スキル【爪】だが最強なんだぜ、俺は

色彩和

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第四章 再来と新技と

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 Ⅰ

 フォイはシオルを連れて店を出た後、宛もなく歩いていた。特にこれからの予定はなく、ただ前へと進む。
 まったく、あの男は余計なことを……。
 脳裏に蘇るのは、先ほどまでいた店内を収める男のこと。装備屋を営業していて、飄々としており、自身のスキルを上手く活用している彼のこと。普段はからかうように話すものの、ごくたまに的確なことを告げてくる。スキル【鑑定】の力によって、装備を選ぶ腕はピカイチと言って良い。確実に信用できる腕だ。
 彼の腕は確かだ、それはフォイも認めている。それは確かな事実。
 だが――。

 ――やはり、いけ好かん。

 フォイが思い出して少しばかり怒りを顕にしていれば、背後からおずおずと声がかけられて。
「あ、あの、ふ、フォイさん……?」
「……なんだ」
 素っ気なくなってしまったのは、悪気があったわけではない。だが、あの男が余計なことをシオルに吹き込んでしまったことを思い出して、多少気に食わないと思ってしまった。
 シオルは悪くないんだ、落ち着け。
 フォイは一つ息をつくと、足を止めてシオルへと振り返る。握った右手はそのままに、彼女へじっと視線を注いでいれば、シオルはまたおずおずと口を開く。
「……れ、レクさんとは、お知り合い、なんですか?」
 ……また、あの男のことか。
 フォイは少しばかり不機嫌になりながらも、小さく頷く。
「……ああ、多少な」
 すると、シオルはさらに言葉を紡いだ。
「で、でも……、でも、フォイさんは確か、最近森に滞在するようになったって……。となると、出会ったのってそんなに前のことでは、ないですよね……?    そんなに長い付き合いとは、思えないのですが……」
 フォイは目を見開く。
 シオルはさらに続けた。
「な、なんだか、何年も会話しているかのように、仲良さそうだったので……、その……」
 フォイは少女の言葉を耳にしながら、感心した。
 ……本当に、よく気がつくものだ。
 先ほど店内でも思ったことだが、この少女は細かいところによく気がつく。フォイの爪が少しばかりであったものの伸びたことにも、フォイとレクの繋がりのことにも、考えて見ていなければすぐに疑問は生じることがないだろう。
 フォイが思考を巡らせていれば、じっと視線を注がれているからなのか、シオルは居心地が悪そうに縮こまる。チラチラとたまに視線をフォイへと向け、どうして良いのか分からないと言ったように顔を俯かせた。
 フォイはそれを見て、止めていた動きを再開させた。おもむろに空いていた左の手を、シオルの頭にぽんと置く。右手はいまだに握られたままであった。それから、ゆっくりと自分よりも、低い位置にある頭を撫でていく。
 その行動に驚いたのは、言わずもがなシオルで。
 シオルは握られた左手はそのままに、アワアワと右手を横に振った。慌てているのが目に見えている。
「へ、あ、あの、ふ、フォイさん……!?    な、なんで……!?」
「いや、凄いなと思ってな。シオルはよくいろんなことに気がつくものだ」
 ふっとフォイは口元を緩める。
 シオルは一瞬呆けて、すぐに顔を俯かせた。
「そ、そうでしょうか……?」
 シオルはフォイに褒められているものの、自信がなさそうで。顔を俯かせた後聞き返しているが、それ以外は動く気配がない。そのため、フォイにされるがままとなっていた。
 フォイは口元を緩めたまま、シオルの言葉を肯定する。
「いや、先ほど俺の爪が伸びたこともだが、観察や分析をしていなければそんな疑問は生じては来ないだろう。思考が途切れていないということだ、胸を張ると良い。シオルは自分が思っているより凄い奴だ、自信を持つと良い」
 フォイはそう言って、シオルの頭からゆっくりと手を下ろす。
 彼女が自信を持てていないということに関しても、おそらく奴らのせいなのだろうな……。
 フォイはおもむろにそんなことを考えた。
 シオルから詳しく話を聞いてはいない。勇者のことに関しても、彼らに何を言われたのかも、彼らにどんな扱いをされていたのかも……。だが、少し彼らの様子を垣間見ただけで、なんとなくは想像がついていたのだ。ならば、わざわざ彼女の傷を抉ってまで聞く話ではない。
 もし、シオルがいつの日か……、自分の心の整理がついた中で俺に話を聞いて欲しいと願うのなら……、その時は俺が耳を傾ければ良い。
 そう結論づける。
 だが、勇者パーティ一行のことをつい思い出してしまったことは、フォイにとって失敗だった。思い出したくもない奴らの顔が、フォイの頭を占めていく。先ほど味わった怒りの感情を再度長いこと噛み締めてしまい、思わず顔を顰めてしまった。
 急に目の前で渋い顔になったフォイを見て、シオルは焦り出す。
「ふ、フォイ、さん……?」
 フォイは軽く頭を振って、「いや、」と零す。
「……なんでもない。ただ……」
 フォイは一度考え込み、言葉を区切る。
 シオルが心配そうに青年の言葉を待つ中、ゆっくりと解き放たれた言葉は予想外のもので。
「……次に出会った時は、必ず奴らの息の根を止めておくとしよう」
「な、何の話ですっ!?」
 シオルが思わず目を剥きながらツッコミを入れる中、フォイの心は黒く暗く染まっていく。
 シオルが思い詰めるようなことはしたくないが……。
 フォイがそう考えていたその時――。

