く。
 闇の中に、ぼうっと浮かび上がる影達。
 怨嗟の声をあげるソレ等は様々な表情を浮かべ、輝く道の端に立っている。
 憤怒。
 慟哭。
 同情。
 浮かべる表情こそ千差万別なれど、吐き出す言葉はどれも変わらぬ怨嗟の群れ。
 全てが知っている人間ではない。
 だが、理解できる。
 この全ては、イクスラースが「イクスラース」に至るまでに殺してきた人間達だ。
 ヴェルムドールによってその頃の記憶の幾らかを思い出している今だからこそ、理解できてしまう。
 この場に在るのは、自分が……自分「達」が生み出した、罪であるということに。
 しかし、同時に理解してもいる。
 此処に在るのは、所詮幻である。
 だからこそ、自分がするべきことは此処を通り抜けることである……と。

「殺してやる……殺して……ガアアアッ!」

 横を通るイクスラースに襲い掛かろうとした血塗れの男が、現れた光の壁に凄まじい音を立てて弾かれる。
 そのあまりの音にイクスラースは足を止めて……そうして、その瞬間に周囲の光景が切り替わる。
 光の道はそのままに、しかし道の端に立つ屍達も消える。
 そして代わりに現れたのは、行く手に立ち塞がる武器を持った者達。
 それは先程まで道の端に居た者達で……歓喜の表情を浮かべる者すらいる。
 しかし、その数は尋常ではない。
 この無限にも思える空間を埋め尽くすほどに広がる人々の群れは、数える気すら起きてはこない。

「……意地の悪い試練ね」

 イクスラースは、腰の黒薔薇の剣へと手を伸ばす。
 行く手にいる彼等は確かに、イクスラースの前世達が殺した被害者達なのだろう。
 その罪から逃れるつもりはないし、背負い続けるつもりでもある。
 ……だが、この場にいる彼等は違う。
 彼等は所詮、幻に過ぎない。
 そんなものに殺されて終わるのは、自己満足に過ぎないのだ。

「殺してやる……殺してやるぅぅぅっ!」
「嫌よ」

 剣を構えて突っ込んできた男を斬り捨てると、男は血を溢れさせながらドサリと倒れる。
 
「私は此処で倒れるわけにはいかないの。殺されて終わるほど、私の抱えた物は軽くない」

 そうして先に進もうとして……しかし、その足を背後から掴まれる。

「ふざ……けるな……」
「ちょっと、離しなさい」
「俺は、お前を許さない……お前が俺の家族にしたように、俺もお前を……!」

 イクスラースの記憶に、その男の姿は無い。
 恐らくは前世のどれかが殺した男なのだろうが……蘇った記憶が完全ではない以上、それを判別する術も無い。

「い、今だ! 全員でかかれ!」
「うああああ!」

 その様子を「足止めできている」と判断したのだろうか。
 残りの者達も一斉に走ってくるのを見て、イクスラースは仕方無さそうに溜息をつく。

「本当に意地が悪いわ、ダグラス様。幻といえど、ここまで深く干渉すれば現実と同じ。つまり、贖罪などと嘯いて殺されれば……私は本当に死ぬ」

 引き抜いた黒薔薇の剣を、イクスラースは男へと突き刺す。
 断末魔の悲鳴をそのままに、イクスラースは前方へと手の平を向ける。

「でも、そうね。命の神を相手にしたいのならこのくらいは出来ないといけない。それに……元より私は過去の「私」の全ての罪を背負うと決めている」

 こちらに向かってくる人々の群れ。
 そこに光撃アタックライトが撃ち込まれ、先頭の一人がぐらりと倒れる。

「ひ、ひいいっ!?」

 明らかに絶命しているそれを見て、周囲の者達が悲鳴をあげる。
 自然と人々の足は止まり、ざわざわとざわめき始める。
 そんな彼等の状態を説明するのは簡単だ。
 つまるところ、殺される覚悟など出来てはいないのだ。
 いや、そもそも「殺す覚悟」すらあったかどうかは不明だろう。
 怒りや復讐心といった感情は相手を殺すのには便利であるが、それは「覚悟」と必ずしも一致しない。
 何故ならば、怒りや復讐心は「衝動」であり、覚悟は「変革」であるからだ。
 己の在り様を変化させないままに衝動に突き動かされるからこそ、この程度で揺らいでしまう。
 そうして「衝動」の炎が弱くなった彼等は、狂騒に至る事すら出来なくなった。
 ……だからこそ。

「闇よ、集え。集い広がりて始原の畏れを顕現させたまえ。其は永久の安息、永劫の眠り……」

 だからこそ、「覚悟」を決めてしまっている者の前ではどうしようもなく弱い。

暗黒宮殿ダークパレス

 イクスラースの手に集った昏い輝きが急速に広がり、伸びていく。
 それは惑う人々を飲み込み、絶叫を響かせる。

「……だから、さようなら。貴方達は私を許す必要なんてないし、許されるつもりもない」

 そして誰も居なくなった光の道を、イクスラースは歩く。

「永遠に、私を恨み呪い続ければいいわ。それは私が背負い続けるべきものなのだから」

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