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第一章 最強パーティ、一夜にして糞雑魚パーティへ
第20話 火吹酒と魔法使い亭
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「んだよデュランスゥ~。徹夜でデュエルも辞さない覚悟だったってのによお~」
エールを煽ってテーブルに叩きつける。俺のこの火照った熱情はどこへぶつければいいんだ!
今日は色々なことがあった。
すでに出来上がっている仕事上がりの労働者と冒険者の喧騒に囲まれながら今日一日を思い返す。
一番はやはり……ソニアとデュランスの加入だろう。
二人共筋はいいはず、だ。二人共そそっかしい所はあるが経験を積めば化ける可能性を感じる。
ソニアは……不思議な子だな。なぜエルフでありながら格闘家の道を選んだのか少し気になると言えば気になるな。
失敗に終わったがゴブリンに掛けたあの投げ技はなかなかに見事だった。
とはいえ彼女の戦い方は多対一には向いていない。一対一に持ち込めるようにうまく俺とギフンが動くべきだな。
デュランスもやや神経質な所はあるがむしろパーティのクレリックはそれくらいが丁度いい。
常に気を張ることの出来る性格は冒険者向きだ。
回復や防御力増加。神聖呪文が迷宮探索でどれだけ役に立つかは身にしみて知っている。
ネズミとの戦いでは大いに役立つことだろう。
そう……ネズミだ。今回は運良く出会わなくて済んだが、この先探索を続けるのならば奴らとの接触は避けられないだろう。
噛まれた時に骨まで歯が届いた感触を覚えた。
奴らは凶暴になっているだけじゃない。実際に歯も長くなっているみたいだった。
次に戦うまでにどうにか対策を練って置かなければ……ああ憂鬱だ。
塩辛いベーコンをかじり、エールを再び煽る。
ジョッキを顔から離すと対面に一人のダークエルフが座っていた。ベルティーナだった。
「浮かない顔じゃないアイザック。デュランス君に振られてやけ酒?」
ニヤニヤしながら俺の手元のエールを奪い取り一息に煽る。
「は? フラレてなんかないんだが? 急な体調不良なだけだったんだが? だいたいお前なんでここにいるんだ? 疲れたから家で寝るって言ってたじゃないか……プハァ」
ベルティーナからエールを奪い返して飲み干す。もう一滴も入ってないぞ。ざまあ見ろ
「あんたがあまりにも寂しそうな顔をしてたからね。超美人ダークエルフのベルティーナ様が慰めにきてやったってわけ」
「自分で言うな自分で。別に俺は気を落としてなんかいやしないさ」
「それにしてはなんだか考え込んでるみたいだけど?」
「まあそりゃな……レベルドレイン。戦力低下。ネズミの凶暴化。考えることが多すぎるんだよ」
「まあそうねえ……でもレベルドレインの謎を解く鍵に繋がっているかも知れないって考えると進捗を感じないかしら? すいませーん! エール二杯!」
「あいつらが強くなった経緯を調べれば俺らのドレインの謎にも近づけると?」
「魔法ってのは理論なのよ。差し出した分だけ力が得られる。天秤が釣り合ってない魔法は存在しない。だから私達の弱体化とネズミの強化が……」
「釣り合うのならそこには何かしらの意図があると?」
「そういうこと。あ、ありがとう。ングング……プハー! やっぱり探索の後のエールは最高ね!」
「あ、あまり飲みすぎるなよ」
ガニ股で膝をパンパン叩きながらウーウー唸るベルティーナ。ここまで恥じらいを知らないエルフを俺は見たことがないよ。
それにこいつは酒に弱い癖に酒が大好きだから手に負えない。
特に酔っ払うと人の頭やら体やらを触りまくる触り魔へと変貌する。
俺のモミアゲとギフンの髭が何度犠牲になったことか。程々にさせておかないと俺にまで危害が及ぶ。
「大丈夫よアイザック。恐らく今日の探索でレベルが上がるはず。明日は魔法の矢覚えていくから少しはマシになるわよ」
「おお!魔法の矢が使えるなら少しはマシになるな!」
「覚えてなかったら火矢でなんとかしのぎましょ」
