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第一章 最強パーティ、一夜にして糞雑魚パーティへ

第32話 出会い

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 幼い頃から何不自由なく育ってきたデュランスにとって戦争、侵略という言葉に縁がなかったのだろう。
 それまでは自分が裕福であることに何ら疑問を持たず、両親の偉大さに気づくことなく、自分ひとりで何でもできると思いこむ。そこら辺によくいる若者だったらしい。
 そんなデュランスの元に一人のみすぼらしいエルフがやってきた。
 着の身着のまま。ボロいローブを纏った薄汚れた格好のまだ若い女のエルフだ。
 そのエルフはビクビクと怯えて人の機嫌を伺うような、卑屈な目をしていた。
 そんな目で見られたことのなかったデュランスは戸惑ってしまった。

『親父、こ、この子は?』

 父が言うにはエルフでありながら魔力を全く持たず生まれたその子は不吉の象徴として里から追い出されたらしく、露頭に迷っていた所を通りがかった父に保護されたのだ。
 そのエルフがソニアだ。

「すいませんすいませんって何度も頭下げてくるんですよ。こんな卑屈なエルフがこの世にいたのか! と当時は驚きましたよ」
「え~? 本当かよ~? あそこで笑顔で走ってる活発エルフが元はそんなんだったのか?」
「もう頭が地面にひっつくくらいペタ~! でしたからね! いや~アイツと打ち解けるのに苦労しましたよ」

 広場に視線を移すとソニアが子供を笑顔で追い回している。とてもじゃないが想像できないな。
 何度も頭を下げて媚びる卑屈なエルフと悪ガキ貴族。とても今の二人からは想像出来ない。

「父はなんでもかんでも背負いたがる男だったんですよ。目の前で困っている人がいたら後先考えずに救ってしまう。領主にふさわしい素養じゃありませんよね」 

 デュランスの父がソニアを拾ったのも性分だったのだろう。
 そんな民衆に優しい領主だったデュランスの父には敵が多かったようだ。労働者や農民に優しすぎたのだ。

 『デュランスの所はもっと民に優しいぞ』

 そんな声が自分の領土で広まれば税の徴収、兵の徴収に悪影響が出るのは当然だ。
 周りの領主は民に優しい領主に危機感を抱くこととなった。

「親父は政治……特に外交ってのがあんまりわかんなかったのかもしれませんね。”うまいことやる”ってのが出来ない人でしたから」

 今の御時世、戦争の大義名分ってのが簡単に立つ世の中だ。
 周辺の国から半ば言いがかりも同然な難癖でデュランスの領土は侵略された。
 あっという間だった。デュランスの領土は元々武力は全く蓄えていなく、自分の民を食わせていくことにだけ注力していたのだ。

「そりゃ……太ったカルガモだな」
「それ! それですよ旦那。んも~親父何やってんだか! って今でも思いますもん!」

 プンプンと怒りを露わにするデュランス。まあポーズだろうがそこまで怒っていないようにも見える。

「それで亡命か」
「そうです。親父は『最後まで民を守る!』って城に残って俺らに財産渡して逃したんです。生きてるのやら死んでるのやら」
「はあ~……なんつうかまあ……壮絶……?」
「そこまで壮絶ってわけではないと思いますよ。今の御時世よくある話ですよ」

 逃げ出したデュランスとソニアは孤児となった子どもたちを連れてこの街に流れ着き
 城から持ち出した財産でこの教会を借りた。といった顛末であった。
 なるほどねえ。若いうちから苦労してんだなあこいつら。
 けれどまだ重要なことを聞いてないぜ~デュランス。

「なあデュランス」
「なんですか旦那」
「聞きたいことがある。っていうか説明されてないことがあるよな」
「あ~。わかりますよ。一つは俺がクレリックになった理由ですよね」

 デュランスが人差し指を立てる。そうなんだよ。結局元貴族がクレリックだなんてよっぽどのことだし
 ずっと気になってたんだよ! こいつの呪文を見ればクレリックとしての素養に恵まれているのはすぐにわかる。
 悪ガキリーゼント貴族がクレリックになった理由。それが知りたいことの一つ目だ。次に……

「そ。他にもあるぞ」
「二つ目はソニアがあんな脳筋エルフになった理由ですね」
「そうそう!」

 人差し指に次いで中指を立てる。そう! ソニアが卑屈で気の弱いエルフだったってことには驚いたが
 そっから何がどうなってあんな活発な性格でしかも格闘家になんてなったのだろうか
 オドオドビクビクのエルフが後々には異形の肩の骨を外す格闘家って何があったんだよおい。
 とても想像できない。

「最後に俺達が冒険者になった理由ですね」
「そ。ワケアリなんだろうけど。仲間としてそこも知っておきたい」
 
 デュランスが三本目の指を立てる。
 冒険者なんて人生で色々何かしらトラブルや問題が立て続けに起きて、人生転がって転がってその末になるようなものだ。
 実際この二人はトラブル続きだったみたいだからな。

「つってもどれもそんな大層な話じゃないですよ?」
「いいじゃんいいじゃん。聞かせてくれよ」

 デュランスの背中をバシバシ叩きながらおねだりだ。
 どうやら俺はこのリーゼントクレリックと脳筋エルフが大分気に入っちまったらしい。
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