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空っぽ
ぐちゃぐちゃ
しおりを挟む少し歩くと公園のベンチに誰か男の人が居た。
1人は座っていて、もう1人はその人の正面に立って何か話している。
ベンチに座っていた男の人は上着のフードを被り下を向いている。
長い時間座っていたのだろう。
フードの上には、雪が積もっていた。
もう1人は今来たのだろう。ポケットに手を突っ込みながら話している。
近くまで行く。
相変わらず私は、得体の知れない寒気とここに居てはいけないような感情で不安になる。
ふと、ベンチに目をやる。
そこに居たのは……
渚だった。
立って話しているのは、あの日のアイスのお兄さんであった。
渚を見た瞬間、物凄く安心している自分に気がつく。
どうしてかは分からないが先程までの不安は消えていた。
美紅とアイスのお兄さんが同時に
「あっ」
と声をあげる。
渚も気がつき、こちらを見る。
渚と目が合う。
渚の瞳が揺れているように見えた。
アイスのお兄さんがこちらに近付いてくる。
私達に向かって
「渚、どうにかしてあげてよ」
と言われた。
そんな事言われても困る。
だいたい直美はどうしたのだろうか。
すると美紅が
「どうしたんですか?」
と問いかける。
私は美紅の耳元で
「そんなこと聞かなくてもいいよ。早く帰ろ」
と小声で話す。
アイスのお兄さんが困ったような表情でじっとこちらを見ている。
美紅が
「ここに居たら全員凍えてしまうので、結奈の家に行きません?」
何故そうなったのかと美紅を見る。
しかし確かに寒い。
渚なんてそのうち雪だるまになりそうな程フードに雪が積もっていた。
しょうがないので私の家に行くことにした。
車に乗り家に向かう。
家に着く。
ドアを開け「どうぞ」とぶっきらぼうに言い放つ。
お腹が減っていたので鍋の準備をする。
その間、アイスのお兄さんと美紅が会話をする。
渚はと言うと終始無言だ。
4人で鍋を取り囲む。
しびれを切らして私が
「何かあったんですか?」
と渚に聞く。
「ごめん」
何度目のごめんだろうか。いい加減、聞きあきた。
「ごめん、だけじゃ何も分からない。ちゃんと話して」
と言うと、美紅が
「そうだね。2人には少し話す時間が必要だと思う。話せる事だけで良いから話したら?私たち邪魔なら少しどっか行くし。ね」
とアイスのお兄さんに美紅が視線を送る。
「俺ら、飲み物無いから買ってくる。適当に買ってくるから待ってて」
と美紅の手を取り出掛けた。
2人が出ていった後、
「どうしたの?話せる範囲で良いから話して?」
ともう1度聞く。
「俺の本当の父ちゃん、俺が小学1年の時に亡くなったんだ」
「うん」
「俺には5歳年の離れた弟がいるんだ」
「うん」
「弟が2歳になる前に、父ちゃんは無くなったんだ」
「うん」
「その後すぐに母さんが再婚して、今のお父さんと一緒に暮らす事になった」
「うん」
「今のお父さんは本当にいい人だし、育ててくれたことに感謝してる」
「うん」
「お父さんが変わり、姉ちゃんも、俺も凄く困惑したけど、弟の為にも、母さんの為にも頑張ったんだ」
「うん」
「本当の父ちゃんが誰なのか、弟は知らないんだ」
「うん」
「でも家が近所だった直美は知ってる。今はここまでしか言えない。」
「でも、直美ちゃんは渚の事、好きなんじゃないの?それなら支えてくれるんじゃないかな?」
ストレートに聞く。
「それとは少し違うかな。傷の舐め合いと言うか……どちらかと言うと憎しみに近いと言うか……」
話しながら何となく渚は直美から離れたがっているように感じた。しかし色々あって離れられないんだと分かった。
目に見えていた渚が全てではない。
でも、それならば本当の渚はどれだったのだろう?
無愛想な渚?オムライスを作ってくれた温かい渚?辛そうに食堂の駐車場で手首を掴んだ渚?
渚の心がどこに有るのか気になったが、私にはどうすることも出来ない。
それが悔しかった。
そうしている内に美紅達が帰ってきた。
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