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第10話
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「いっぱいお客さんが入ってる……」
暗い舞台袖から観客席の状況を覗いてみた。年齢や性別問わず色んな人が入っている。でも、学ランを着た坊主の男が多いような気がする。
ピックを持つ右手の震えが止まらない。心臓が口から飛び出そう。退院明けで記憶喪失なのに、どうして受けたのかな……ああ、もう家に帰りたい。道、分からないけど。
そんなことを考えていると、ボクたちが出る前の演奏が終わった。観客の拍手の後、奏者が袖にはけてくる。いよいよ出番か……
「最後は、軽音部の『Garls Melody Fleet』による演奏です」
アナウンスを聞くと、さらに緊張が……だ、ダメだ、頭が真っ白になる。
心臓が飛び出そう。一度深呼吸をして、舞台の方へ歩いていく。
「え? ガルメフって、ガールズバンドじゃなかった?」
「どうして男がいるの?」
「しかも、私服だよ? 怪しい~」
ボクの姿を見た観客たちがざわつく。ボクは気にせずポジションについて、ギターをセットし始める。えっと、このコードをギターのここに繋いで、アンプのアウトプットに……って、逆だ。あ、危ない……そのままだと、全く音が出ない所だった。
「ギター準備できた?」
ドラムの子が聞いてくる。
「ふ、ふぁい!」
お、落ち着け……さ、最初はCコードだっけ? いや、E? Fだった可能性も。緊張で頭が真っ白になる。……なんだっけ。過去の大切な記憶だけでなく、さっき覚えた譜面までボクは忘れてしまったのか。
「いくよ、1、2、3……」
ドラムのコールが始まる。スティックを鳴らす音で、観客がシンとなり、静寂が会場を包む。
や、ヤバい、最初は……その時、極度の緊張で、ピックを床に落としてしまう。マズい……すぐに拾おうと屈んだ時、観客席の最前にいたホノカさんと目が逢う。
すっごいキラキラした目で、こっちを見ている。
ピックを手に取ってすぐ、ドラムとベースが演奏を開始する。重低音な音色が会場に響き渡る。ボクはすぐに立ち上って、入る瞬間を待つ。
…………今だっ。こうなったらアドリブでいくしかない! 己の感性だけを頼りに、メロディを奏でていく。クリーンなアルペジオで重奏する。ボーカルが歌いながら弾くキーボードの音色……楽器の音に負けない歌声も心地いい。
順調に演奏が進んでいく。サビが終わり間奏に突入し、観客もいい感じに盛り上がっている。会場をさらに沸せるためのボクのギターソロ……本領発揮だ。ここで魅せる!
「うわっ! スゲーぞアイツ……本当に高校生か?」
観客から驚きの声が飛ぶ。他のバンドメンバーからの視線も感じる。今、ここに居る全員がボクに注目しているのか。
ちらりとホノカさんの方を見た。一瞬だけ目が逢ったような気がして、ちょっと恥ずかしい。
「上手すぎだろ……!」
観客からの声に今すぐに、こう答えたい……『超技巧派なんだよ』って。
ツインギターなら二重奏といきたかったが。観客のボルテージを最高潮までブチ上げて、ギターソロが終了する。
ラスサビ、アドリブでさらに魅せたい……でも、我慢しないとな。メロディではなく、大人しくパワーコードでいこう。
こうしてボクたちの演奏が終了する。そして、間もなく観客からアンコールが飛ぶ。用意してないから、マズいんですけど……
「えっと、『Garls Melody Fleet』のキーボード兼ボーカルの明美です……今日はギターの玲子がハプニングで、ここにいません」
彼女の言葉を聞いた観客がざわつく。
「でも、このライブを成功させるために、ギリギリで代役を引き受けてくれた彼。頑張ってくれた……最高のギタリスト渚君に拍手を!」
その刹那、観客から拍手と共に歓声が上がる。沸き立つ渚コール……
「はい。何か言うことある?」
彼女がマイクをボクに渡してくる。
「え、えっと……」
何を話したらいいのか全く浮かばない。変な間で、雰囲気を壊すわけにもいかない。
「さ、さいこ~」
手を上げて自信なさげにボクが言った。その瞬間、観客から拍手が飛ぶ。
引き受けてよかったな。ちょっと恥ずかしかったけど。安堵から気持ちが落ち着く。
「じゃあ……アンコール、行けるよね?」
「……え?」
一瞬にして、不安の崖に落とされる。
ボーカルが各メンバーに向かってアイコンタクトをしていく。
1曲覚えるので精いっぱいだったから、全然頭に入っていない。曲名すら分からないし。もしかして、あれかな。練習の合間に、「ズギャギャギャアアン」って、感覚派の天才みたいな教え方された曲かな? でも、あんなのじゃ分かんない。
「頑張ってね」
ウインクをされても知らないよ! ヤバいんですけど、絶体絶命のピンチだよ!
