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バシリスク討伐計画2(柄の接続部加工)&いろいろ

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午前9時。村に辿りついた。広場におりてから、村長宅に向かう。例の如く、
伝令が走ったようでゴレロフさんが待ち構えていた。
「使徒様、右肩はどうしたんだ?ケガをしてるじゃないか」
「いやちょっと魔物に引っ掛けられましてね。ちょっとドルロフさんとワイルフ
さん、ティエラさん、それに狩人衆に用があるんですが、連絡頼めますか?」
「おう、分かったぜ。おい!ドルロフとワイルフ、ティエラ、それに主だった
狩人に招集かけろ」

皆が集まるまでゴレロフさんと話をした。
「毒トカゲの領域を見てきました。放って置くと森が枯れ果てるし、この村も
危ないですよ。俺の感覚だと目と鼻の先ですね」

「うーむ、俺達の感覚だと2~3日の距離があるから、悠長に構えていたのかもしれんな。使徒様、何もかも頼り切りで申し訳ないが、この村をどうか救って
くだされ!」

比較的横柄なゴレロフ村長が頭を下げた。
「村長、頭を上げてください。今日から上手くいけば、銛、いや投げ槍ですね。
投げ槍の作成に入れると思います。投げ槍が完成すれば、俺の練習、毒の収集、
そして討伐ですよ。もうすぐです」

「必要な事があれば言ってくれ。何でも協力するぜ、使徒様」
ゴレロフさんと話していると見知らぬ狩人衆がやって来た。
「村長遅くなりました。どのようなご用件で?」

「いや使徒様に呼んで欲しいと言われて伝令を出したのだが、使徒様どういう
要件だ?」

「いや、見知らぬ魔物を狩って持って来たんで、解体をお願いしたいんです。
ただ見た事ない魔物なので、食べられるかどうかは分かりません」

「見知らぬ魔物?俺も見てみたいな。よし解体場へ行こう。
おい!頭衆が来たら少し待ってろと伝えてくれ」

三人で解体場へ行き、俺は収納袋から猪犬の死体を取り出した。

「これは....」

「野草を採っていたらいきなり背後から突っ込まれましてね、
なんとか倒しましたけど。この魔物はなんでしょう?黒猪じゃないですよね?
灰色だし」

狩人が考えながら答えた
「これは報告にあった、未知の魔物達の1匹だと思います。取り合えず解体して
みますが、肉は少し我々で味見をしてから、使徒様に味見をして頂きます。
多分誰も食べた事ないでしょうから」

「分かりました。肉の扱いはその後に決めましょうか、それとアーロフさんから
聞いていると思いますが中の石は俺にください。その他の牙とか毛皮はご自由に」

「分かりました、後程味見用の肉を村長宅にお持ちします」
「あー、俺の分も持ってくるようにな」
ゴレロフさんがちゃっかり便乗している。

その後、村長宅に戻ると、ドルロフさんとワイルフさん、ティエラさんが
揃っていた。
皆に挨拶し、まずはティエラさんの要件を片付けよう。
「ベサル菜はこの野草で間違いないですか?」

土嚢袋を開いて中を見せると、
「ハイ、この野草ですわ。どの位ありますの?」

俺はベサル菜が入った8つの袋を出した。
「まあ、こんなにありがとうございます。使徒様!後で人を寄越して運ばせますわ。村長、ここに置かせてもらってもよろしいかしら?」

「ああ、かまわねえよ。それじゃあ俺は仕事に戻るぜ。打合せはこの前と同じ小屋を使ってくれ」
ゴレロフ村長は仕事に戻った。

「あ、ティエラさん、せこいようですが、その袋も星母神様の贈り物です。
後で必ず返してください」
「分かってますわよ。使徒様は塩袋も回収されてましたから。それでは皆さん
失礼しますわ」
ティエラは帰っていった。

「さて、ドルロフさん、ワイルフさん今後の事を話しましょうか」

「使徒様、魔樫は採れたんですな?」
「はい、出来るかぎり採ってきました。まずはあちらの小屋で確認してください」

俺達は昨日会議した部屋に向かった。

俺はコウエイ様の収納袋を開いて1本、魔樫の木を取り出してみせた。
「ふむ、確かに魔樫ですな。これがどのくらいあるんで?」

「63本ですね。あまり採りすぎるとよくないので、今回はこのくらいでどうでしょう?それと余った分は差し上げますが、これは毒トカゲから村を守る事業
です。品質、数量は今回の計画を最優先にしていただきたい」
最初から俺を利用しようとしていたワイルフさんに釘を刺しておいた。

