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第一章 最強パーティ、一夜にして糞雑魚パーティへ

第56話 起こせ革命 果たせよ使命

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「お前らの王様はビビっちまってるみたいだなあおい!」

 周りの異形がこちらに警戒している。声はしっかり届いているようだ。
 さあてこっからだ。隙があればいつでも行ってくれよアッシュ。

「鼠王国の皆さん! 聞いてください! あなた方国民がこれだけ! これだけやられているっていうのに! 肝心の王様は何もしてないみたいですねえ!」
「ゲギョ……?」
「正直に言いましょう! あなた方は搾取されている!」
「ギョ……」
「あなた方国民が危険に晒されている中で! 王は! 怯えているのです!」
「ギイイ……」

 鼠の王の眉間に皺が寄る瞬間を俺は見逃さなかった。効いてる効いてる!
 王本人ではなく周りの護衛を通して挑発する。
 薄っぺらいプライド持ちは直接なじられるよりも効くんだこれが!

「はっきり言いましょう! あなた方の王は! 実は側近のあなたよりも! そうそこの方! あなたです! あなたよりも弱いのです! 糞雑魚なのです!」
「ギギッ!?」
「居心地のいい蜘蛛の上で寝そべり肥えるだけの! 豚の王なのです! その証拠に未だに彼は縮こまっています! はい雑魚ー!」
「ギイイイイイ……!」

 護衛に動揺が見られる。崇拝すべき存在に疑いを持ちつつあるはずだ。
 実際に仲間が斬られているのに保身に走っているわけだからそりゃ思うところはあるわな。
 ましてや元は囚人。一筋縄ではいかない”素体”を使ったツケが回ってきたな!
 そして鼠の王はというとこめかみを引きつらせながらこちらを睨んでいる。
 効いてる効いてる~。王としてのプライドをズタボロにしてやるからなあ~。

「そうじゃそうじゃ! 立てよ国民! さっきからそいつクッソビビってるぞい!」
「こちらは王権コンサルタントのギフン氏です。ギフンさん、今までいくつもの国を見てきたそうですね?」
「そうじゃのう。三桁は余裕で行っとるかのう」
「ではギフンさん。彼、鼠の王は適正があると思いますか?」
「アイザック……ギフン……あんたら何馬鹿なことやってんの……?」

 ジトッとした目でベルティーナが俺とギフンを睨みつけてくる。

「待て待て待て! ベルティーナ! 考えあっての行動なんだよ! そ、それでギフンさん。王はどうですかね?」

 俺の問いにギフンは目を閉じ、髭を大袈裟に撫でながらしばし考え込む。

「王としての適正!? ないないないない!! だって弱いし臆病だしバカだし! も~無理無理無理じゃわい!」
「だ、そうですよ皆さん」
「ギギッ!?」
「まあこんな王に従う奴も奴じゃと思うわい。王は国を映し出す鏡。王が臆病だと国も臆病になるんじゃなって」
「だ、そうですよ皆さん」
「ギイ……」
「何よりも鼠の王が乗っている蜘蛛。本体はそっちなんじゃないかと噂されておるからのう。玉座が立派なだけでは国として立ち行かんじゃろうなあ」
「だ、そうですよ皆さん」
「……」
「ま、普段は臆病者なのに名馬の馬車に乗っているときだけ強気になる。性格が変わるって奴もおるが、鼠の王もその類と思われるのう」
「だ、すぉ~ですよ皆さん」
「ギ、ギギ……」

 護衛が鼠の王の顔色を何度も伺っている。恐怖と崇拝で押し付けていた上下関係に綻びが生じてきているはずだ。
 そして当の王様はというと……うっわめっちゃキレてるわ。
 こめかみに血管を浮かばせながら血が滲むほどに杖を握りしめていた。

「ギフンさんこれはもう変革の時が来ていると、そう言っても過言ではないのではないでしょうか?」
「そうじゃのう。だからこそ声を大にして言いたい! 弱者の王を討ち、次代の王になるのはあなたかもしれない! と!」
「だ、そうですよ皆さん。こんなしょうもない石像作らせて間抜けとしか言えませんよねえ!」

 鼠の王を模した石像の顔面を盾で思い切り叩きつける。あっさりと顔面はえぐられて見るも無残な姿へと成り果てた。
 もはやこの偶像を崇拝することは到底難しいだろう。

「ギイッ!」

 自らの偶像を叩き壊された鼠の王の顔は、もはや熟れたトマトを通り越す程に怒りで真っ赤に染まっている。
 王よ。俺はお前が臆病だなんて本心では思っちゃいない。
 お前はここの大将だ。後ろに控えていて当然だ。実際第三者の不意打ちを警戒していたのだろう。
 もしもお前一人だったらこんな猿芝居は無視できていただろう。
 だが仲間を連れている時点でお前は俺の言うことを無視できないんだよ!
 いくら土俵に上がるまいとしても無駄だ。
 どうした王よ。俺を喋らせておくことでお前はどんどん不利益を被っているぞ。
 それならするべきことは一つしかないよな?

