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第一章 最強パーティ、一夜にして糞雑魚パーティへ

第9話 デュエル&ドラゴンズ

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 「デュエル&ドラゴンズ!
 今から四十年程前、一人の吟遊詩人が冒険者パーティーに属していた。
 詩人は夜営が嫌いだった。暇だからだ。
 食事が終われば後はもう何もすることがない。ああ退屈だ。
 あまりにも、あまりにも退屈な詩人は余ったマッピング用の紙を使って対戦ゲームを作り出した。
 暇つぶしにと詩人が作り出したその対戦ゲームはパーティ内で大流行し、
 彼らは酒場でデュエル&ドラゴンズを遊ぶのが日課になった。

 『あいつらが遊んでいるあのカードゲームはなんなんだ!?』

 『トランプじゃないのか!?』

 『なんてこった! ワイバーンのブレスで相手の騎士団があっという間にまっ黒焦げだ!』

 詩人は複製した自作のカードゲームを酒場に集まる冒険者達に配った。
 彼らがカードゲームにドハマりするのにそれほど時間はかからなかった。
 詩人の行きつけの酒場では日夜冒険者達が自分のカードゲームに熱中してくれたのだ。
 これはイケる! 手応えを感じた詩人は冒険者を引退して『迷宮の魔術師』なる会社を設立し、自作のカードゲームを世界に販売することにした。
 それがデュエル&ドラゴンズ!
 ルールはシンプルにして奥深い。
 あらかじめ六十枚のカードを用意し、自前のデッキを作成する。
 そしてデッキからモンスターや英雄を召喚し、魔法を用い、相手の体力を0にする。
 英雄に伝説の剣を装備させ大暴れさせるも良し、ドラゴンゾンビを墓地から蘇らせて毒のブレスでトドメを刺すも良し。
 幅広く奥深いそのゲーム性。世界はあっという間にデュエル&ドラゴンズに魅了された!」

「相変わらずそのカードゲームのことになるとすごい早口になるねアイザック……」

「それやってる冒険者あんた以外に全然見かけないけど?」

「たま~に、たま~にワシは見たことあるかのう。本当極々まれに。”あ、あれアイザクがハマってるやつじゃ”って」

「静かに!  そしてデュエル&ドラゴンズは公式大会が定期的に開かれていてな。

 その成績に応じて独自のランクが授与されるんだ。ランクは全部で七つ!

トカゲ
ブロンズワイバーン
シルバーワイバーン
ゴールドワイバーン
ブロンズドラゴン
シルバードラゴン
ゴールドドラゴン

 デュエル&ドラゴンズプレイヤー、通称デュエリストはゴールドドラゴン目指して日夜しのぎを削っているわけだ。
 俺? 俺はゴールドだ」

「ゴールド……ゴールド何?」

 ベルティーナがジトリとこちらに睨みを効かせてくる。

「ワイバーン……ッすね……
 でもな、今度の世界大会で俺はドラゴンに。竜に成るんだ……」

「うっわ」

「おおふ……」

「うん……」

 まさかデェエドラの世界大会がこの街で行われるだなんて渡りに船としか言いようがない。
 完璧なゲームであるデュエル&ドラゴンズ唯一の欠点。それはランクを上げる機会が想像以上に少ないことだ。
 各地で定期的に大会が開催されるのだが、世界は想像以上に広い。
 開催地が遠すぎてたどり着けないプレイヤーが続出しているのだ。
 なのでランクを上げられるかはかなり運に左右される。
 過去に俺が唯一参加できた大会も開催地にたどり着くまでに八十日もかかった。
 道中盗賊に襲われ、カルト教団に拉致され謎の儀式の生贄にされかけ、いたずら好きな妖精に惑わされ四十日間森を彷徨わせ続けられた。
 あの時は餓死寸前の発狂寸前まで追い込まれたっけなあ。いたずらの範疇から超えてるよね。
 それでも死にもの狂いでたどり着いて……ゴールドワイバーンクラスになれたんだよなあ。思い出しただけで泣けてくるよ。

「つまりデュエドラプレイヤーの地元で大会が開かれるってのは千載一遇のチャンスなんだよ!」

 地元で大会が開かれるのなら旅路の心配をすることは一切ない。
 デッキの強化にのみ専念できる。実にありがたい!

「そ、そういうわけでアイザックは大会までにお金を稼がないとってことだね」
「そういえばあんた冒険で得られるお金を全部カードにつぎ込んでたわよね……普通レベル20の冒険者がこんな安宿で暮らしている事自体異常なことなのよ?」
「それでも足りないくらいだ。まだ見ぬ強敵達に勝つには俺のデッキはまだまだ未完成。大会までに仕上げないといけない」
「そ、それは大変じゃのう。じゃあ、ワシもベルティーナもオスカーもアイザックも。それぞれが迷宮に潜る強い理由があるわけじゃな」
「オスカーは……そうね。あんたは潜らないと駄目な男だったわね」
「ああ。それぞれ別の理由もあるし、レベルドレインの謎も出来れば解き明かしたい。明らかに特別なケースだ。もしかしてレベルを取り戻すこともできるかもしれないしね」

 動機は十分実力不十分。
 元最強冒険者達の最弱パーティ再結成が今ここに可決されたわけだ。

「また組むのは一年ぶりってとこか。んじゃま、よろしくな」
「アイザック、お主、腕は鈍ってないじゃろうな?」
「めっちゃ鈍ってるよ。だって俺今レベル1だもん!」
「あ、そうじゃった。ワシもじゃった! ワシもレベル1じゃった!」
『ワハハハハハ!』
「笑い事じゃないっての……相変わらずのバカ前衛で不安だわ私……」

 頭を抱えるベルティーナと苦笑いを浮かべるオスカー
 そしてゲラゲラ笑ってる俺とギフン。
 酒が入っていることもあるが、こいつらとならよっぽどのことがない限り余裕だろう。
 サクサク迷宮を進むとするか。その時の俺はそう思っていた。

 明日の早朝迷宮に挑戦する為、今日は各自冒険の準備を整えることになった俺達はその場で解散した。
 全員が全員愛用のマジックアイテムが使えなくなった為、初心者用の装備を整えなければならなかったからだ。

 ザグラスの洗礼が使えないのは実に痛い。何かせめてマシな武器や鎧が見つかればいいが。
 俺以外の全員は自宅にレベル1用の装備を残しているということで
 俺だけがこの街唯一の商店である「コーセイ取引商店」へと足を運ぶことになった。
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