うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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異世界転生ドリームとダンジョン食堂

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いつのまにやら、見知らぬ草原に立っていた。

理由は解らない。ただ、いつのまにか…だ。そして狼のようなモンスターに、オレは周囲をガッツリ取り囲まれていた。

『狼のような』とは、ホントに狼のようなモンスターだから。でも狼ではない。姿形は狼に酷似しているが、少々バランスがおかしい。それは1:2…、頭が1で身体が2。比率がまるで赤べこだ。毛並も赤茶色で、それもまた赤べこをオレに想起させた。

だが3頭身だからといって、決してゆるキャラのような甘い存在ではない。

大きな顎からは鋭い牙を剥きだしにして、何匹もがしきりにこちらに襲いかかるタイミングを図っている。

そんな状況に『なぜ…?』と思う間もなく戦闘態勢へと移行。もはや慣れ親しんだともいえる戦いの緊迫感に、自然と意識と身体はそういった反応をみせる。

そうだ…オレはダンジョンで力を得た超人。幾つものスキルを操り、常人に数倍する能力を持っているダンジョン能力者。こんなヤツ等に負ける訳がない。

と、背後から襲いかかってくる気配に向け、振り向き様に一撃を見舞う。

気付けば手には使い込まれたバールが握られていた。ホームセンターで購入し、威力強化の付与を施した武器エクスカリバール。飛びかかってきた赤べこウルフはエクスカリバールによって鼻の骨を砕かれ、顔にバールそのままの凹みを穿たれ吹き飛んでいく。

それを皮切りに、一斉に赤べこウルフたちが襲いかかってきた。

大きな赤い口が視界いっぱいに並んで迫って来る…。が、なんてことなはい。バールを横薙ぎに振るって、まとめて弾き返すだけだ。そんなことを数度繰り返していると、「加勢するぞ!」という声と共に何者かが戦いの輪に飛び込んできた。

声の方向に目をやれば、そこには騎士のような甲冑姿が両手で長い剣を振るっていた。こうして1人から2人になると、あっという間に赤べこウルフは全滅していった。

「助かった、感謝する」

騎士風の男に礼を述べた。大人なので「別に助けとかいらなかったんだけどなぁ~」とか、余計な事は言わないのだ。

「大した腕だ。それにこの辺じゃ見ない顔…どこから来た?」

血を拭った剣を鞘に収めながら、騎士が近づいてくる。

「旅をしてるからな。ただの風来坊だよ」

質問されるとふと異世界転生モノのテンプレが脳内に浮かび、自然と旅人を装う。

「そうか、ボクの名はリディス。リディス・レム・ノーストスという」

兜を脱ぐと、男は名乗った。

西洋人で若く、ものすごいイケメンだ。蒼い瞳に輝くような金髪、白銀の甲冑も見事な設えで陽の光を煌びやかに反射している。そして金髪イケメンは、オレにも名乗るようにと眼で訴えかけてきた。

「リディスか、よろしく。オレの名は…ソルト・エン・イチキログラムだ」

相手の余りのイケメンぷりに悔しくなったオレは、つい対抗してそれっぽい名前を名乗ってしまった。あ、やば…コレって家名詐称罪とかあったら、すごく不味いじゃん。

「イチキログラム家…?ふぅむ、どうも聞いた事のない名だ。いったい―」
「い、今のオレはただの風来坊!それ以上でも以下でもない、ただ風来坊のソルトと呼んでくれ…」

不安に思ってたら案の定家名について突っ込まれた。ヤバイ、そこで強引に言葉を遮ると、物凄く訳あり感を醸してみる…。

「む…そうか、長兄ではないのだな。あ、いや…、それ以上は聞かぬこととしよう」

『これ以上は聞いてくれるな』とジト目で訴えていたら、金髪イケメン騎士は解ってくれたようだ。ホッ…話の分かるヤツで助かった。

「それにしてもソルトはすごい腕っぷしだな。ベイオウルフが一度に何匹も吹っ飛ぶところなんて、初めて目にしたよ」
「む…そうか?いや、リディスの剣も目の覚めるような鮮やかさだった。見事なものだ」