「いやいや、分かっておりますよ。南の大河に行けないのはワシらにも死活問題
ですからな。ガハハ」

なんか調子いいんだよな、この親父。悪い人ではないんだろうが、多少、
利を追及する向きがあるようだ。
「では道具をお返しします。ありがとうございました」
俺はワイルフの鋸を返した。
「どうでさ?使徒様。ワシの"木引き棒"は役に立ったでしょう?」
「え、ええ大変役に立ちましたよ。ありがとうございました」

俺は言葉を濁してドルロフに話しかけた。
「ドルロフさん、接合部の留め具はこれを使おうと思うんですが」
俺は六角ボルトとナットをドルロフさんに見せた。
ドルロフさんは目を見開いてボルトにむしゃぶりついた。
「なんという精巧な細工!素晴らしいですぞ!これも星母神様の贈り物ですか?」
「はい、そうなりますね。これなら場合に応じて柄の着脱が可能です。まあ強度とかは試してみないと分かりませんけどね」
「そうなると、まずは柄を作る必要がありますね。ワシも作業工程はある程度検討しておりますので、柄が出来次第声を掛けて頂けますか?
ワシは新しいもっくあっぷでの形成手段の確認をしたいので戻らせてもらいます」

「ああ、すみません、土壇場で設計を変えてしまって」
「いいえ、使徒様。ワシはこういう作業が好きだから鍛冶をやっているのですよ」
ドルロフはニヤリと笑って帰って行った。

さて、ワイルフさんの木工所に行こうと思った時に、村長から使いが来た。
「使徒様、村長がお呼びです。こちらへどうぞ」
「分かりました。ワイルフさん、ちょっとお待ちください。すぐに戻ります」

恐らく肉が届いたのだろう。村長宅を訪ねると、先程の狩人衆とゴレロフ村長が焼き肉の乗った皿を前にして胡坐をかいている。
「おお、使徒様、取り合えずこの肉を食べてみて欲しい」

「分かりました、では、手づかみで失礼して....」
肉を一片つまんで口に入れてみる。ああ、これはダイアボアよりもっと猪肉に近いな。ほどよい獣臭が食欲をそそる。かなり美味い肉だ。
だがこれはもうちょっと熟成させた方がいいだろうな。この気温なら明日くらい
まで吊るしておいた方がいいかもしれない。

と、感想を述べた。

「ふむ、俺も黒猪より美味いと思った。これは狙って狩れるものかのう?」

「いや、難しいでしょう。大きさもかなりのものですし、これより大きいのも
いるかもしれませんよ。ロップが言っていましたが、黒猪より相当素早いみたいですよ」

「で、あろうな。今回は村人全員に配ろうと思う。それで使徒様はどの部位を
ご所望か?狩った本人は部位を選べるのだ」

「じゃあ、心臓と肝臓と脂身を少々頂けますか?明日、頭衆にご馳走しますので」

「おお、ナマコに加えて、この心臓と肝臓も食べられるのか!使徒様、
感謝するぞ」

「では、ワイルフさんを待たせているので、一緒に解体場まで行きましょう。
その場で各部位と石を頂きます」
俺は解体場でハツとレバー、脂身と石を受け取り、ビニール袋に入れてクーラー
にしまった。氷と塩を追加しておこう。石はその場で吸収した。

さて、ワイルフさんの木工所へ向かおう。急いで村長宅に戻り、ワイルフさんに
声を掛けた。
「お待たせしました、ワイルフさん。ではこれから木工所へお邪魔してもよろしいですか?」

「歓迎しますぞ、使徒様。では行きますかの」

木工所は村長宅から徒歩30分位の所だった。森に面した岡の上の材木が一杯立て掛けられた一角がそうだろう。
何人かの鬼人族が作業をしている。
「親方!お疲れ様です。そちらが使徒様ですか?」
「おお、てめーらも使徒様に挨拶しやがれ!」

「ああ、結構です。仕事の邪魔をしに来たわけではないので、気にしないで仕事を続けて下さい」
「....そうですかの。じゃあ、てめーら!使徒様に木工衆の働きっぷりをお見せしろ!」
「うぇーい」
ワイルフさんは少し不満そうだったが、俺的にはこれ以上、名乗られても覚えきれない。
ロップが木工職人達の所に駆けて行った。知り合いでもいるのだろうか?
不思議だ。

