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act.2
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ルミナリエ魔術学院から柊木家まで、バスを使って1時間ほど。徒歩に直せば2時間はかかる道のりを一人で帰っていた由貴。
「はぁ………、やっちゃった……。」
つい感情任せに自分の思いをぶつけるだけで、兄の話に聞く耳すら持たなかった余裕の無さに自分でも呆れる由貴。
きっと、兄のペースに持っていかれれば自分に成す術はない。それに、最近徐々に変わりつつあった腑抜け切った兄になら言い負かされることもないと、ただ一方的に気持ちをぶつける選択を取った由貴は後悔する。
「どうしよう……。酷いこと言っちゃったよね。二度と口もききたくないなんて…」
一人後悔に暮れながら夕暮れの道を歩く由貴を見つけ、後ろから話しかけてくる一人の少女。
「由貴ちゃん?由貴ちゃんだよね?」
「え?…あぁ…美香さん?!」
由貴の背後から声をかけてきたのは茶髪で豊満なπを持った湊の幼馴染である茶竹 美香だった。
「やっぱり…どうして歩きなの?バスの遅延とか?」
「いえ、兄がバスを使うんじゃないかと思って、」
「どういうこと?」
美香は由貴から色々と事情を聞く。
兄と喧嘩をしてしまって、『二度と口もききたくない』や度重なる傷つける言葉や失言、それを言った手前、兄と顔を合わせることが気まずくなり、もしも兄がバスを使い家へ帰るとなると偶然鉢合わせる可能性があったために、こうして徒歩2時間もかかる長い道のりを歩いて帰っていたことを美香に伝える。
「そっかぁ~湊と喧嘩ねぇ~。でも珍しいね、由貴ちゃんらしくないと言うか」
「違うんですよ。らしくないの兄の方ですよ…」
「それは…確かに否めない気もする…」
美香は腕を前に組み、目を瞑って頭を捻る仕草を見せる。そんな仕草に由貴は思わず瞼をかっぴらいて覗き込んでしまう。その、豊満なπをだ。
ーーでっか…。
兄妹揃って失礼な性格をしているものだ。性格では、光の人格と由貴が似ているとも言える。
「由貴ちゃん、あの話知ってる?」
「どれですか?」
「湊が同学年の女子と学食に行った話」
「えぇ?!本当ですか?!」
「不人気な『ビンテージ・バグ』だったから、実際に見た人は少ないんだけど、浅葱さんって女の子とその友達が言ってたのよ。あとそれをOKしたって話も3学年のクラスで持ちきり」
「嘘…」
長年湊のことを知っていた妹の由貴と幼馴染の美香からしてみればあり得ない話だった。それでも信じざるおえない根拠もまたあった。それは、最近の湊の奇行の数々。美香から言わせれば、東部戦線以降、医療棟のベッドの上で目覚めた湊が自分の名前すら曖昧だったことが不思議でならなかった。それでも、その時は東部戦線という過度な戦争の後遺症や何かだと思ってスルーしたが今思えば変と言えば変なこと。そして、美香の話に信憑性を持たせるように、由貴は兄と出かけた話や今朝のこと、登校してからの事を語る。全く布団から出たくなかったことや、乗り物や買い物への知識、私物の場所が分からないことで、一人では準備できなかったこと。進んで特急バスに乗った事や、先に登校しといて自分の教室に来るのが異様に遅かった事。そして、丸一日通しての自分たちへの接し方。
どれをとっても完全に別人と言わざるおえなかった。
二人の結論は完全一致。東部戦線で何かあったに違いないというものだった。ドラゴンの発情期、活発化したドラゴンの群勢と魔戦士、魔導士、魔法使い、総出で引き起こしたドラゴンと人類との大規模抗争。それを終結させた英雄として讃えられた湊の身に起きた変化。
湊の身に一体何が起きたのか、知らなければこの変化に対応できない。それでも、由貴はその核心に迫りたくはなかった。何故なら、今の湊を…
…好きになってしまっているからだ。
それに引き換え、美香は由貴とは正反対の感情を抱いていた。
「美香さんは、兄をどう思ってるんですか?」
「湊を?やっぱおかしいよね」
「そうじゃなくて…幼馴染で、ずっと一緒にいて…兄を…」
「ん?。まぁ湊は悪いやつじゃないよ。由貴ちゃんと喧嘩したなら、きっと湊自身もどっかで後悔してるはずだから、ちゃんと話せば分かるよ。」
ーーそういうことじゃなかったんだけどなぁ…。
「でもね、由貴ちゃん」
「はい?」
「このままだけは絶対ダメだよ。私は二人に仲の良い兄妹で居続けて欲しいからさ」
「美香さん…そうですよね。帰ったら、兄に謝ります。すみません、何か相談に乗ってもらうみたいになっちゃって」
「…。うん、任せてよ!この美香さんに!!由貴ちゃんだって私の妹みたいなもんなんだからさ!!もっと頼って頼って」
「はい!それじゃあ、由貴はこっちなので、失礼します」
「うん、それじゃあまた明日」
美香は、別の方向へ曲がって行った由貴へ手を振り別れの挨拶を済ませて見送る。
「湊のことどう思ってるのか…かぁ。そんなの決まってるじゃん…。」
東部戦線終結後、すぐさまルミナリエ魔術学院医療棟へ運ばれた湊の側にずっといた美香。その後も多くの見舞いを挟み、数週間後に目が覚めた湊の周りに群がる女たち。金平 玲奈も青紗 奈々美も、浅葱 美穂も例外じゃない。そして、薄々勘付いていた由貴の心境の変化。全員が敵でライバル。美香にとっては1番身近に居た者として湊を奪われるのが許せなかった。
「私だって好きだよ…」