大人なオレは社交辞令で褒められたとしても、相手にもちゃんとそれを返すことができるのだ。

『こうするといい』って、何かのビジネス書で読んだ気がする。で、赤べこウルフは『ベイオウルフ』っていうらしい。うん、べだけ合ってたな、ニアピン賞。

「で、この死んだベイオウルフの山はどうする?街まで持っていけば、報奨金も出るし肉や毛皮は結構いい値で売れるぞ?」
「褒賞金…?」

「そうだ、ベイオウルフは家畜を狙う厄介なモンスター。だから常時討伐の依頼が冒険者ギルドに出ている」
「なるほど、では一緒に倒したんだし、ここは仲良く山分けといこうじゃないか。そうだ、血抜きや臓物はここで抜いたほうが高く売れそうか?手伝ってくれるよな?この辺の事には疎いんだ」

こうして…金髪イケメン騎士リディスと共にベイオウルフを解体していると通りかかった荷馬車を見つけ「分け前渡すから運ぶのを手伝え」等と交渉しているところで目が覚めた。

『次は~…、~…。開く扉にご注意ください…』
(む…?ああ。今日は雨だったから、電車に乗ったんだった…)

整体学校からの帰途、電車の揺れと暖かさが心地良くて、つい眠ってしまったようだ。

にしても異世界転移モノの夢か、すでに力もスキルも手にしてたから実にスムーズな滑り出しだった。ふふ、なんとも続きが気になるな…。


……。


そうして午後18時。自宅に帰ると、地下1層ではなぜか猿が寿司を握っていた。

場所は地下1層の入り口付近。前室に置いてあったタオルで頭にねじり鉢巻きをし、カエルや巨大ナメクジを客に見立てて、寿司を握っていたのだ。

「ギキィ!(ぺしっ!)」

「へいお持ち!」とでも言ったのだろうか?

猿はスライムのドロップである萎びた生八つ橋の上に巨大カニの身を乗せ、さらにその上に魔石をトッピングしてカエルの前に置く。もちろんダンジョンの床にダイレクトプットだ。

『…びゅろ!ぱくっ!ごくんッ!』

それをなぜか猿の前に行儀よく正座したカエルが、舌を伸ばして『びゅろ!』っとキャッチ&イート。ていうか一切噛まずに丸飲みした。

「ギキキィ!(ぺしっ!)」

お、今度は同じ寿司を、巨大ナメクジの前に置いたぞ。どうやら代わり番このようだ。

『(ぬろ~ん…)ズボリズボリ…!』

巨大ナメクジは猿の握った寿司を、その金おろしみたいな口を『ぬろ~ん』と伸ばしてボリボリとむさぼる。う~む、言いたいことは色々とあるが…。猿よ、おまえ絶対に手、洗ってないだろ?

ウンコ投げる手で寿司握るなよ…。

(…て、そうか!こないだオレがやってたのを視て真似てるのか!)

この間というのは、先日のこと。

いつもの如くピクシー達のご機嫌をとるため、前室でお茶会を開いていた。その時果物をピクシー達が食べやすいよう薄くスライスして、寿司やハンバーガーみたいに重ねて渡してたんだ。

『ぴぴぃ!ぴぃぴぴ!』
『はいはい、次はリンゴと桃ね。…へいお待ち!』

なんてやってたのをドロップを置きに来た猿が眼にして、不思議そうに見ていたのを思い出した。

「ふむ…。これは猿が、料理という概念を獲得したという事か…」

小さな進歩だが、この進歩は大事にしたい。

そう思ったオレは、前室の鍵付クーラーボックスからチーズや蒲鉾を取り出すと、食材として猿に渡した。それと、手洗いも合わせて指導した。

「ギッキキィッ!ギッキキィッ!」

新たな食材を手にした猿は興奮し、キラキラとその瞳を輝かせている。

そして創作意欲を搔きたてられたのか、蒲鉾とチーズを両手に握ったまましきりに頭を捻っている。そしてそんな猿のことを、行儀よく待ってやるカエルとナメクジ…。

なんだかあいつら仲が良いなぁ。と、少しだけ羨ましく思った雨の日だった。
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