「次の曲で最後! 飛ばしていくよ……」
ボーカルが観客に向かって言うと、大きく盛り上がる。そして、すぐにキーボードを弾き初め、考える時間も無く演奏が開始した。こうなったら、ヤケクソだ。向こうが感覚なら、こっちは魂で弾くだけだ……
暗い舞台袖から観客席の状況を覗いてみた。年齢や性別問わず色んな人が入っている。でも、学ランを着た坊主の男が多いような気がする。
ピックを持つ右手の震えが止まらない。心臓が口から飛び出そう。退院明けで記憶喪失なのに、どうして受けたのかな……ああ、もう家に帰りたい。道、分からないけど。
そんなことを考えていると、ボクたちが出る前の演奏が終わった。観客の拍手の後、奏者が袖にはけてくる。いよいよ出番か……
「最後は、軽音部の『Garls Melody Fleet』による演奏です」
アナウンスを聞くと、さらに緊張が……だ、ダメだ、頭が真っ白になる。
心臓が飛び出そう。一度深呼吸をして、舞台の方へ歩いていく。
「え? ガルメフって、ガールズバンドじゃなかった?」
「どうして男がいるの?」
「しかも、私服だよ? 怪しい~」
ボクの姿を見た観客たちがざわつく。ボクは気にせずポジションについて、ギターをセットし始める。えっと、このコードをギターのここに繋いで、アンプのアウトプットに……って、逆だ。あ、危ない……そのままだと、全く音が出ない所だった。
「ギター準備できた?」
ドラムの子が聞いてくる。
「ふ、ふぁい!」
お、落ち着け……さ、最初はCコードだっけ? いや、E? Fだった可能性も。緊張で頭が真っ白になる。……なんだっけ。過去の大切な記憶だけでなく、さっき覚えた譜面までボクは忘れてしまったのか。
「いくよ、1、2、3……」
ドラムのコールが始まる。スティックを鳴らす音で、観客がシンとなり、静寂が会場を包む。
や、ヤバい、最初は……その時、極度の緊張で、ピックを床に落としてしまう。マズい……すぐに拾おうと屈んだ時、観客席の最前にいたホノカさんと目が逢う。
すっごいキラキラした目で、こっちを見ている。
ピックを手に取ってすぐ、ドラムとベースが演奏を開始する。重低音な音色が会場に響き渡る。ボクはすぐに立ち上って、入る瞬間を待つ。
…………今だっ。こうなったらアドリブでいくしかない! 己の感性だけを頼りに、メロディを奏でていく。クリーンなアルペジオで重奏する。ボーカルが歌いながら弾くキーボードの音色……楽器の音に負けない歌声も心地いい。
順調に演奏が進んでいく。サビが終わり間奏に突入し、観客もいい感じに盛り上がっている。会場をさらに沸せるためのボクのギターソロ……本領発揮だ。ここで魅せる!
「うわっ! スゲーぞアイツ……本当に高校生か?」
観客から驚きの声が飛ぶ。他のバンドメンバーからの視線も感じる。今、ここに居る全員がボクに注目しているのか。
ちらりとホノカさんの方を見た。一瞬だけ目が逢ったような気がして、ちょっと恥ずかしい。
「上手すぎだろ……!」
観客からの声に今すぐに、こう答えたい……『超技巧派なんだよ』って。
ツインギターなら二重奏といきたかったが。観客のボルテージを最高潮までブチ上げて、ギターソロが終了する。
ラスサビ、アドリブでさらに魅せたい……でも、我慢しないとな。メロディではなく、大人しくパワーコードでいこう。
こうしてボクたちの演奏が終了する。そして、間もなく観客からアンコールが飛ぶ。用意してないから、マズいんですけど……
「えっと、『Garls Melody Fleet』のキーボード兼ボーカルの明美です……今日はギターの玲子がハプニングで、ここにいません」
彼女の言葉を聞いた観客がざわつく。
「でも、このライブを成功させるために、ギリギリで代役を引き受けてくれた彼。頑張ってくれた……最高のギタリスト渚君に拍手を!」
その刹那、観客から拍手と共に歓声が上がる。沸き立つ渚コール……
「はい。何か言うことある?」
彼女がマイクをボクに渡してくる。
「え、えっと……」
何を話したらいいのか全く浮かばない。変な間で、雰囲気を壊すわけにもいかない。
「さ、さいこ~」
手を上げて自信なさげにボクが言った。その瞬間、観客から拍手が飛ぶ。
引き受けてよかったな。ちょっと恥ずかしかったけど。安堵から気持ちが落ち着く。
「じゃあ……アンコール、行けるよね?」
「……え?」
一瞬にして、不安の崖に落とされる。
ボーカルが各メンバーに向かってアイコンタクトをしていく。
1曲覚えるので精いっぱいだったから、全然頭に入っていない。曲名すら分からないし。もしかして、あれかな。練習の合間に、「ズギャギャギャアアン」って、感覚派の天才みたいな教え方された曲かな? でも、あんなのじゃ分かんない。
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