うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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Death March 5

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『ま、待て!待つんだ江月!まだ話は終わってない!』

最悪の眼覚めから不機嫌まっしぐらなオレがもう通話を終えようと話を切り上げると、遠野のオッサンが慌てた様子でそれに待ったをかけた。

「は?これ以上なにを話すってんです…?」

普通、相手の気分をこれだけ害していれば、真面な神経なら日を改めるもの。少なくとも余り周囲に気を使える方でないオレだって、それくらいはする。だというのにしつこく食い下がってくる遠野のオッサンの神経の図太さに感心すると同時に、いったいこの後で何を言い出すのかと若干の興味を抱いた。

とはいえ今は昨晩の件で精神の摩耗―、魔力を生み出し続けたために消耗した気力が回復しきれていない。

こんなとき魔石に籠められている魔力を吸い上げて気力に還元できればいいのだが、そんなことが出来るなどといった話は聞いたことがない。きっと魔力を魔石といったカタチで保持できるからこそ、モンスターはモンスターなのだろう。

「今は魔力を使い過ぎたせいで神経が苛立ってるんです。できたら手短に…」
『いや、それなんがだな…』


そうして遠野のオッサンが話しだしたのは、オレの塩が欲しいという内容だった。

『いや、その、なんだ…。応援にきてくれた警察のなかなんかにはな。特異生物とはいえ生き物を殺すのに抵抗があって、どうしても殺せないってヤツもまた、多くてだな…』
「ああ。でもスキルで生み出した塩なら、ただかけるだけでアンデッドを倒せるから、なんの抵抗もなくレベルが上がるって話ですか??」

『ひらたく言うとそうだが…、それでもオマエ。ほかの人間にスキルで生み出した塩を渡しても、自分で使うのと同程度の効果があるそうじゃないか?』
「同程度というか、それはオレが念を入れてそういう風に使えるよう渡したからですよ…」

スキル【塩】。単にスキルで塩を生み出すといっても、その内容はピンキリ。

たとえば同量のひとつまみの塩でも、ほんのりと甘みを感じるマイルドな塩味の塩もあれば、ピリッと舌にくる目の覚めるような鮮烈な塩もある。前者であれば天ぷらなどによく合うし、後者であれば分厚く焼いた肉によく合う。

まぁそういったご家庭使いの場合はまた別として。戦闘で使用する塩には、単純にその何倍もの魔力が籠められている。それは具体的にいうと硬度×持続時間や、浄化パワー×持続時間といった具合にだ。

なのでたとえ一見同量の塩にしか見えなくても、その効果によって籠められている魔力量はピンキリなのである。

『それでなんだが…な。オマエのその生み出した塩をだな、警察や消防でも活用できれば色々と…』
「お断りします!(キッパリ)」

『いや!おい!なんでだ!?』
「遠野さん!アンタがさっき、その答えを言ったでしょう!おまえがモタついたせいで、囮になってた警官が亡くなった。まさにソレですよ!どうせオレがスキルで生み出した塩を渡しても、ちょっとでも何かあれば同じことを言われるんじゃないですか??」

『いや、そんな事は…』
「じゃあなんでアンタはさっきそう言ったんだ!おなじ事だろう!?オレが動くのも!オレのスキルで生み出した塩で、なにかを退治するのも!結局なにかあれば叩かれるなら、なにもしない方がマシってモンじゃないんですか!」

「…」
『…』

しばしの沈黙…。いや、こんな時ダンジョン能力者として強化された感覚を持っていると、相手の鼻息さえ電話越しでも感じ取れてしまう。

『ふぅ…。これは、仮にだな…、そう、たとえばの話、幾らなら売る?』

その問いに、少々思考を巡らせる。

そもそもスキル【塩】は、ちっさい塩の神さまからの授かりもの。果たしてそれを商売に使っていいものか。ちっさい塩の神さまも何気に宝船にでも乗ってそうなビジュアルをしていたから、商売繁盛的な神ととらえればワンチャンいけそうではある。しかしもしダメだった場合には、神の怒りに触れ【塩】のスキル没収なんてことも起きかねない。うん、授けたモノなのだから、取り上げるのだって簡単なことだろう。

(よし、なら、そうだな…)

「そうですね…。では1キログラム1000万で」
『なっ!?たかが塩で1000万はないだろうッ!!』

「嫌だからその値段なんですよ!それに、たかが塩ってなんだッ!鉛玉何発くらっても倒せないアンデッドモンスターを、塩なら確実にやれるんだぞ!オレなら塩の1キロでゾンビ66体確殺してみせるわッ!!」

塩のおおさじ1は約15g。だから単純計算では、ゾンビ66体を確殺できる勘定。ただオレには【しょっぱい男】や【ソルトメイト】といった塩にまつわる称号があるので、それよりさらに効率よく倒せる可能性はある。

『塩をそんな値段でなんか、誰も買わんぞ…』
「売りたいわけじゃないから、いいんですよ。それに、塩でなく弾。しかも弾は弾でも、アンデッドモンスターを倒せる特殊な弾と考えればそれくらいするモンでしょう?効果持続時間は6時間、それで1キログラム1000万。嫌なら風でも火でも水でも、スキル持ってる能力者は他にいくらでもいるんだからソッチに頼めばいいでしょう!」

と言いつつも、それほどの効果時間を有するスキルなどオレも自身が所持する【塩】のスキル以外では聞いたことがない。ま、【水】とか【土】はけっこう持ちそうだが。

『クッ、足もと見やがって…』

(いや、それはアンタがでしょ。話しててもう充分感じたよ。大方オレを叩くような事を言ってまずは恐縮させておいて、その後に塩の売買話を持ち出して上手いこと買い叩くつもりだったんだろう…)

そう考えると、聞こえよがしに遠野のオッサンがそんなことを口にしたのにも一応の筋が通る。少なくともかつての部下の遺族の為に、自身が泥を被るくらいはする男。それに、あの時も最初はオレをいいように利用しようと画策していた。

『わ、わかった。オマエがそう言うなら、それで先方には話しておく…』
「いいえ。嫌だってんだから、別に話さなくたっていいんですよ」

『…いや、そういう訳にもいかんのだ』


こうして電話は終わった。が、後日ホントにその注文があり、オレの方がかえってビックリしたのだった。
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