チートな悪役に転生したが破滅フラグを折るよりも死亡フラグを折るのに忙しい件

みゅう

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 よし、少し落ち着こう。ほんの少し落ち着こう。とりあえず俺は、男性版悪役令嬢として転生した。そして、

 コンコン

「目が覚めたみたいね。入るわよ、フェル」

 優しくて柔らかい、俺がこの世界で一番に聞いた声。母上だ。ノックしてくれるのはありがたいけど、入ることは確定事項なのかよ……。まあ、ぶっ倒れたし仕方ないか。まだまだ一人で考え事をしていたかったんだけどな……。

「はーい」

 ガチャリ

「体調はどう?頭や目は痛くない?それは、髪色や目の色が変わることによる成長痛みたいな痛みだから、治療魔法や回復魔法じゃどうにもできないのよ」

「体調はもう大丈夫。頭と目もいたくない」

 さっきまでそれどころじゃなかったし。そういえば、フェルディナンドって、髪と目の色変わってたんだな。原作、青みがかかった銀髪に、赤と青のオッドアイに神々しい系イケメンフェイスって感じの中に野郎だったな。

「そう、それならよかったわ。フェルが元気にならなかったら、女神さま呼んで聞いてみようって思っていたの。呼び出さなくて正解だったわね」

 お・お・げ・さ。確かに子供が死にやすい世界とはいえ、大げさだ。国家案件にするな。公私混同するな。本当に女神の信託を必要としている人に、申し訳なさすぎるは。大人になって知ってしまったら、その行動に恥ずかしくて悶え死ぬぞ?逆に死ぬぞ? 


「母上、大げさ」

「そんなことないわよ。フェルやシオン、シオナは、私と旦那様の宝物だもの」

 子どもの人権なんて認められてなさそうなこの世界において、最高の両親だろう。というか絶対そうだ。だけど、大げさ。さすがに大げさ。恥ずかしい。

「母上、直接そういうこと言われると恥ずかしい」

「こういうことは、言える時言っておかないとだめなのよ、フェル。なんで言わなかったのだろうって、後悔だけはしたくないもの」

 ジィっと、大きなピンク色の瞳で俺を見つめながらそう言った。そうだった。母上は、3年後、神霊と成って天界へ昇るんだった(小説の過去回想)。後三年で、俺たちとは別のエリアに行く。母上のこの言葉は、本当に後悔しないためのものだ。

「そっか」

「そうなのよ。フェルも、私に聞きたいことがあったら何でも言ってちょうだいね。何でもは無理だけれど、答えてあげるわ」

「うん、わかった」

 3年の間、できるだけ思い出を作ろう。我が家の天使シオンとシオナと、父上と一緒に。


 たった今俺が、そう決意を固めて瞬間だった。

《神子ちゃん、お母さんとの語らいは終わってくないかな?》

 柔らかくてあたたかな、俺を心配するような母上の顔が一変した。どこか挑発するような、どこか人を小ばかにしているような、不遜な表情。甘いピンク色の瞳がいたずらっぽく輝き、ぷっくりとしたバラ色の唇がにんまりと吊り上がっている。
 そして、発している言語も違う。理解はできるのに、聴いたことはない。なぜか、この世界の、このルエリアの言語ではないことが、本能的に理解できる。


 これは、誰だ?
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