 ――フォイの耳が何かの音を拾って、ピクリと動く。

 反応する獣の耳が、こと細かに音を拾おうと急速に動いた。
 フォイは周囲を警戒する。オッドアイの視線を張り巡らせ、鼻も動かしてみた。
 だが、警戒し始めたフォイとは違い、シオルは状況が読めていないようで。
「ふ、フォイさん……?」
「何か、騒がしい」
 フォイはシオルに簡単に状況を告げ、自身の口元に右手の人差し指を立てる。
 シオルはそれを見て目を見開くも、自分の口元を抑えてこくこくと頷いた。
 フォイは道の中心でしゃがみこみ、神経を耳に集中させた。この街すべての音を拾わんとばかりに耳を澄ませる。
 ……これだけ人が多ければ、音も交わる。それに、匂いはもっと混ざりあって分からなくなるだろう。せめて知っている匂いであれば話は変わってくるが……、今は音に集中する他ない。
 念の為に鼻も動かすものの、正直に言って混ざってしまっていてよく分からない。人の匂い、店が使っている火によって出てくる煙の匂い、香水などの香り……。些細なものから強い匂いまで、交わってしまえば本来の匂いが分からなくなってしまうのだ。
 森の中とは状況が違う。特に、街ともなれば、人の数は数えられないほどに多いのだ。いくら香水などをつけていても、つけている人数も増える。同じ香りじゃなくても、付けている量によっては混ざって本来の香りではなくなる。つまり、紛れてしまえば、人物の特定が難しくなるのだ。もっとも、相当な量を吹きかけているとすれば話は変わってくるのだが。
 だが、とフォイは思う。
 ……煙、の匂いはしない。家が焼けたり、服が焼けるような匂いは一切していないな。誰かがこの街を襲撃したとは考えにくい。
 炎が建物や衣服を燃やし、焦げ付くような匂いは一切していない。焦げ臭い匂いがすれば、いくら混ざりあったとしてもフォイの鼻が反応することだろう。食べ物を焼いているような匂いはしているものの、それは店や屋台が出しているに違いない。
 フォイはそう推測した。そして、あることを思い出す。
「……確か、街の中心はマーケット通りになっていたはずだ。音もそちらから出ているようだし、行ってみるか」
「で、でも……」
 シオルが不安そうにフォイを見つめる。
 フォイはそれを見て少し思案した。
 ……確かに、わざわざ首を突っ込む必要はない。だが、胸騒ぎがするし、何より……。
 フォイはシオルに向かい合う。
「……街には世話になっている。多少は動いても罰が当たることはないだろう。シオル、お前が行きたくないと言うのなら、不本意だがレクに預ける。お前の意思を尊重しよう。……どうする」
 フォイはシオルをじっと見つめる。鋭いオッドアイが、彼女の答えを待っていた。だが、不思議とそこに優しさは滲み出ている。
 シオルはフォイの視線を受け止め、頭を悩ませていたものの、最終的に小さく頷いた。そして、「行きます」と小声でありながらもハッキリと断言する。
 フォイは満足そうに頷いた。
「よし、ならば行くぞ」
 フォイは流れるようにシオルを担ぎ上げる。以前言われた通り、俵かつぎではなく、いわゆる「お姫様だっこ」の状態で。
 そして、フォイは跳躍した。屋根の上に辿り着くと、その上を颯爽と駆けていく。
 フォイが走り抜けていくのと同時に、その後を少女の悲鳴が追いかけていくのであった。



 Ⅱ

 フォイは一直線に駆けていく。脇目も振らず、ただ前を向いて騒ぎの音を聞き分けて、時に跳躍し、時に足を止めて、速度を徐々に上げていった。
 シオルの悲鳴は基本途切れることはない。上がったとしても、フォイは足を止めることなく、速度も落とさなかった。唯一少女に声をかけたことと言えば、「口を閉じていろ、舌を噛むぞ」という注意だけであった。
 フォイの耳が音を拾って、ピクリと動く。研ぎ澄まされる獣の耳は、生き物のように動いていた。
 ……ようやく、声がしっかりと拾えるようになってきたか。それにしても、何やら言い合っているように思えるのだが……。
 フォイは微かに首を傾げ、記憶を呼び覚まそうと頭を働かせた。何か、聞いたことのあるような声の気がして仕方がないのだ。どちらかと言えば聞きたくない、耳障りな声だとは思っているが、一度出会ったことがある者には違いないと結論付ける。
 ……まあ、良い。行けば分かることだ。
 フォイはさらに先を急ぐ。
 目的の場所に到達すると、フォイは迷うことなく屋根から飛び降りた。
 シオルは今日一番の悲鳴を上げる。
 だが、そこはフォイだ。少女に影響がないように悠々と着地する。自分にも怪我ひとつなく、彼はそのまま歩き始めた。
 シオルは精神的な衝撃が大きかったらしい、目を回して力なくぐったりしている。
 フォイは少女を抱えて、騒ぎの中心へと歩み寄って行った。その間に少女の意識が少しずつ覚醒することを祈って。