「うーん……期待してるぞ」
「お姉さんに任せなさい任せなさい。ネズミ共め、この大ウィザードベルティーナ様に恐れおののくといいわ!」
ベルティーナが自分の胸をドンと叩くと同時に手にしているジョッキからエールがこぼれ、胸もこぼれる。
最強魔法が魔法の矢のウィザードがここまで自信満々に振る舞えるとは驚きだな。しかし……
「相変わらずその”大ウィザード”って通り名クッソだっせえなあ」
「クッソイケてるじゃないのよ。一周回ってかっこいいのよこういうのは!」
「うーん……そんなもんかあ?」
「そう。だからあんたは大ファイター」
「ダ、ダセえ!」
「ギフンは大サムライ。オスカーは大盗賊」
「ギフンダセえ! オスカー、か、かっけえ……」
「確かに……大盗賊は一周回ることなく最初からかっこいいわね……ズルいわ」
「大ってなんでもつけりゃいいもんじゃねえとは思うけどな」
「まあまあ。そういうものそういうもの。ねえアイザック。話は変わるけどあんた今年で何歳だっけ?」
「めちゃくちゃ急な方向転換だな。二十五歳。あと半年で二十六だな」
「ふーん。あんたさ、結婚とか意識しないの? 冒険者稼業だってずっと続けてられないでしょ」
「結婚? 考えたこともなかったな。世間一般じゃ確かに俺くらいの年齢なら所帯を持っててもおかしくないんだろうけども」
「ふーん……」
結婚か……考えたこともなかったな。ひたすら迷宮に潜って。稼ぎはカードに費やして。
ずっとそんな生活を続けていくつもりだったけど。
確かに一生やっていける仕事ではないな。
とはいえ自分が冒険者以外の仕事をしていて妻と子供に囲まれて……そんな人生を歩んでいる自分が全くイメージできない!
稼ぎのほとんどをレアカードに費やすダメ亭主に堕ちそうだ。となると……
「この稼業で食ってる間は結婚する気はないかな。しかしベルティーナ。なんでまたそんなことを聞くんだよ」
「ん? 別に。なんだっていいじゃない。とにかく今日一日無事なことを祝って飲みましょ食いましょ!」
ベルティーナはエールのジョッキをガフガフと喉に流し込む。なんだか妙に機嫌が良さそうだ。
ま、無事に探索を終えることができたんだ。俺も本腰入れて飲むとするか!
そんな俺とベルティーナの間に影が割り込む。
「相変わらずの飲みっぷりねベルティーナちゃん! お姉さんこれサービスしちゃう!」
「わあ! ありがとうございますドレンさん!」
サービスの腸詰めとジョッキが俺たちの目の前に置かれる。店主のドレンさんだ。
屈強な体のドワーフでありながら……繊細さも持ち合わせたこの酒場の良心といえる存在でもある。
ベルティーナとは大の仲良しでこの二人が揃うと最終的には
「世の中の男は漏れなくクソ!」の大合唱が始まる。
悪い人ではないがベルティーナと気が合いすぎるのが玉に瑕《きず》だ。
「久しぶりねベルティーナちゃん。一年ぶりかしら。相変わらず元気そうでお姉さん嬉しいわ」
「ドレンさんこそお元気そうで何よりですう~」
なんでドレンさんと話すときだけブリっ子口調になるんだよこのダークエルフは。
「そういえばベルティーナちゃん。あなたまたアイザックちゃん達と組むことになったの? 最強パーティ再結成じゃない!」
「そうなんですう。色々事情があって。もうめんどくさいったらありゃしない」
「まあ色々ありまして……ええはい」
「あらあらあら。それは大変ね。でもベルティーナちゃん、アイザックちゃん。ちょっといいかしら? 飲みながらでいいから聞いてくれる?」
「なんですかドレンさん?」
ドレンさんはどうやら腸詰めとエールを餌に俺たちに聞いて欲しい話があるようだった。
めんどくさい話じゃなければいいが。俺はエールを喉に降ろしながらドレンさんの話に耳を傾けた。
「それがね、アイザックちゃん、ベルティーナちゃん。相談……というより依頼があるの」
「依頼? どんな依頼ですか?」
「ネズミ」
エールで回った酔いが急激に覚めていく
エールを煽ってテーブルに叩きつける。俺のこの火照った熱情はどこへぶつければいいんだ!