さあ、柄の加工だ。俺はコウエイ様の収納袋から魔樫の材木と枝を全て出した。
「その枝はご自由にお使いください。さて魔樫の加工についてですが....」

俺は流石に木材の目利きは出来ないので、ワイルフさんに取り合えず7本見繕ってもらった。
1本は見本にして残り6本を予備を含めた実戦用の柄にしよう。鬼人族はどうやら基本的にノミで加工しているようだ。
俺は暫く両刃鋸とハンディ鋸、木工用ヤスリ、曲尺を貸す事にした。
ワイルフさんは試した後、狂喜していたが、
これは星母神様の贈り物の中でも特に重要な物であることを強調し、無くしたり、
壊したりすると呪われると少し脅しておいた。
この人、結構お調子者だからな。使い方の説明をすると、曲尺の数字は読めない
ようだが、メモリの見方はすぐに理解したようで、見本用の魔樫の先端45cm
の皮を剥き、曲尺と炭を使って線を引き始めた。やはり職人的に感覚で分かるの
だろう。
先端40cmを角材にするのに40分程だった。素人の俺からみても、木材の真芯の部分が角材化されているように見える。
素晴らしい。おみそれしました!柄の方は完全には真っ直ぐではないだろうが、
ワイルフさんが厳選したので気にならない 。このままでもいいくらいだ。

「ガハハ!使徒様、この星母神様の神器は素晴らしいですぞ!ワシの"木引き棒"
なぞおもちゃみたいなもんですな。使徒様もお人が悪いですぞ」

「すみません。使わなかったと言えば、気分を害されるかと思ったのです。でもこの両刃鋸をドルロフさんに見せれば"木引き棒”を改良出来るかもしれませんよ」

「なるほど、そうですな!ちょっくらドルロフの処へ....」

どうも、この人は直感的に生きている様だ。
「ちょ、今日は残り6本の加工をお願いします!明日の晩餐ではナマコ以外にもう一品出しますから」

「なんですと!それなら残りを仕上げますぞ!そうだ、木材加工はこれが最後の
工程ですかな?」

「いいえ、後に角材部分に穴を開ける必要がありますね」

「ふむ、それならメネメネ液に漬けるのは、その後にしますぞい」

なんでもメネメネ液につけると木材に粘りが生まれ、割れにくくなるらしい。異世界だね~、前世ではそんなの無かったはず。
ちなみにメネメネ液とは、メネメネの樹液を主体に各種の鉱石粉、草の絞り汁、等々を調合したものらしい。内容は秘密だそうだ。

ワイルフさんに作業の続きをお願いし、俺はギギロフさんの所へ向かった。現在12時半。午後はリリを連れて一度家に帰ろう。

ギギロフさんの工房を訪れるとリリが一休みしていた。昼時だからな。
「あ、レイ兄ちゃん、ロップちゃん。無事戻っ....。レイ兄ちゃんケガしてるでねえべか!大丈夫なんか?」
「リリ、心配しなくても大丈夫だ。ほんのかすり傷だよ。ギギロフさんは何処かな?」
「オラ、呼んで来るだ」
リリは土間のような屋根と壁だけある工房を出て、奥の高床式住居に走って行った。
しばらくすると、ギギロフさんがリリとやって来た。
「使徒様、おや、ケガをされているようですな。大丈夫なのですかな?」
「ああ、ご心配なく。かすり傷程度です。リリを引き取りに来ました。預かっていただき、ありがとうございました」
「いえいえ、リリは働き者ですからのう。こちらも助かりました、リリ、助かったぞ。使徒様の所へお帰り」
「うん、ギギロフおじちゃん、ありがとう」
「ギギロフさん、本当にありがとうございました」

俺達はゴレロフ村長に挨拶した後、帰宅した。途中石河原で明日の晩餐用に
ノビルを多めに採取した。ついでにメリン茸も採っておくか。

さあ今日の晩飯は何にしよう?最近はちょっと魚介系は食傷気味だ。
「リリは晩飯は何がいい?」
「オラ、黒芋がいいだ」
「ボクは茶鱒がいいっす」

ふむ、今日は黒芋で軽くすますか。釣りをするのは面倒だからロップは干物だ。
洞窟に着いた後、リリとロップに指示をした。
「さて、リリ君、先程採ったメリン茸を干し網に入れましょう。その後はロップと遊んでいて良し!」
「オラ、お手伝いしてえだよ。何かお仕事くんろ」