夕日に染まる紅い夕空を見上げながら美香は決意する。自分もそろそろ動く時だと。
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「はぁ………、やっちゃった……。」
つい感情任せに自分の思いをぶつけるだけで、兄の話に聞く耳すら持たなかった余裕の無さに自分でも呆れる由貴。
きっと、兄のペースに持っていかれれば自分に成す術はない。それに、最近徐々に変わりつつあった腑抜け切った兄になら言い負かされることもないと、ただ一方的に気持ちをぶつける選択を取った由貴は後悔する。
「どうしよう……。酷いこと言っちゃったよね。二度と口もききたくないなんて…」
一人後悔に暮れながら夕暮れの道を歩く由貴を見つけ、後ろから話しかけてくる一人の少女。
「由貴ちゃん?由貴ちゃんだよね?」
「え?…あぁ…美香さん?!」
由貴の背後から声をかけてきたのは茶髪で豊満なπを持った湊の幼馴染である茶竹 美香だった。
「やっぱり…どうして歩きなの?バスの遅延とか?」
「いえ、兄がバスを使うんじゃないかと思って、」
「どういうこと?」
美香は由貴から色々と事情を聞く。
兄と喧嘩をしてしまって、『二度と口もききたくない』や度重なる傷つける言葉や失言、それを言った手前、兄と顔を合わせることが気まずくなり、もしも兄がバスを使い家へ帰るとなると偶然鉢合わせる可能性があったために、こうして徒歩2時間もかかる長い道のりを歩いて帰っていたことを美香に伝える。
「そっかぁ~湊と喧嘩ねぇ~。でも珍しいね、由貴ちゃんらしくないと言うか」
「違うんですよ。らしくないの兄の方ですよ…」
「それは…確かに否めない気もする…」
美香は腕を前に組み、目を瞑って頭を捻る仕草を見せる。そんな仕草に由貴は思わず瞼をかっぴらいて覗き込んでしまう。その、豊満なπをだ。
ーーでっか…。
兄妹揃って失礼な性格をしているものだ。性格では、光の人格と由貴が似ているとも言える。
「由貴ちゃん、あの話知ってる?」
「どれですか?」
「湊が同学年の女子と学食に行った話」
「えぇ?!本当ですか?!」
「不人気な『ビンテージ・バグ』だったから、実際に見た人は少ないんだけど、浅葱さんって女の子とその友達が言ってたのよ。あとそれをOKしたって話も3学年のクラスで持ちきり」
「嘘…」
長年湊のことを知っていた妹の由貴と幼馴染の美香からしてみればあり得ない話だった。それでも信じざるおえない根拠もまたあった。それは、最近の湊の奇行の数々。美香から言わせれば、東部戦線以降、医療棟のベッドの上で目覚めた湊が自分の名前すら曖昧だったことが不思議でならなかった。それでも、その時は東部戦線という過度な戦争の後遺症や何かだと思ってスルーしたが今思えば変と言えば変なこと。そして、美香の話に信憑性を持たせるように、由貴は兄と出かけた話や今朝のこと、登校してからの事を語る。全く布団から出たくなかったことや、乗り物や買い物への知識、私物の場所が分からないことで、一人では準備できなかったこと。進んで特急バスに乗った事や、先に登校しといて自分の教室に来るのが異様に遅かった事。そして、丸一日通しての自分たちへの接し方。
どれをとっても完全に別人と言わざるおえなかった。
二人の結論は完全一致。東部戦線で何かあったに違いないというものだった。ドラゴンの発情期、活発化したドラゴンの群勢と魔戦士、魔導士、魔法使い、総出で引き起こしたドラゴンと人類との大規模抗争。それを終結させた英雄として讃えられた湊の身に起きた変化。
湊の身に一体何が起きたのか、知らなければこの変化に対応できない。それでも、由貴はその核心に迫りたくはなかった。何故なら、今の湊を…
…好きになってしまっているからだ。
それに引き換え、美香は由貴とは正反対の感情を抱いていた。
「美香さんは、兄をどう思ってるんですか?」
「湊を?やっぱおかしいよね」
「そうじゃなくて…幼馴染で、ずっと一緒にいて…兄を…」
「ん?。まぁ湊は悪いやつじゃないよ。由貴ちゃんと喧嘩したなら、きっと湊自身もどっかで後悔してるはずだから、ちゃんと話せば分かるよ。」
ーーそういうことじゃなかったんだけどなぁ…。
「でもね、由貴ちゃん」
「はい?」
「このままだけは絶対ダメだよ。私は二人に仲の良い兄妹で居続けて欲しいからさ」
「美香さん…そうですよね。帰ったら、兄に謝ります。すみません、何か相談に乗ってもらうみたいになっちゃって」
「…。うん、任せてよ!この美香さんに!!由貴ちゃんだって私の妹みたいなもんなんだからさ!!もっと頼って頼って」
「はい!それじゃあ、由貴はこっちなので、失礼します」
「うん、それじゃあまた明日」
美香は、別の方向へ曲がって行った由貴へ手を振り別れの挨拶を済ませて見送る。
「湊のことどう思ってるのか…かぁ。そんなの決まってるじゃん…。」
東部戦線終結後、すぐさまルミナリエ魔術学院医療棟へ運ばれた湊の側にずっといた美香。その後も多くの見舞いを挟み、数週間後に目が覚めた湊の周りに群がる女たち。金平 玲奈も青紗 奈々美も、浅葱 美穂も例外じゃない。そして、薄々勘付いていた由貴の心境の変化。全員が敵でライバル。美香にとっては1番身近に居た者として湊を奪われるのが許せなかった。
「私だって好きだよ…」
夕日に染まる紅い夕空を見上げながら美香は決意する。自分もそろそろ動く時だと。
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