うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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修羅場

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素晴しいッ!オレは美しいピクシークィーンを、カード化して手に入れることに成功した。


早速ダンジョン前室に戻り召喚してみると、やはり何度見ても美しいピクシークィーンが姿を現す。

輝くような金色の長い髪。一点の曇りもなく整った美貌。そして透けるような白い肌に、妖精とは思えないグラマラスなプロポーション。そんな素晴しさが全て70cmほどの小さな姿に詰め込まれていた。

「美しい…これはもはや、最高の美と称しても過言ではないだろう…」

ピクシークィーンは、背中にある透明な翅をたいして動かすこともしないのに浮いている。まぁ相手は妖精でさらにその女王ともなれば、自然と浮いちゃうのだろう。うん、細かい事を気にしてはいけない。

『(すっ…)』
『(そっ…きゅっ)』

そんな彼女に向けそっと手を差し出すと、ピクシークィーンもオレの指を掴んで『なぁに?』といったように小首を傾げる。うん、美しいうえに仕草までもが可愛い。

ほかのピクシー同様にクィーンも言葉は通じないようだが、カードで召喚した存在とは精神的な繋がりを感じるので簡単な意思の疎通は可能。最初にカード化したゴキも、『戦え』って念じて命じたら、スライムと戦いだしたし。

まぁなんにせよホクホクだ。では早速、ピクシークィーンとイチャコラしよう。

…。

『とぷん…』
「ん~~~~ッ!あぁ暗いな、今何時だ…?」

ダンジョンから戻り大きく伸びをすると、朝方なのか夕方なのか部屋のなかは薄暗かった。

「時間は4時か…(ぽち)」
『(パッ)与野党はこの法案に向けての採決を、今週中にも…』

テレビを点けると夕方のニュースが流れていた。ということは朝ではなく、もう夜も近いということだ。

『(ぱしゃぱしゃ…!ニュ~…しゃこしゃこしゃこ…)』

軽く顔を洗い、出かける前に歯を磨く。

(ピクシー達と過ごしてると、時間が経つのが早いなぁ…)

ダンジョンに籠ってピクシー達と過ごしてると、朝昼や日時の感覚も無くなってなんだか竜宮城に行った浦島太郎みたいな気持ちになる。

ところで浦島太郎というと、竜宮城に行って乙姫に歓迎され、鯛やヒラメの踊るのを観て何日も飲み食いして愉しんだとされている。が、ホントに鯛やヒラメの舞い踊るのを観て、そんなに長い時間愉しめるものだろうか?芸をするイルカのショーだって、1時間も観ていれば見飽きてしまうだろうに。

ではなぜ浦島太郎がそんな鯛やヒラメの踊るのを観て何日も愉しめたかというと、浦島太郎は遡ると『浦島子』と呼ばれている漢文が大元らしく、その漢文だと鯛やヒラメの舞い踊る様子は『エッチシーンの意』して書かれているそうな。

漢文だと、『魚比目之興、鸞同心之遊』な感じだ。

魚比目は男女が並んで横になる様を表し、鸞同心は男女マッスルドッキングの事。なるほど、それならば浦島太郎が何日も夢中になってしまうのも止むを得ない。健康な男ならば、誰だってそうなってしまう事だろう。

今のオレが、まさにそうだ。

あ、だからといってピクシークィーンとエッチみたいな事はしていない。ちょっとイチャコラしてるだけだもん。

でもそんなピクシー達からハチミツが無くなったと苦情が起きたせいで、夢見心地から覚めた。それでこうして、ハチミツを買う為に出かける準備をしているという訳だ。

『…これについて自衛隊では、各交通機関や主要幹線道路に影響を及ぼしているダンジョンについて、順次駆除していく方針で調整を進めています』
「(がらがらがら…ぺっ)調整ねえ…。そうはいっても、ダンジョンの一般人立ち入り禁止はまだ続くんだろ…。つまらんな(フキフキ…)」
『がさごそ…』

そうして服を着替え、身だしなみを整える。よし、どっからどう見てもごっついアマゾネスマッチョだ。

まぁいいや、買い物行こ…。


…。


ピクシー達を仲間にできたことで久々に気分も良い。そこで音楽プレイヤーのイヤフォンを装着し曲を流すと、玄関に向かい靴を履く。

(さて、早くハチミツを買って帰ってまたクィーンとイチャコラしよ。と、そうだ。ついでに野菜も買うかな、最近はカマドウマの肉以外まったく食べてなかったし…)

『ガチャ』
「キャッ…!」
「え、瑠羽ッ!?」

玄関の扉を開けたらなぜか扉の前に瑠羽がいて、寸でのところでぶつかってしまうところだった。

「ちょっとルウ!だいじょうぶ!?」

(え、瀬来さんの声?それに仁菜さんの気配まで…、なぜオレの部屋の前に3人が!?)