ギギロフさんの所で勤労意欲に火が付いたのだろうか?
俺は収納袋からまな板と、ベサル菜の入った土嚢袋とタライを出した。
そして洞窟からすりこ木を持ってきた。
「えらいぞ、リリ隊員。では特別なお仕事です。この袋の野菜をまな板に載せて、
この棒でしなしなになるまで叩いてください。
全部しなしなになったら、干し網に入れて干しましょう。分かりましたか?」
「うん、オラ頑張るだよ」

ロップはリリと遊べなくなったので、うにゃうにゃ騒いでいる。
「ロップはリリ隊員を見守っているように、俺はちょっと上流の探索をしてくる」

俺は剣スコップを持って上流の滝を飛び越えた。今までは森の中を中心に探索
していたので、川沿いに遡上してみようと思ったのだ。

ゆっくり時速30キロ位の感覚で渓流を遡上すること20分、小さな小川が北から合流している。小川の両岸には見た事ある植物が繁茂している。
近づいて確認すると、やはりクレソンだった。これも明日の料理に使えるし俺も欲しい。土嚢袋に2袋分採取した。

本流に戻ってもうちょっと遡上してみよう。
10分程すると、新たな行者ニンニクの群生地を発見。これも明日使う予定だ。
1袋分確保する。さてそろそろ戻ろうかと思った時、廻りの楢みたいな木の下に、
3cm位の傘のキノコがポコポコ生えている。軸がでっぷりした美味そうなキノコだ。
ちょっと齧ってみるか。俺、毒に強いし。黒い傘を一口齧ってみた。
凄く味が濃いキノコだな!多分調理したら凄く美味いキノコだと思う。
特にゾクゾクもしないし毒は無いようだ。
....採ってみるか。ロップが知っているかもしれないな。
でも、俺のゾクゾクする毒感知能力って、ドクササコみたいな遅効性の毒キノコ
も分かるのかな?ちょっと不安だ。周りの人が知らないキノコは俺以外には
食べさせない方がいいかもしれない。一応50個位採っておいた。

まだ1時間程しか経っていないので、もう少し遡上してみよう。結構高地だと思うが、両岸は日本の渓流のように峻嶮な感じではなく森になっている。
北海道の川が似ているかもしれない。

10分程川を遡ると、水辺で変な鳥が水を飲んでいる。
なんだろう、ずんぐりむっくりでよたよた歩いている。大きさは、体長というか
直径というか60cm位だ。首も短くて太い。全体的に鶉みたいな体形だ。
体色は深緑色で嘴は鴨みたいで足には水かきがある。なんか頭の羽毛の一部が寝ぐせみたいに逆立っているぞ。
眼は赤くないので魔物ではないのだろう。よたよたと森の中へ入って行く。

よし、付いて行ってみよう。後ろから付いて行くと川辺から100メートル位
森に入ったところの木の下に巣?を見つけた。巣ではつがいの片割れがしゃがみ込んでいる。卵を温めているようだが、右足をケガしているようだ。

俺が近づいて行くと、俺が尾行していた一匹が俺の方にやって来た。
攻撃されるのか?全然怖くないけど。俺の足元までくると俺を見上げて、
『くわっくわっ』と鳴いた!

....それだけ?君たちそんなんで、カギムシ君とかヘッピリムシ君がいる場所で
良く生きてこれたね。俺が手を伸ばして頭を撫でると気持ちよさそうに目を細めている。
ダメだこいつら、警戒心がまるでないぞ。何か秘められた力があるのか?
そういえば絶滅したオオウミガラスやドードーも人に対して警戒心が全く無かったらしい。コイツの丸っこい体形はドードーに似ているな。

....これはお節介だし、俺は間違っているかもしれない。だがこの愛すべきバカ鳥
を放って置けなくなった。巣ごと俺の家がある壺中天に引っ越して貰おう。
相方の傷が治ったら子供達と共にここに返そう。そうしよう!

