【完結】愛と憎しみの狭間で

今川みらい

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即位(フェリクス視点)

 私はライアンにソフィアと気を失っているゼウスの事を任せると、逃げるようにソフィアの部屋を出た。

 これ以上、彼女のそばにいるのが辛かった。

 まさか自分が我を忘れてソフィアの首を絞めるなんて……彼女はどれほど怖かっただろうか。

 いくら憎むべき相手だとは言え、か弱い女性の首を絞めるなど決してしてはならないのに……

 どうしてソフィアの事となると、私は冷静でいられなくなるのだろう。

 制御出来なくなる自分が恐ろしかった。

 彼女の身を守る為、この国で一番安全な宮殿内に残すと決めたのに、私が彼女の身を脅かしてどうするのか。

 当面、私はソフィアに絶対近づかないと強く心に決めた。




 ◆ ◆ ◆




「フェリクス殿下……陛下?あの……クロノス前国王陛下のご遺体はどうしますか?」

 私がクロノスの寝室があった塔の下まで戻って来ると、先ほどもいた若い護衛騎士が駆け寄って来た。

「……愚王だったとはいえ、十年間この国の王を務めた人だ。他の王族同様、丁重に葬ってくれ」

 私がそう伝えると護衛騎士は一礼して去っていった。

 いくら自分の家族を殺した憎むべき相手でも、クロノスはソフィアの父親だ。
 彼女の気持ちを思うとやりきれなかった。

 護衛騎士と別れると、私は目当ての人物を見つけて声をかけた。

「ルーク侯爵閣下」

 彼は塔の近くで騎士達と話をしていたが、私に声をかけられるとその場を離れ、私の近くまで歩いて来た。

「フェリクス殿下。お気持ちは定まりましたか?」

「……逆に、この状況で逃げられますか?」

「ははは。逃げられませんな。絶対に逃がしませんぞ」

 楽しそうにルークは笑っていた。

 ──タヌキ親父め。

 私は心の中で罵った。

「貴方とライアンには命を救って貰った恩がある。やりますよ。国王でも何でも。……ただし、条件があります」

「ほう。一体何でしょう?」

「ソフィアは宮殿内に残します」

 私は強くルークの瞳を見据えながらそう言った。

「……何故ですかな?貴方は彼女を憎んでおられるのでしょう」

「確かに私はソフィアを憎んでいます。……しかし、それとは別の感情もあるのです」

 彼女に対する想いが、憎しみだけで片付けられたらどんなに良かったか。
 憎しみとは相反する強い感情が、今の私を苦しめていた。

「……しかし、貴方を裏切ったソフィア嬢が何の処罰も受けず宮殿内に残るとなると、臣下や民達から反発が起きますぞ」

「それは私が何とかします。……十年前、大切な人達を護れなかった私は決めたんです。今度こそ絶対に大切な人は死なせない。なんとしてでも、必ず護り抜くと」

 もう決して、大切なものは奪わせない。

 見ているだけで何も出来なかった私はもういない。

 ソフィアもこの国も全て私が護ってみせる。

「……それほどまで強い決意を抱く貴方に、反論するつもりはありません。私も協力致しましょう」

 ルークは穏やかな表情でそう言った。





 ◆ ◆ ◆





 国王になる事が決定した私は、本日、各国の要人や貴族達を招いて盛大に戴冠式を執り行った。

 そして今は王都の街に出て即位パレードの真っ最中だった。

 王都にはこんなにたくさんの人がいたのかと驚く程、大通りは多くの人々でひしめきあっていた。

「フェリクス陛下!御即位おめでとうございます!!」

 私が馬に乗って近くを通る度、民たちは笑顔でロメイン王国の国旗を振りながら祝福してくれた。

 民達が私を受け入れてくれた事に安堵すると共に、言い知れぬ罪悪感が襲ってきた。

 本来この場には私ではなく、王太子であった兄が立つ筈だった。

 優秀で、何でも完璧こなす兄は、国王になるべくして生まれてきたような人だった。

 私などでは、到底敵わない人だった。

 そんな兄が死んで、代わりに私が国王に即位したことに、強い引け目を感じていた。

「おーい。フェリクス陛下。笑顔が引きつってますよー」

 そんな時、前方からライアンが馬に乗って近寄って来た。

 私が国王になった今、ライアンは側近と言う名の雑用係で、彼にソフィアの様子を見に行いかせ、逐一報告させていた。

 彼女は私が王座を奪還した後から、ずっと塞ぎ込んでいるようで、仔猫の世話をしに外に出る時以外は自室に籠っているようだった。

  私から父親と恋人を同時に奪われたのだ。
 塞ぎ込むのは当たり前だろう。

「私は君と違ってへらへら笑うのに慣れてないんだよ。ライアン君」

 十年前の事件以降、私は上手く笑えなくなっていた。
 今更笑えと言われても、顔が引きつってどうしようもならない。

「光輝く銀髪に鮮やかな緋色の瞳。そして男も羨む完璧な容姿。老若男女街中の視線が釘付けですよ。もっと柔らかく自然に笑わないと」

「……お前が言うと嫌みにしか聞こえないから止めろ」

「それって俺が格好いいから僻んでるんですかー?嫌だな~」

 ライアンはひとしきりふざけると自分の持ち場に戻って行った。

 確かに、色々と考え過ぎて表情が暗かったかもしれない。

 ライアンはふざけた態度をとっていても、いつも周りに気を配っている奴だ。

 今は即位パレード中のおめでたい場だ。
 兄への引け目は忘れ、民達が望むような完璧な国王を演じよう。

 私は気を引き締め直した。





 そして、即位パレードは無事終了した。

 いつもとは違う表情筋を使い、強張ってしまった顔を両手で揉んでいた時、一人の騎士が慌てた様子で私の所へ駆け寄って来た。

「こっ、国王陛下!!」

「どうしたんだ?そんなに慌てて」

「ソ……ソフィア様が……」

 ソフィアの名を聞いた途端、私は一瞬で凍りついた。

「……ソフィアがどうした?」

「宮殿から……いなくなりました」

 騎士の言葉に、私は目の前が暗転した。


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