ブラッディ・マリー

【03】 花嫁候補生アリス

＊032＊ 爆弾、投下

イーズは、何時も通り…全く持って何も変わらず、本当に何時も通りに家に入って行った。
唯一違うのは、出迎えの使用人達が、先程の大事件で新居に入った時に、三々五々散っている事だけだろう。
それぞれの使用人達の頭の中が大パニックになっているという事と共に…。

「ただいま。」

イーズの声を聞き、執事が速やかに玄関口へとやってくる。

「あぁ、イーズ様。お帰りなさいませ。邸内が少し騒めいておりまして、出迎えが遅くなりました。」

執事は、慇懃に頭を下げる。
これが、ウィルの父親である。
ウィルは、父に顔を合わせる事が出来ず、ただただ俯いている。

「父上と母上は何処に居るかな?」
「お二人は、仲睦まじくリビングでお茶を楽しんでおいでです。」

そう言うと、執事はイーズをリビングへと促す。

「お坊ちゃまがお戻りになられました。」
「まぁまぁ…私の可愛い坊や、お帰りなさい。」

イーズの母親は、大きく手を拡げてイーズの帰宅を歓迎する。

「ただ今戻りました、母上。」

イーズもハグをして母の出迎えに応える。

「おかえり、イーズ。」
「無事戻りました、父上。」

次に父親も自慢の息子の帰宅に喜び、手を拡げるので母親の時と同じように、ハグで応える。

「さぁさ、こちらに座って。」

両親の間の席を勧められ、イーズは黙ってそこへと座る。

「ウィルも何時もイーズをしっかりと支えてくれているようだ。感謝する。」

グランディア家当主の言葉に深い敬意と感謝の意を表す。

「勿体無いお言葉です。」

ウィルは、扉の前でグランディア家の再会の様子を見守っていた。
間も無く始まるであろう、死刑宣告の言葉を待つが如く。
本当は逃げ出したくて、お尻が少しだけ後ろに引かれているのだが…。

「何か、使用人達の話によると、貴方がこの敷地にとっても素敵な邸を造ったと聞いたのだけれど、お部屋が足りなかったのかしら?」
「いいえ、母上。この家の僕の部屋はとても気に入っています。でも、蜜月の時間を過ごす為に、もう少しプライベートを大切にしたかっただけですよ。」

綺麗に微笑みかけるイーズの笑顔は、容姿の整った生みの母さえもうっとりとさせる程だった。

「まぁ…いよいよ、お話を進めるのね。」

母親は浮足立った声を上げる。

「えぇ…ようやく、僕の手元へと来たのです。」

イーズは、うっとりとした表情で、アリスが寝ているだろう部屋の方角へと目をやる。

「準備が大変になるわね。」
「えぇ…でも、もう少しだけ、この家に慣れてからの方が良いかと思いますので。」
「そう…? 貴方ならば、何処でも対応出来ると思うのだけれど…?」
「僕は、大丈夫です。でも、アリスは純粋で素直だから…混沌とした貴族の世界でも生きて行けるように導いてあげないと。」
「ア…リス…って誰なの?」

全く噛み合っていない親子の会話の中に、爆弾が投下された瞬間だった。