俺が2匹にスリープを掛けるとすぐさまグテンとひっくり返った。
それぞれ土嚢袋にいれ、4個の卵も巣ごと袋に入れた。俺は袋を持って
飛びあがり、最高速で家に帰った。ほんの数分である。

巣は何処にしようか?林の中で似たような感じの木を選んで、そっと巣を置いた。
鳥達もそっと近くに横たえた。今のうちに治療しよう。右腿にケガをしている方にスリープを重ね掛けして昏睡させた、傷口を調べてみると裂傷だな、何かに引っかかれたんだろうな、それなりに深い。これは縫うしかないだろう。
俺は洞窟からろうそくとソーイングセット、釣り糸と医療箱を持ちだした。
何事かと、ロップとリリも付いてきた。
「レイ兄ちゃん、どうしたんだべ?」
「森でケガをしている鳥さんがいたから、連れてきたんだ」
「鳥っすか、ボク、鳥も大好きっすよ」 
「ロップ、手を出したら一生、飯抜きだからな」

ロップがうにゃうにゃうるさいが無視してオペ開始だ。一応スタンを掛けておく。
傷口を消毒し、縫い針をろうそくの火で熱して消毒し、釣り糸0.6号で素早く
縫い合わせて行く。なかなかの手際じゃね?10分位で自己流縫合が出来た。
あとは念のためヒールを掛けよう。するとケガをしていない方より早く目覚めた。
『くわっくー』

俺を見上げて頭を擦りつけて来た。なんだこの人懐っこさ。大丈夫かこの生き物。

「うんわ~。めんこいだなや~」
リリが頭を撫でると、
『くわーく』

リリにも頭を擦りつけて『もっと撫でれ』アピールをしている。
どういう生き物なんだろう?
「ロップ、この鳥が何か分るか?」
「知らないっすよー、こんな美味しそ、いやこんな変な鳥」

ロップには注意せねばなるまい。
「という訳で、ケガが治って卵が孵るまで、この鳥達の面倒をみます。
宜しいですね」
「は~い」
「おや?ロップ君の返事が聞こえませんでしたよ」
「....うにゃ」

なんだその適当な返事は!食べる気なのか?
ロップには後で厳重に訓戒をしておこう。

もう1匹も目覚めたらしいな。リリと遊んでいる。
ケガをしている方は巣で卵を温め始めた。
「レイ兄ちゃん、この子達に名前を付けてもいいだか?」
「名前?ああいいぞ、リリが付けなさい」
「うふ、じゃあこの子が"わっくー"でこの子は"くーわ"にするだ」
どうやら、頭に寝ぐせがある方が"わっくー"で、ケガをしてる方が"くーわ"らしい。

コイツラは何を食べるんだろうな。適当に餌を並べてみよう。

・赤芋を細かく切ったもの:完食
・黒芋を細かく切ったもの:完食
・ノビル        :完食
・行者ニンニク     :完食
・干し牡蠣       :完食
・カニ         :完食
・牡蠣殻を砕いたもの  :完食

....何でも食べるんだね。たまに食べ残しとかをバケツに入れて置いとけば勝手に
食うだろう。この林にも虫とかミミズとかいるだろうしな。 

よし、仕事に戻ろう。
「リリ君、お仕事に戻りますよ。あとロップは後でお話があるので覚悟しておく
ように」
「うにゃ~!ボク何もしてないっすよ」
「だまらっしゃい!これから何もしないようにお話をするのです!」
ロップは不満なようだが仕方がない、以前、ロップの前に放置した魚を全部
食われた事があるからな。

採ってきたクレソンと行者ニンニクは、明日使う分を取り分けてクーラーに
入れておく。
残りはリリにグンドゥルック作りを頼んだ。ちょっと多いかなとおもったが、
勤労幼女は、
「オラに任せてくんろ!」
と胸を張った。不貞腐れているアホ猫とは偉い違いだ。

さて、俺は明日の準備をしよう。ナマコは戻っているのでクーラーにいれてある。
10個だからクーラーは結構一杯だ、レバーとかクレソンとかも入ってるからな。

あとは、そうだ黒いキノコを採っていたな。ロップに聞いてみよう。
「ロップ君、ちょっとこっちに来なさい」
「なんすか?意地悪レイ様。ボクの事は放っておいて欲しいっす」

不貞寝してこっちを見もしない。すっかりグレてしまったようだ。
困ったな。癪だがロップの機嫌を取らなくてはならない。
リリの無邪気さに賭けてみよう。
「なあ、リリ君。俺達と出会ってから今日で18日位だけど、どうだったかね?」
「オラ、すごく楽しかっただよ。レイ兄ちゃんは優しいし、ロップちゃんはオラ
の初めての友達だ」