「ギ、ギギッ!」

 護衛の一匹が鼠の王へと振り返り、付かず離れずの距離を保っている。
 そして俺は見た。爪が伸び縮みしているその瞬間を。
 これはあれか? 『あれ? れんじゃね? 俺王様殺れんじゃね?』的なムーブでは?

「ギフンさんこれは……」
「ええ。起きるかもしれないですぞ。革命が」
「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」
「おわっ!」

 俺とギフンがヒソヒソ話で盛り上がる最中、革命の兆候を感じ取った王はまさに怒髪天を衝くといった勢いで突然叫びだした。

「シャアッ!!」
「ギギ!」
「あららら!」

 王は反旗を翻しかけた一匹の護衛に杖を振りかざし……そのまま頭蓋を砕いた。
 トマトのように真っ赤な顔の王が部下をひしゃげたトマトのようにしてしまったわけだ。

「あーやっちゃったやっちゃった。やっちゃいましたねこれはギフンさん?」
「ええ。やっちゃいましたぞこれは」
「ギイイイイイイイイイイイイ!!!」

 鼠の王は目をひん剥かせながらこちらに憎悪の表情を浮かべている。
 周りの異形が『キイキイ』と怯えながら遠巻きに王を眺めている。
 さあ来るか? 来るか?

「おいデュランス!」
「は、はいなんですか旦那!」
「回復の用意だ! 死にはしないが大怪我をするはずだ!」
「死ぬ!? 大怪我!? 誰がですか!?」
「俺だ!」
「旦那が!?」
「そうらきたぞ!」

 俺の口をこれ以上開かせるものかと言わんばかりに大蜘蛛が、王が大蜘蛛ことこちらに向けて突撃してくる。
 支配下に置いていた国家が俺のハッタリで簡単に揺らいだんだ。
 これで怒らない王はむしろ王とは言えない。さあ来い。受け止めてやる!
 杖を両手に構え振りかぶる。今までで一番キツいのが来るぞこりゃ!
 盾を両手で構えて攻撃に備えなければ。片手じゃ恐らく盾ごと半身を持っていかれる!

「ギイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアア!!」
「ぬううっ!!」

 大蜘蛛の突撃を乗せてぶん回してくる杖を盾で受け止める。
 交差した瞬間に盾が砕け、両手に王の怒りが籠もった杖がめり込む。
 瞬間俺の両手の骨が砕け、そのまま衝撃が内臓にまで達する。
 想像以上の痛みが体を襲う。

「ガ、ハッ……!」
「アイザック!!」
「旦那!?」

 内蔵を破壊され、口の中に血の味が広がる。
 王は杖を俺の体にめり込ませた状態で更に踏み込み、そのまま俺の体を吹き飛ばした。
 王様よ、ムカつく俺をぶっ飛ばしたさぞかしスッキリしたかい?
 だが……だが……その代償は高くつくぞ! 

「今、だ……ゴホッ……アッ、アッシュ……や、れ!」

 吹き飛ばされる視界の最中、俺は見た。
 今まで背景と同化していた人影が姿を現す。まるで突然その場所に姿を現したかのようだった。
 その人影は片手に小太刀を構え、風のような速さで跳躍した。
 狙うは大蜘蛛に跨る偽りの王。 王の目はまだ完全に俺に向いている。
 俺への怒りで心が埋め尽くされている。もはや警戒に意識を割いていない!
 王の真後ろにたどり着いたアッシュが小太刀を王の首筋に突き出した。

「ハア!!」
「ギッ!?」

 アッシュのタイミングは完璧だった。完全に王の意識は逸れていた。
 完全に殺れるタイミングだったんだ。うまくいってた『はず』だったんだ。

「う、嘘だろおい……」
「クッ!!」
  
 アッシュの顔が驚愕に染まる。
 首筋に届く手前で……小太刀を携えたアッシュの右手首に蜘蛛の糸が巻かれていたのだ。
 王の警戒は完全に解かれていた。だが大蜘蛛は常に警戒していたのだ! 第三者による介入を!
 アッシュの暗殺失敗。それは数少ないであろう俺達の勝ち筋が潰えたことを意味していた。
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