《完結済み》記憶喪失になったボク。お見舞いに来た「恋人」を名乗るギャル姉と「幼なじみ」清楚系妹の秘密を知ってしまったみたいです。

黒羽あかり

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第8話

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「はぁ……ほんっとに酷い。アイツ、ウチのことゴリラなんて……ね?」

「は、はい。ホノカさんは華奢きゃしゃな乙女だと思います」

「敬語やめてよ。『さん』付けもイヤ。名前で呼んで欲しいのに……」

 怖い。逆らったら……確実にやられる。
 大会が終わった後、ボクとホノカさんは学園祭を楽しんでいた。出店でお昼ご飯を食べて、今はちょっとベンチで休憩中。

「次、どうする? ウチのクラスに行ってみる? お化け屋敷だけど」

「そ、それはちょっと……」

「ナギくん、怖がりだもんね~」

 ホノカさんが優しく頬を突いてからかってくる。なんか、見透かされているみたい。
 その時、

「見つけた……高城たかしろ君!」

 ボクの姿を見て、1人の女子生徒が走ってくる。

「確か、軽音部の部長さん?」

 ホノカさんが彼女を見て呟く。でも、軽音部の人がどうして?

「はぁ……はぁ……お願い。ライブに出て欲しいの!」

「ええええっっ⁉」

「ギターの子が直前で怪我しちゃって……お願い! ライブ、成功させたいの!」

 彼女が深々と頭を下げてボクに頼んでくる。

「お願い! 神様、仏様、高城様!」

「い、いや、でも、ボクなんかが出ても――」

「高城君、ギターめっちゃ上手いじゃん。入部体験の時、ビビっと来たんだから。あんなに上手い人いないって……他に頼める人がいないの! だから、お願い!」

「退院明けじゃ……」

 すると、ボクの言葉を聞いて、彼女が目に涙をにじませて肩を落とす。

「そんな……高校生最後の文化祭なのに。軽音部で思い出作ろうって……」

 彼女の悲しい様子を見ているとボクの気持ちが揺らぐ。
 いくらボクがギター上手いからって、飛び入りで出来るのか……

「ウチ、見たいな。ナギくんのギター」

「えっ?」

「だって……弾いてる時の姿、カッコいいんだもん」

 ホノカさんが顔を赤らめて、恥ずかしそうに小さく呟く。
 その言葉で、ボクの考えが一新される。

「……やります」

 不安が隠せず、弱弱しく声を震わせて答えた。
 その瞬間、彼女が顔を上げて、表情に笑顔が戻る。

「ほ、ほんと⁉ ありがとう!」

「ライブまであとどれくらいなんですか?」

「3時からだから……あと、2時間くらい」

「譜面覚えて、合わせる練習して……ギターの感じも確認しないと」

 あれ? どうして、覚えているんだろ……

「音楽室早く来てね。みんなで待ってるから。じゃあ!」

 そう言い残して、彼女が走り去ってしまう。
 どうしよう。音楽室の場所、覚えてないよ……
 そう思った時、ホノカさんがボクの手を掴み、

「ウチが連れてってあげる……部活棟の場所、覚えてないんでしょ?」

 すると、ホノカさんが勢いよくボクの手を握る。
 彼女の細い指がボクの指と絡む。
 こ、これって恋人繋ぎじゃ……でも、これだと離れない。

「あ、ありがとう」

「いいよ。お礼なんて……早く行こ」

 ホノカさんに手を引かれて駆け出す。1歩、また1歩と足を踏み出すごとに心臓の音が高鳴っていくのが分かる。このドキドキはライブ助っ人のプレッシャーの緊張なのかな。それとも……
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