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アルヴァ戦役31
しおりを挟む「勇者……?」
サンクリードの繰り出してくる攻撃を受けながら、フィリアは疑問符を浮かべる。
勇者。
フィリアの知る限りでは、「勇者」は三人しか居ない。
勇者カイン。
勇者トール。
そして、死した後にその魂の行方が分からなくなった勇者リューヤ。
命の流れから消失したリューヤの魂は、ひょっとすると異界に帰ったのかとも思っていたが……。
「まさか、貴方は」
「ザダーク王国西方将、サンクリード。一応だが、勇者でもあるな」
サンクリードの繰り出す剣撃を、フィリアは受ける。
一撃は、重く速い。
だが速さではイチカに及ばず、重さはイチカを多少超える程度。
常人を遥かに超えてはいるが、超人とは言い難い。
なのに、おかしいのだ。
一撃ごとに速さと重さが増しているような、そんな錯覚じみたものを感じる。
「……なるほど、確かに貴方は勇者です」
フィリアのステータス確認魔法でも、確かにサンクリードは勇者だ。
だが、だからといってリューヤが転生したと考えるのは早計だ。
リューヤが転生するならば命の神であるフィリアが把握できないはずがない。
「うっ!」
サンクリードとは反対側から、再びイチカが斬りかかってくる。
イチカが「フィリアを殺す剣」と称した絶剣エンドロウ。
そもそも絶剣は魔神が遥か昔の時代に世界にばらまいた剣であり、数々の英雄譚と同時に悲劇も生み出した代物だ。
魔神が新しく用意した剣ともなれば、フィリアを殺す力が「無い」とは言い切れない。
故にイチカはそれでの攻撃を狙ってくるし、フィリアとしても迂闊に受けるわけには行かない。
対してサンクリードの剣は見間違えようもなく、硬剣である。
どうしてそんなものを持っているかは不明だが、今までの経緯を考えれば幾つかの力を吸収しているのは間違いない。
……そして。
「物語を此処に。いつか夢見た、いつか願った英雄譚。其は幻想なれど、力は此処に。ならば力よ、集え。光よ、集え。悪竜を貫き墜としめる輝ける槍を顕現させよ」
先程生まれたばかりの新たな魔王、イクスラース。
その身に秘めた莫大な魔力を振り絞るかのように詠唱するイクスラースの周囲には、眩いばかりに輝く八つの光球がある。
その魔法の構成法は、魔王シュクロウスの……イクスラースがイクスラースになる前の存在が得意としていたものだ。
確か普通の魔族には使えるような魔法ではなかったはずだが……あるいは、イクスラースの才能というものなのだろう。
「闇神の追撃矢」
ヴェルムドールが放つのは、七つに分かれて襲い来る闇の矢。
名前どおり追撃してくる闇の矢はそれだけでも厄介だが、ヴェルムドールの豊富な魔力を練りこまれたソレは一つ一つが恐るべき威力となってしまっている。
そして何より、魔力や魂に直接ダメージを与える「闇」の力は神に対してもっとも有効な攻撃でもある。
……これを打ち落とすには、手数が足りない。
イチカもサンクリードも片手間に相手をするには強過ぎ、そして全力で相手をするには二人とも強過ぎる。
結果として二人の剣を同時に弾き続けるフィリアに出来ることは、この二人に魔法を使う隙を与えないことだ。
どんな達人でも魔法と剣の切り替えには時間がかかるし、その隙を見逃すほどフィリアは甘くない。
距離をとるなら話は別だが、距離をとるならば即座にフィリアは「もう一人」に全力の剣撃を繰り出すつもりだ。
だが、それはフィリアとて同じだ。
防御に徹しているからこそ防ぎきっているが、一度攻撃に回ればこの二人が容易くこちらに手痛い一撃を加えてくると分かっている。
魔法に関しても同様だ。攻撃魔法などを使う隙は無い。
……だが。
「まだ甘い」
フィリアはイチカとサンクリードをもその範囲に含めたまま、魔法防御を展開する。
白い輝きを持つ魔法防御はヴェルムドールの闇神の追撃矢と正面からぶつかり合い、相殺して消える。
「今のは、まさか」
「命属性の……防御魔法!?」
攻撃の手を緩めないまま驚愕の表情を浮かべるサンクリードとイチカに、フィリアは小さく笑みを浮かべる。
そう、その通りだ。
現代においては回復魔法の代名詞である「命」の属性だが、その本質は他の属性の魔力と変わりない。
回復という他の属性には無い性質があるが故に誰もが思考停止しているだけであり、他の魔法同様に魔法防御も存在する。
これを攻撃に転用すれば文字通り魂を損傷させる一撃となり、それ故にフィリアは伝えてこなかった。
ライフソードを与えたトールは知ってか知らずか魔法剣技として同様のものを連発しているが……まあ、あの程度であれば問題はない。誰もが模倣できるものではないからだ。
本来なら使うつもりもなかったのだが……仕方ないだろう。
「サンクリード……でしたか。貴方の事も気になりますが……まずは!」
イクスラースの詠唱を止めるべく、フィリアは今の一瞬の驚愕の隙をついて上空に生み出したライフソードの群れをイクスラースへと発射する。
殺すつもりはない。
当たると思わせて、詠唱を中断させられたらそれでいい。
ヴェルムドールとて、イクスラースを見殺しには出来ないはず。
当たるか当たらないか分からない状況となれば、攻撃を放棄して飛び出すほか無い。
「……!?」
だがヴェルムドールはイクスラースのいる方角を一瞥しただけで、動かない。
見捨てるのか。それとも殺すはずがないと甘く見積もっているのか。
それとも、まだ何か。
「う……あああああああああああああああっ!!」
イクスラースが通ってきた裏口の方角から、何かが飛び出してくる。
風のように、疾風のように、烈風のように。
剣の群れを叩き落して……まるで物語の英雄か何かであるかのように、それは鮮烈に登場する。
「……よく来たな、勇者。待っていたぞ」
未だ完成せぬ聖剣を携えた、金髪の勇者……カインを視界にとらえたまま、ヴェルムドールはニヤリと笑ってみせた。
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