今日は色々なことがあった。
すでに出来上がっている仕事上がりの労働者と冒険者の喧騒に囲まれながら今日一日を思い返す。
一番はやはり……ソニアとデュランスの加入だろう。
二人共筋はいいはず、だ。二人共そそっかしい所はあるが経験を積めば化ける可能性を感じる。
ソニアは……不思議な子だな。なぜエルフでありながら格闘家の道を選んだのか少し気になると言えば気になるな。
失敗に終わったがゴブリンに掛けたあの投げ技はなかなかに見事だった。
とはいえ彼女の戦い方は多対一には向いていない。一対一に持ち込めるようにうまく俺とギフンが動くべきだな。
デュランスもやや神経質な所はあるがむしろパーティのクレリックはそれくらいが丁度いい。
常に気を張ることの出来る性格は冒険者向きだ。
回復や防御力増加。神聖呪文が迷宮探索でどれだけ役に立つかは身にしみて知っている。
ネズミとの戦いでは大いに役立つことだろう。
そう……ネズミだ。今回は運良く出会わなくて済んだが、この先探索を続けるのならば奴らとの接触は避けられないだろう。
噛まれた時に骨まで歯が届いた感触を覚えた。
奴らは凶暴になっているだけじゃない。実際に歯も長くなっているみたいだった。
次に戦うまでにどうにか対策を練って置かなければ……ああ憂鬱だ。
塩辛いベーコンをかじり、エールを再び煽る。
ジョッキを顔から離すと対面に一人のダークエルフが座っていた。ベルティーナだった。
「浮かない顔じゃないアイザック。デュランス君に振られてやけ酒?」
ニヤニヤしながら俺の手元のエールを奪い取り一息に煽る。
「は? フラレてなんかないんだが? 急な体調不良なだけだったんだが? だいたいお前なんでここにいるんだ? 疲れたから家で寝るって言ってたじゃないか……プハァ」
ベルティーナからエールを奪い返して飲み干す。もう一滴も入ってないぞ。ざまあ見ろ
「あんたがあまりにも寂しそうな顔をしてたからね。超美人ダークエルフのベルティーナ様が慰めにきてやったってわけ」
「自分で言うな自分で。別に俺は気を落としてなんかいやしないさ」
「それにしてはなんだか考え込んでるみたいだけど?」
「まあそりゃな……レベルドレイン。戦力低下。ネズミの凶暴化。考えることが多すぎるんだよ」
「まあそうねえ……でもレベルドレインの謎を解く鍵に繋がっているかも知れないって考えると進捗を感じないかしら? すいませーん! エール二杯!」
「あいつらが強くなった経緯を調べれば俺らのドレインの謎にも近づけると?」
「魔法ってのは理論なのよ。差し出した分だけ力が得られる。天秤が釣り合ってない魔法は存在しない。だから私達の弱体化とネズミの強化が……」
「釣り合うのならそこには何かしらの意図があると?」
「そういうこと。あ、ありがとう。ングング……プハー! やっぱり探索の後のエールは最高ね!」
「あ、あまり飲みすぎるなよ」
ガニ股で膝をパンパン叩きながらウーウー唸るベルティーナ。ここまで恥じらいを知らないエルフを俺は見たことがないよ。
それにこいつは酒に弱い癖に酒が大好きだから手に負えない。
特に酔っ払うと人の頭やら体やらを触りまくる触り魔へと変貌する。
俺のモミアゲとギフンの髭が何度犠牲になったことか。程々にさせておかないと俺にまで危害が及ぶ。
「大丈夫よアイザック。恐らく今日の探索でレベルが上がるはず。明日は魔法の矢覚えていくから少しはマシになるわよ」
「おお!魔法の矢が使えるなら少しはマシになるな!」
「覚えてなかったら火矢でなんとかしのぎましょ」
「うーん……期待してるぞ」
「お姉さんに任せなさい任せなさい。ネズミ共め、この大ウィザードベルティーナ様に恐れおののくといいわ!」
ベルティーナが自分の胸をドンと叩くと同時に手にしているジョッキからエールがこぼれ、胸もこぼれる。
