うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ダンジョンスタンピード第二波 出発

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眼を覚ますとそこは体育館の上、そして景色は雨で灰色に染まっていた。

「江月さん…。目、覚めた?」


「ああ、寝覚めのシャワーでバッチリだ」

顔は雨で濡れびっしょり。

でも『雨に濡れるくらいはなんでも無いよ』と瀬来さんに笑ってみせる。するとそれで安心したのか、瀬来さんは濡れるのを嫌っていそいそと粘液テントの中へと戻って行く。

「3人とも、良く眠れた?」

「んぅ~~ッ!ハァ…。もうぐっすりや!」
「はい。すぐに眠ったと思ったら、もう朝になってました」

テントの中で伸びをしつつ返事を返す仁菜さんに、すっきりと目覚めた様子の瑠羽。昨日は大変な一日だったし、人の凄惨な死に方も目の当たりにした。だから悪夢にうなされやしないかと心配していたのだが、3人ともぐっすり眠れたようだ。

「でも雨だね…」
「う~む、これは厄介だな…」

暗い空を見上げてそう漏らす瀬来さんに、同意。うん…、雨。これは厄介だ。

いうまでも無く雨では索敵範囲が極端に狭まる。視界は悪くなるし、雨音で周囲の音も聴き取り難い。それをオーラ視でカバーを出来なくもないが、始終そんな真似をしていればどんどんと精神力が削れていってしまうだろう。

さらにオレのスキル構成は、非常に雨に弱い。

酸の威力は雨で薄まってしまうし、ベトベト粘液も雨ではうまく効果を発揮しない。塩はまだマシといえるが、それでも塩散撃(ソルトブラスト)のような技は大幅に威力が落ちてしまうことだろう。

「……うぅ」

でも瑠羽がお父さんやお母さんを思って心配そうにしているのを見ると、ツライ…。

『最悪でもこの学校までは辿り着こう』と計算していたが、予定では昨日のうちに瑠羽のお父さんの職場まで辿り着く予定だったのだ。

「とりあえず朝食を摂りながら、みんなで今後の事を相談しようか」

…。

そうして午前9時。

相談の結果、雨天でも移動することに決定し出発。両親の事をひどく心配する瑠羽を慮って、仁菜さんも瀬来さんも移動に賛成したのだ。

ふたりとも家族は離れたところにいて心配だろうに、それをおくびにも出さない所に彼女らの芯の強さが窺える。ならばそんな彼女らを全力で守るのが、オレの役目だ。


で、出発に際し重機ファイターのオッチャンたちとも挨拶を交わす。

「じゃ重機リーダー、学校のことは頼みます。」
「おう、黄金虫の兄ちゃん達も気を付けてな」

オレと重機ファイターのオッチャンは、互いをニックネームで呼ぶ合うくらいには打ち解けていた。そして昨晩語り合ったことで、『彼らもまた子を持つ親として、学校で良からぬ行動に出るような人物たちではない』と、それなりの信用も抱いていた。

「本当に雨のなか出発するのかよ…、遭遇戦にならないよう気を付けろよな万智」
「ご忠告ありがと。アンタも虫が来て、ピーピー泣かないように気を付けなさいよ」

なんというか…シャークと瀬来さんは互いを労わりあいながらも、同時に煽りあっている。ま、これが彼女たちの平常運転か。

…。

が、午前10時半。オレ達は再びシャーク女子高へと戻ってきていた。

出発に際し、少しでもシャーク達の負担を減らしてやろうと学校の周囲をひと回り。そうして目に付いたモンスターを駆除していると、校舎の窓から顔を覗かせた女子生徒たちが『キャー!お姉さまカッコイーッ!』などと黄色い声援。そんな声援を背に受けながら、そのまま進路を北に取ったのだった。

…な訳だったのだが、そこでダンジョンを発見してしまったのだ。

しかも距離的にも、学校とは1キロと離れていない場所。そこでコレはマズイと中を確認してみると、スタンピード中に発生した出来たてほやほやのダンジョンだったらしく、ほとんどモンスターはいなかった。いてもウチの冷蔵庫ダンジョンにいるスライムよりも小さいのが、うろうろぷるぷるしている程度。

そこで、オレは考えた。

重機ファイターのオッチャン達は、今のままではモンスターを幾ら倒しても強くなれない。だがもしそんな状態でモンスターに襲われでもしたら、たちまちやられてしまうだろう。

しかしこの出来立てダンジョンに連れて来てくれば、ステータスが取得できてオッチャン達も強くなることが出来る。うん、これはいい。重機があればレベルアップも容易だろう。そう考えてトンボ返りで学校へと戻ってきた次第だ。

「ん?どうした兄ちゃん。雨でやっぱり中止にしたのか?」

学校に戻ると、用務員室を休憩場所として与えられていたオッチャン達はそこで寛いでいた。そして出て行ったと思ったらすぐに戻ってきたオレを視て、天候のせいだと思ったようだ。

「いや、この近くに比較的安全なダンジョンを発見したんだ。そこに入ればきっとステータスが取得できるから、呼びに来たんだよ」
「なるほど、そいつは良い!おいみんな聞いたか!?」

