農家は万能!?いえいえ。ただの器用貧乏です!

鈴浦春凪

文字の大きさ
274 / 403
第6章  罪咎

第14話  交流

しおりを挟む
 ジョシュアは月に一度の取引の為に森の最奥へと来ている。五歳になったばかりの息子も一緒だ。

「村長。――言われていた物を持って来た。確かめてくれ」

 ジョシュアはそう言って大きな袋を差し出す。

「人間。――すまないな。こちらも交換用にいつものを準備してある。確認してくれ」

 そう言うのはホブゴブリンの村長だ。広大な森の中でゴブリンと共にひっそりと暮らしていた。

 狩人を生業としたジョシュアは森の狩りの途中でこの村を発見し、以降交流を深めている。


 ――かつて受けた命の恩を返す為に。

 野生動物の多いこの森は肉や薬草は沢山手に入る。だが、塩や布。道具が不足している。それらを毎月持ち込んでいるのだ。

「今日は息子を連れて来た。自慢の子だ。シルビィー。自己紹介をしなさい」

 その声を受けて少年が前に進みでる。

「初めましてシルビニオンと言います。日頃より父がお世話になりありがとうございます。今後は私も含め宜しくお願い致します」

 それは流暢な神聖語だった。

「宜しくな。子供よ。私の名前は人間には発音しづらい。村長と呼んでくれ」

「分かりました。村長さん」

 少年。シルビニオンはペコリと頭を下げて後ろへ下がった。

「人間。――この頃、森が騒がしい。何かの前触れでなければ良いが。お前も気を付けろよ」

「そうなのか? 何かあれば教えてくれ。手伝いたい」

「その気持ちだけで十分だ。もうお前の恩は返せたはずだ。この村も助かっているよ。何かあれば家族を守れ」

 村長はそう言うとジョシュアの肩の横を叩いた。

 村長との一触即発の緊迫の出会いから四年。信頼の絆はしっかりと結ばれた。

 村長に誘われてお茶を頂いていると、体長1mほどのゴブリンが集まって来る。そして、くりくりの円らな瞳で可愛く挨拶をした。

「いらっしゃい。人間。いつもありがとな」

 ジョシュアは笑みを浮かべてシルビニオンへと話かける。

「シルビィー。あれを配ってあげなさい」

 シルビニオンは立ち上がると瓶を取り出した。

「初めましてシルビニオンと言います。いつも父がお世話になっております。その感謝の気持ちです。良ければ受け取って下さい」

 そう言って飴を配り出す。

 目をキラキラさせて受け取ったゴブリンは全員に行き渡るのを待って一斉に口に含むと声を揃えた。

『『『甘ぁ~い!』』』

 村の時間は穏やかに流れる。――暫しの平穏を。
しおりを挟む
感想 331

あなたにおすすめの小説

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

異世界チートレイザー

はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別名義で『小説家になろう』にも投稿しています。 これは【サトリ】と呼ばれ忌み嫌われた少女と、異世界に召喚されチート能力を無効化する【チートレイザー】の力を与えられた少年の、捻じ曲げられた運命を切り開く物語である。 ※今後も各種名称・設定の一部などを、諸事情により予告なく変更する可能性があります。なにとぞご了承ください。

収奪の探索者(エクスプローラー)~魔物から奪ったスキルは優秀でした~

エルリア
ファンタジー
HOTランキング1位ありがとうございます! 2000年代初頭。 突如として出現したダンジョンと魔物によって人類は未曾有の危機へと陥った。 しかし、新たに獲得したスキルによって人類はその危機を乗り越え、なんならダンジョンや魔物を新たな素材、エネルギー資源として使うようになる。 人類とダンジョンが共存して数十年。 元ブラック企業勤務の主人公が一発逆転を賭け夢のタワマン生活を目指して挑んだ探索者研修。 なんとか手に入れたものの最初は外れスキルだと思われていた収奪スキルが実はものすごく優秀だと気付いたその瞬間から、彼の華々しくも生々しい日常が始まった。 これは魔物のスキルを駆使して夢と欲望を満たしつつ、そのついでに前人未到のダンジョンを攻略するある男の物語である。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...