最強魔法が魔法の矢のウィザードがここまで自信満々に振る舞えるとは驚きだな。しかし……
「相変わらずその”大ウィザード”って通り名クッソだっせえなあ」
「クッソイケてるじゃないのよ。一周回ってかっこいいのよこういうのは!」
「うーん……そんなもんかあ?」
「そう。だからあんたは大ファイター」
「ダ、ダセえ!」
「ギフンは大サムライ。オスカーは大盗賊」
「ギフンダセえ! オスカー、か、かっけえ……」
「確かに……大盗賊は一周回ることなく最初からかっこいいわね……ズルいわ」
「大ってなんでもつけりゃいいもんじゃねえとは思うけどな」
「まあまあ。そういうものそういうもの。ねえアイザック。話は変わるけどあんた今年で何歳だっけ?」
「めちゃくちゃ急な方向転換だな。二十五歳。あと半年で二十六だな」
「ふーん。あんたさ、結婚とか意識しないの? 冒険者稼業だってずっと続けてられないでしょ」
「結婚? 考えたこともなかったな。世間一般じゃ確かに俺くらいの年齢なら所帯を持っててもおかしくないんだろうけども」
「ふーん……」
結婚か……考えたこともなかったな。ひたすら迷宮に潜って。稼ぎはカードに費やして。
ずっとそんな生活を続けていくつもりだったけど。
確かに一生やっていける仕事ではないな。
とはいえ自分が冒険者以外の仕事をしていて妻と子供に囲まれて……そんな人生を歩んでいる自分が全くイメージできない!
稼ぎのほとんどをレアカードに費やすダメ亭主に堕ちそうだ。となると……
「この稼業で食ってる間は結婚する気はないかな。しかしベルティーナ。なんでまたそんなことを聞くんだよ」
「ん? 別に。なんだっていいじゃない。とにかく今日一日無事なことを祝って飲みましょ食いましょ!」
ベルティーナはエールのジョッキをガフガフと喉に流し込む。なんだか妙に機嫌が良さそうだ。
ま、無事に探索を終えることができたんだ。俺も本腰入れて飲むとするか!
そんな俺とベルティーナの間に影が割り込む。
「相変わらずの飲みっぷりねベルティーナちゃん! お姉さんこれサービスしちゃう!」
「わあ! ありがとうございますドレンさん!」
サービスの腸詰めとジョッキが俺たちの目の前に置かれる。店主のドレンさんだ。
屈強な体のドワーフでありながら……繊細さも持ち合わせたこの酒場の良心といえる存在でもある。
ベルティーナとは大の仲良しでこの二人が揃うと最終的には
「世の中の男は漏れなくクソ!」の大合唱が始まる。
悪い人ではないがベルティーナと気が合いすぎるのが玉に瑕《きず》だ。
「久しぶりねベルティーナちゃん。一年ぶりかしら。相変わらず元気そうでお姉さん嬉しいわ」
「ドレンさんこそお元気そうで何よりですう~」
なんでドレンさんと話すときだけブリっ子口調になるんだよこのダークエルフは。
「そういえばベルティーナちゃん。あなたまたアイザックちゃん達と組むことになったの? 最強パーティ再結成じゃない!」
「そうなんですう。色々事情があって。もうめんどくさいったらありゃしない」
「まあ色々ありまして……ええはい」
「あらあらあら。それは大変ね。でもベルティーナちゃん、アイザックちゃん。ちょっといいかしら? 飲みながらでいいから聞いてくれる?」
「なんですかドレンさん?」
ドレンさんはどうやら腸詰めとエールを餌に俺たちに聞いて欲しい話があるようだった。
めんどくさい話じゃなければいいが。俺はエールを喉に降ろしながらドレンさんの話に耳を傾けた。
「それがね、アイザックちゃん、ベルティーナちゃん。相談……というより依頼があるの」
「依頼? どんな依頼ですか?」
「ネズミ」
エールで回った酔いが急激に覚めていく
応援ありがとうございます!
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