するとそれを聞いてオッチャン達が奮い立った。

「おう!これで俺達も強くなれるんか!」
「やったな!おい、なら早くでかけようじゃないか!」

こうして用務員室からゾロゾロと下駄箱の並んだ正面玄関に向かっていると、そこに教諭と思しき若い女性が慌てた様子で話しかけてきた。

「あのっ!今のお話、私も参加させていただけないでしょうか!?」


「あれ?あなたは」

というかこの女性、以前襲撃されていた時にゴブリンにお持ち帰りされそうになってた女性教諭じゃないか。

「私はこの学校で教師をしている愛根まなねと言います。生徒ばかりを危険な目に合わせる訳にはいきません!どうぞお願いしますッ!」
「え~と…愛根先生ね、どうもはじめまして。江月と言います」

おっとっと…。前にこの学校に来た時は、サンドラだったんだ。いけないいけない、危うくその時の事を口にしてしまうところだった。

でも、この愛根という女性教諭。

『生徒ばかりを危険な目に』とは、シャークや合気道の子のことだろう。以前にはゴブリンに攫われそうになって恐怖でお漏らしまでしてたのに。それでもこうして生徒たちの事を慮るとは…実に良い先生だ。

「わかりました、いいでしょう」

そうして話していると、『私たちもいいでしょうか!?』と男性教諭AとBも参加を願い出てきた。うん、これもいい先生たちだな。でも男性教諭の名は憶えないね。なぜって最初に会った時、ガン無視でオレとは目も合わせてくれなかったし。

で、そんなステータス取得希望者を引き連れて現在唯一の出入り口となっている裏門に向かうと、なぜかジャージを着た20人くらいの女子生徒がオレを待ち構えていた。

「「「おねがいします!私たちもダンジョンに連れて行ってください!」」」
(なんですと!?)

意味が解らずその場で待ってくれていた瀬来さん達に顔を向けると、彼女らは溜息交じりに肩を竦めてみせる。しかし代わりにシャークが前に出てくると、事情を説明し始めた。

「ダンジョン行くならさ、ついでにこの子達も連れてってくれよ。みんな運動部に所属してて、けっこう動ける連中だから」
「なに?するとこの女子生徒たちで、ダンジョン能力者の部隊を作るつもりか!?」

「そんな…!?危険です!いけません!」

そう確認のために問うと、愛根先生がなんてことを前に出た。

「でもさ先生!実際、数で来られちゃ手が足りないんだよ。先生たちもダンジョン行ってくれるみたいだけどさ、それでも全然足りないよ!」
「そ、それでも!」

愛根先生が必死になって生徒たちを止める。だがシャークの言う事も尤もだ。

モンスターの数は多く、しかも狂暴。それに対抗する為に少しでも戦力を拡充しておきたいというシャークの意見にも、大いに頷ける。

「でも、だからって…そんな!」
「まぁまぁ、愛根先生。シャーク…いや利賀くんの言う事も尤もです。それに戦う戦わないは別としても、ステータスを取得しておくというのは悪くない考えだと思いますよ?」

ずっと、思いつめていたのだろうか。

シャークと話すうちに感極まって泣き出してしまいそうな愛根先生。それを視るとつい気の毒になり、その肩に手をおいて気持ちが落ち着くよう癒しのオーラパワーを注入してやった。

すると集まっていた女子生徒たちがそれを視てヒューヒュー!などと騒ぎだし、男性教諭AとBの目はたちまち三角に。あれ?もしや、おふたりさんとも愛根先生のことを…?

(ふ~ん、そうなんだ…。それじゃあ、ちょいと意地悪しちゃおッかな~)

解説しよう!オレは小さな恨みも絶対に忘れないのだ。こっちはガン無視された昨日の事を、忘れちゃいないんだぜ。ッてな訳で、ゆくぞ。

「こんな非常時です、ですので愛根先生。こんな時こそ生徒や教師というのではなく互いに人間同士、人と人とが硬く手を取りあって困難に立ち向かうべきではないですか?」

そうキリっとした表情で理想論を語り、見せ付けるように愛根先生の手を握る。

すると女子生徒たちはさらにキャーキャーと騒ぎだし、男性教諭AとBの目はさらに鋭角に吊り上がった。ふふふ、どうしたねキミたち?頭から湯気でも噴き出しそうではないか。

「え、あ…!?そうですね、おっしゃる通りかもしれません。それに…なぜだかあなたの傍にいると不安が溶けてゆくみたいに心が軽く…。あ、いえ!これはそのッ…!」

するとしばしのポーッとした表情からハッとして慌てて手を振りほどくも、照れっテレに頬を赤く染める愛根先生…。

そんな様子に、オレの意図を鋭く察したイタズラ好きの瀬来さんはニヤニヤ。さらに心理戦の得意な仁菜さんも『ま、及第点てトコやろねぇ~』と採点するベテラン審査員風の表情。そんななか全く意図の読めなかった瑠羽だけがひとりアワアワと口に手をあてて慌て、いきなり目の前で先生をくどかれたシャークに到ってはアホみたいに口をポカンとあけている。

「さぁ、では皆でダンジョンに向かいましょう!」

ふふふ、どうだ。

オレも美人女子大生らに揉まれ、なかなかどうして出来るようになったじゃないか。最早かつてのように、女性店員からお釣りを渡されるだけでドキドキと緊張していたオレではないのだぞ!
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