《完結済》獣人王国の四男に生まれましたが、何故か人間でめちゃくちゃ愛されてます!?

MITARASI_

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第五章

第48話 記憶の交差

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 夜。
 外では静かな雨が降っていた。
 窓に打ちつける雫の音が、まるで遠い記憶を呼ぶように響く。

 リクは眠っていた。
 浅い呼吸。
 額に汗が滲み、胸がかすかに上下している。

 ――また、あの夢。

 灰色の街、雨に濡れたアスファルト。
 車の音、ネオンの灯り。
 前の世界の空が、重く垂れ込めている。

 (いやだ……また、ここに引き戻されるの?)

 足元が溶けるように崩れ、
 身体が闇へと沈んでいく。

 (戻りたくない……僕はもう、あの頃の僕じゃない)

 声を出そうとする。
 けれど、喉が焼けるように痛くて、声が出ない。

 ――陸。

 また、誰かが呼ぶ。
 あの懐かしい声。
 “前の世界の彼”、優しい青年の声が近づいてくる。

 (違う……行かないで……!)

 リクは必死に目を開けようとした。
 夢の闇を破ろうと、喉を震わせる。

 「……っ……いや……!」

 現実のベッドの上で、
 彼の体が震え、布団がずり落ちる。



 その声を聞きつけて、
 シリウスは廊下を駆けていた。

 「リク!」

 扉を開けると、
 リクが苦しそうに身体を丸めていた。
 額には汗、唇は何かを訴えるように震えている。

 「王子! しっかりしてください!」

 シリウスが肩を支えると、
 リクの唇がかすかに動いた。

 「……しり……うす……行かないで……!」

 その一言が胸を貫いた。
 「私はここにいます。大丈夫、もう離れません」

 けれど、リクはまだ目を開けない。
 眠りの中で、震える手がシリウスの頬に触れた。
 「……やっと……会えた……」

 そのまま、彼は夢の中の“誰か”を抱くように、
 シリウスに身を寄せた。

 そして――

 唇が触れた。

 ほんの一瞬の、
 けれど永遠に続くような静寂。

 光が弾けた。

 シリウスの頭の奥に、
 知らない光景が流れ込む。

 ――白い病室。
 ベッドの上の少年。
 花束を持つ、自分と同じ顔の青年。
 「外を歩けるようになったら、笑って見せてよ。」

 あの声、あの言葉。
 そして、雨の交差点。
 車のブレーキ音。
 倒れた少年を抱きとめようとする手。

 (これは……俺の……記憶?)

 目を見開く。
 息が苦しい。
 けれど、胸の奥が熱い。

 リクのまつげが微かに震え、
 彼の唇から小さく言葉が零れた。

 「……また……会えたね」

 その声に応えるように、
 シリウスの瞳から一粒の涙が落ちた。

 「――あの時、君は……」

 記憶と現実が溶け合い、
 夢も世界も、ひとつの光に包まれていった。
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