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第四章
第41話 目覚めの記憶
しおりを挟む遠くで風の音がした。
柔らかな陽の光がまぶたの上を撫でていく。
重い眠りの底から、リクはゆっくりと浮かび上がった。
胸の奥で、小さな心臓の鼓動を感じる。
手を動かすと、温かいものが包み込んでいた。
「……あ……」
かすれた声が漏れる。
瞼を開けると、
銀色の髪が光を受けて揺れていた。
「――リク!」
シリウスだった。
驚いたように身を乗り出し、
その手を強く握る。
「……よかった……本当に……」
声が震えていた。
リクはしばらく言葉が出なかった。
その姿が、夢の中の“彼”と重なって見えた。
同じ瞳、同じ声。
違うはずなのに、
心が覚えている。
「……シリウス」
「はい、王子」
「ずっと……そばに、いてくれたの?」
「ええ。あなたが目を覚ますのを、ずっと待っていました」
その穏やかな笑顔が、
胸の奥をじんわりと温める。
同時に、涙が滲んだ。
――あの病室で、同じ笑顔を見た。
「……ありがとう」
「なぜお礼を?」
「夢を見たんだ。……すごく懐かしい夢」
シリウスは小さく首をかしげる。
「どんな夢ですか?」
「……昔の世界で、僕は子どもの頃、病院にいて。
そこに、花を持った青年が来てた。
母親の見舞いにね」
「……」
「その人が、僕に言ったんだ。
“外を歩けるようになったら、笑って見せてよ”って」
静かに語るリクの声を、
シリウスはただ黙って聞いていた。
どこかで聞いたことのあるような、
それでいて遠い話のように感じていた。
リクは小さく笑う。
「君に、よく似てたんだ。
その人も、同じ瞳をしてた」
シリウスは少しだけ目を伏せた。
「……私が、その方に似ていると?」
「うん。……たぶん、君だよ」
その言葉に、シリウスは息を詰めた。
リクの瞳はまっすぐで、冗談ではないと分かる。
けれど、彼には何も思い出せない。
“夢”の話としてしか理解できなかった。
「……私は、この国で生まれ、この城で育ちました。
それ以外の記憶はありません」
「そう……だよね」
リクは微笑んだが、胸が少し痛んだ。
(でも、たとえ覚えていなくても――
僕は、もう知ってる。君はあの時の人だ)
「無理に思い出さなくていい。
それでも、君がここにいることが嬉しいんだ」
シリウスは困ったように笑った。
「王子は……不思議なお方です」
「そうかもね」
リクは目を閉じ、深く息を吸った。
外から吹き込む風が、どこか懐かしい匂いを運んでくる。
春の匂い――あの時、彼が話してくれた“花の香り”だった。
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