文学少女が恋した平安

星野空

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満月の夜

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今日は欲しい本が発売されるから本屋へ寄ると母に連絡をして、桜は本屋へ向かった。

桜の住む街には本屋がないため、
桜は隣町まで足を運んだ。

はあ、やっと着いたぁ。

桜が本を買い、本屋を出ると、
1匹の猫がこちらを見つめている。

桜は猫の頭を撫でた。
にゃーん
猫が喉をぐるぐると鳴らし、足元にすり寄ってきた。

黒く艶のある綺麗な毛並み。
輝く瞳。

桜「素敵な猫ちゃんね、   あれ?
      何か首に付けているの?
      わあ!綺麗な鈴!」

青く透き通った鈴はまるで硝子のようだった。
桜は見たことのない綺麗な鈴にうっとりとしていると、猫がトコトコと行ってしまった。

桜「あっ、行っちゃった、、、」

   チリーンチリーン

猫は行ってしまったが、桜には確かに、
あの猫の鈴の音が聞こえた。

   チリーンチリーン

かすかに聞こえる。
何故かあの猫に呼ばれている気がする。

桜が音をたどって行くと、
そこには小さな古い神社があった。

桜「あれ、この辺に神社なんてあったっけ。」

桜は不思議に思った。
この神社には紅い鳥居や、小さな池があった。池には古びた橋がかかっている。
辺りは暗く、木々が揺れているのが少し恐かった。
桜は恐る恐る橋を渡った。

にゃーん

桜「あっ、さっきの猫ちゃん」

少しホッとした。
目の前には御賽銭箱があった。

桜は財布から五円を出して御賽銭箱に入れると、手をぱんぱんっと叩き、手のひらを合わせて目を瞑った。

──どうか、私の恋が叶いますように──


桜「五円には御縁がある!なーんて★」

    チリーンチリーン

猫の鈴が光ったように見えた。

桜「えっ?ひ、光った?まさか、ね」

猫は慌てて橋の方へと走っていくと、
橋の欄干に上り、池を見つめていた。

今日は満月。

水面にゆらゆらと月を浮かべている。

    チリーンチリーン

猫の鈴が風と共に揺れる。

池を眺める猫は今にも落ちそうだった。

桜「あっ!危ない!」

猫が水の中へと、満月の中へと、落ちてゆく。

桜は猫を助けようと急いで走り出した。
欄干に足をかけ、落ちてゆく猫に手を差し伸ばした。
桜も水の中へと落ちてゆく、、、

   チリーンチリーン

ああ。

鈴の音が聞こえる。

優しくて暖かい。私を包み込む。


満月の夜、ひとりの少女が水の中へと落ちていった。

木々が揺れている。
誰ひとり彼女が消えたことに気づくことはなかった。










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