不貞寝をしていたロップの耳がピクリと動いた。いいぞ、聞き耳を立てているな。
「ほう、ロップはリリの友達か。ロップと遊ぶのは楽しいかね?」
「うん!オラ、ロップちゃんと遊ぶの楽しいだよ。ずっと一緒にいたいだよ」
「ふ~む、ロップにもいい所があるのは俺も知っているが、リリとこんなに
仲良くしているなら、ロップには何かご褒美を....」

ロップがぴょんっと飛び上がって俺に肉球を突き出した。
「意地悪レイ様もやっとボクの真価に気付いたっすね!早くボクにご褒美を
寄越すっすよ!」

良く不貞腐れ、良く調子に乗る。これがロップの真価だ。要するにちょろい。
「まあまあ、ロップ君、俺もキミの真価に今気付いた所で動揺しているのだよ。
俺の不明を許してくれるかい?」

ロップが鼻息を荒くして、ふんぞり返っている。
「まあ、今回だけっすよ。まったくレイ様はボクがいないと何もできないっす
からね」

あのヤサグレ状態から、この天狗状態まで瞬時に変化できるのは正直スゴイと
思う。
「そうですね、ロップさん。ところで、さっきこんなキノコを採ったのですが、
これはご存じですか?」
ロップは匂いを嗅いでから、ふんぞり返って偉そうに答えた。
「これはポレポレ茸っすよ。かなり希少なキノコっす。ボクには分からないっす
けど、干すといい味が出るらしいっすよ。コウエイ様の大好物だったっす。
ただよく似た毒ポレポレ茸があるから注意が必要っす。レイ様なら齧れば分かる
っすよ」

えー、50個位あるのに、全部味見する必要があるのか。
面倒だが俺は全てのキノコを少し齧って毒見をした。
3個程ゾクゾクするのがあったので廃棄した。
そしてポレポレ茸を魔法で乾燥させてみる。明日の料理に使えるかもしれない。

まず戻し汁を作ってみる。今回は適切なブレンドを試すのだ。干し牡蠣、煮干し、
ポレポレ茸をそれぞれ水で戻す。その間に赤芋を10個程おろし金で摺り下ろす。
さらしで摺り下ろした赤芋を少量ずつつつみ、大き目のボールに水を入れて
さらしを水の中でゆすってデンプンを抽出していく。確かガキの時に理科の
実験でやったのはこんな感じだったはずだ。しかしなかなか面倒臭い。
リリの方は作業が終わったようなので、手伝ってもらうことにした。
二人して1時間程掛けて赤芋からデンプンを絞りだした。
あとはボールの水を放置しておけばデンプンが底に沈殿するだろう。
しかし10個は多かったか?それに搾りかすはどうしようかな?マッシュポテト
にして食うしかないな。多いから鳥達にも分けよう。うん、そうしよう。

ポレポレ茸の戻し汁はメリン茸よりも濃厚でちょっとマツタケっぽい匂いもする。
これは上等な食材だ。

戻し汁の分量は牡蠣:煮干し:キノコ=5:2:3に決めた。鶏ガラとかあれば
また違ったんだろうけどな。ん?鶏ガラ....
いかん!俺は何を考えているのだ。

そろそろデンプンがボールの底にたまって来た。上澄みを捨て、沈殿した白い
糊状のデンプンに基本魔法の乾燥を掛けるとカチカチのデンプン塊になった。
量的には麻婆豆腐の素に入ってるトロミ粉×10といった感じだ。
すり鉢で擦って粉化し、小瓶に入れておく。

よし明日の晩餐会の準備はこれでいいだろう。

晩飯は黒芋を茹でたのと、赤芋の絞りカスをダッチオーブンで蒸して、
少しのオリーブオイルと塩故障であえたマッシュポテトだ。
デンプン食になってしまったがたまにはいいだろう。
残ったマッシュポテトは残飯と一緒にバケツに入れて、
リリが"わっくー"と、"くーわ"の所に持って行った。

ロップが『ご褒美!ご褒美!』とうるさかったが、いなしてリリとの
リバーシ対戦に誘導して胡麻化した。

さあ、明日は投げ槍の試作と晩餐会だ!
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