「ねぇ江月さんッ!(ぐいっ)いったい今まで…エッ!!」

扉を強くひき開いた瀬来さんが顔を見せバチリと目が合う。そして硬直し、息を呑んだ。仁菜さんもオレを見て、とても驚いた表情を見せている。

(う、マズイ、この姿でオレと気付かれては…!)

「ひ、人違いじゃないかな?」
「嘘ッ!今ルウの名前呼んだじゃない!それに…眼を見れば江月さんだって解るよッ!!江月さん如何しちゃったの!なんで、なんで連絡してくれなかったのッ!!」

う…、瀬来さんがあんまり大声を出すものだから、他の部屋の住人さんが不審に思って顔を覗かせてる。いかん、このままここで騒がれては、そのうち警察を呼ばれてしまうかも。

うう、かといってこの状況のまま、どこか店に入って話すというのも…。

「わ、解った、部屋で話そう。とりあえずあがって…」

オレは仕方なく、3人を部屋に上げることにした。

…。

ドドドドドドドドドド…

オレと女子大生3人は、六畳カーペット敷きの部屋で小さなガラステーブルを挟み向かい合った。

重たい空気。重たい沈黙。

真ん中に座った瀬来さんは眦をあげてオレを睨み、プンプンと怒っている。その右手に座る瑠羽は、オドオドして今にも泣きだしてしまいそうに震えている。窓際に座った仁菜さんだけは落ち着いたように微笑を浮かべているが、あれは心情を晒さない為のポーカーフェイスだろう。

「どうして連絡してくれなかったの…!それに、それに…ナニよソレッ!」

重い空気の中、瀬来さんが口火を切った。

そして詰問と、罵倒とも取れるような言葉を浴びた。『ナニよソレッ!』とは…まぁ他に言いようもないか。急に男が女になってたらな。

(さて…。でも何と答えるか?いや…ここまで来て今更恰好をつけても。だな…。この際だ、いっそ本音をぶつけてやれ…)

「どうして?連絡しても返事を返してくれなくなったのは、瑠羽や瀬来さんの方じゃないのか?」
『(ビクッ!)』

オレの言葉に反応して、瑠羽がビクッと肩を震わせた。

「瑠羽には悪かったな、無理にキスしようとして。しかしオレはデートの途中で突然瑠羽が姿を消し、心配でずっと探していた。でも通信端末は電池切れを起こして連絡も取れず、見つけられもしなかった。

だから翌朝は、何度も連絡を入れた。心配して…、瀬来さんにもだ。でも…3日経っても返事は来なかった。瑠羽からも…、瀬来さんからも…。

それでキミらはもうオレのことを拒んでいるのだと思い、通信端末を見るのも嫌になって電源を落とした。それが理由だ。さ、これで理解できたろ?」

感情的にならずに、淡々と話せた。と自分では思う。

ただそれを聞いた瑠羽は手で顔を覆って嗚咽を漏らし始めてしまい、部屋の空気は一層重いモノへと変わってしまった。

「そ、それは、…ッ??」

そんな重い空気のなか、反論か弁明の口を開こうとした瀬来さん。が、スッと立ち上がり黙ったまま歩き出した仁菜さんの動きに何事かと、その動きを止めた。

しかし当の仁菜さんはオレと瀬来さんから向けられた視線を一切気にすることなくテーブルを回ると、なぜかオレの隣にストンと座り直した。

「万智…。ウチ今回は、コォチに味方するでぇ」

「「エェッ!?」」

仁菜さんの突然な宣言に、奇しくもオレと瀬来さんの驚きの声が見事にハモったのだった。
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