《完結済》獣人王国の四男に生まれましたが、何故か人間でめちゃくちゃ愛されてます!?

MITARASI_

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第五章

第45話 風の庭で

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 春の風が、庭の花々を揺らしていた。
 空はやわらかく晴れ、
 青の中にうすい雲が浮かんでいる。

 リクは城の裏庭にある小さな石のベンチに座っていた。
 久しぶりの外気。
 頬を撫でる風が心地よくて、
 胸の奥に少しだけ懐かしさが混じった。

 (あの病室の窓から見た空も、
  きっとこんな風だったのかな……)

 風に乗って、花の香りが届く。
 甘く、そしてどこか切ない。
 リクは目を閉じた。

 「……ここ、好きなんですか?」

 声がして、振り向く。
 シリウスが少し離れた場所に立っていた。
 陽を受けた銀髪が、風にきらめく。

 「いつから……いたの?」
 「王子の姿が見えなかったので。
  ……心配で」

 少し気まずそうに言うその声音が、
 どこか優しい。

 「心配かけて、ごめんね」
 「謝ることではありません」

 シリウスは近づき、
 ベンチの隣に立った。
 その距離が近づくだけで、
 リクの心臓が早くなる。

 「体調は、どうですか」
 「うん……まだ少し重いけど。
  でも、風にあたると楽になる気がする」
 「……よかった」

 風が二人の間を通り抜けた。
 花びらがひとひら、リクの膝に落ちる。
 シリウスがそれを拾おうと手を伸ばす――
 指先が、ふと触れ合った。

 リクの息が止まる。
 シリウスも一瞬、動きを止めた。

 その短い時間に、
 世界が静まり返ったように感じた。

 「……すみません」
 シリウスが少し顔を背けた。
 その耳の先が、わずかに赤く染まっている。

 リクは小さく笑った。
 「謝らなくていいよ」

 指先のぬくもりが、まだ残っていた。

 「……ねぇ、シリウス」
 「はい」
 「僕さ、前の婚約のこと……正直、少しほっとしたんだ」

 シリウスの瞳が僅かに揺れた。
 リクは空を見上げる。
 「責任とか、義務とかじゃなくて。
  この気持ちは、自分のために残したかったんだ」

 「王子……」
 「僕ね、今、この風を感じられることが嬉しい。
  こうして君が隣にいるのも」

 シリウスは何も言わなかった。
 ただ、その横顔にほんの一瞬、
 優しい光が宿った。

 「……そう言っていただけて、光栄です」

 それだけの言葉が、
 リクには何より嬉しかった。

 (君は覚えていないけど……
  やっぱり、僕は君が好きなんだ)

 胸の奥で静かにそう呟く。
 風が二人の間を吹き抜け、
 花びらを舞い上げていった。
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