 ――フォイたちがいるここ、ノウスの街は、マーケット通りが特に有名であった。

 食料や道具だけでなく、装備品や魔具、屋台なども充実しているため、多くの人々が足を運ぶのだ。
 街で生活しているものは生活するために必要な必需品を、旅人や冒険者は旅に必要なものを補充するために立ち寄っていく。
 街の住民よりも、旅人や冒険者が活用している割合は高いものの、あらゆる人が足を運ぶため、いつも活気づいている場所であった。
 数々の店がテントを貼り、各々の商品を売っているその姿は、誰の目にもとまり、そして街全体を元気づけているように見えて、フォイは気に入っている。


 フォイは人混みの最後尾に声をかける。その者は、以前立ち寄ったテントの一つである男の店主であった。フォイにオマケしてくれたこともあって、顔をよく覚えている。
「一体、何事だ」
 その声に、何人かが振り返った。店主はフォイの顔を見て、「おっ」と声を上げてから顔を輝かせる。
「おー、獣人の兄ちゃんあんちゃん!    良いところに!    いや、それがよお、あのテントの店ではた迷惑な客がいてなあ……」
「はた迷惑な客……」
 フォイが店主の言葉を繰り返せば、店主は困った顔で頷く。
「ああ、話では勇者一行だってことらしいが……、物を奪うかのような行動でなあ……」
「……何」
 フォイはピクリと眉を動かす。
 一緒に聞いていた腕の中にいたシオルが、ビクリと身体を震わせた。強ばる身体を見るに、多少なりとも記憶が蘇ってしまったのだろう。
 フォイはそれを見て、頭を働かせる。思考を巡らせるものの、シオルを一人にすることは得策ではないだろうと判断した。
 いくらシオルの装備が揃ったとしても、くだんの勇者パーティ一行が目の前にいるとすれば、話は別だ。まだ装備も試していないし、何より身体が竦んでフォイが離れた隙に彼女を手玉に取られれば元も子もない。極力少女から離れるのは避けるべきだと判断する。
 俺の背後にいるようにしといたほうが、俺も視野に入れやすいし、気配を感じとることも容易い。だが……。

 ――それは、フォイの意見で、シオルの意見ではない。

 フォイはそれを理解している。自分の考えを押し付けて、少女が苦しい思いをすることはないはずだ。
「シオル」
 フォイは腕の中にいる少女の名を呼ぶ。
 少女は強ばった表情で、不安そうな瞳をフォイに向けた。
 フォイはその瞳に自分の瞳を重ねるようにして覗き込む。そして、ハッキリと告げた。
「お前が奴らの声を聞いても問題ないというのなら、俺の背後にいろ。俺から離れるな。ただ、無理にとは言わない、奴らの声も姿を見えないところに隠れていたって良い。お前の意思を尊重する」
「……っ」
「どうする」
 シオルが息を呑んだのを、フォイは理解した。だが、それに触れることはなく、ただシオルの意思を尊重しようと、言葉をかける。
 シオルはフォイの言葉を聞いて悩んでいるようであった。顔を俯かせ、口をもごもごとさせて言い淀んでいた。決断することに、勇気がいるのだろう。
 だが、時間をかけたものの、シオルは最後にしっかりと頷いた。
「……大丈夫、です。わ、私も、向き合います。フォイさんの、後ろにいさせてください」
「……上出来だ」
 フォイは口元を緩める。それから、シオルをゆっくりと立たせて、人混みをかき分けて騒ぎの中心へと進んで行く。
 中心へと近づいていけば、件の奴らの声が大きくなっていった。耳障りな声が、ハッキリとフォイの耳に届く。
「ちょっと、この人は勇者だって言ってんでしょ!    タダで物資を渡しなさいよ!」
「こ、困ります……!    いかに勇者様だとしても……!」
「回復薬をありったけ出しなさい、今すぐ!」
「おいおい、こちとら誰のために戦っているのか理解しているのかい……?    協力するのも君たちの仕事ではないのか?」
「そんなっ……!」
 勇者パーティ一行が、言いたい放題、やりたい放題しているらしい。
 時折、悲鳴に近い店の持ち主の声が混ざっている。
 ……なるほど、これは確かにはた迷惑な客だ。
 フォイは一人頷く。

 少しずつ勇者との距離が近づいていく中、耳に届いたのは――。

「いい加減にしろよ。勇者に対して、誠意がないのか?    その身体に、教え込んだ方がいいのか、痛みとしてなあ!」
 勇者パーティ一行のファイターらしき人物が拳を振り上げる。そして、それを店の者たちへと振り下ろした。
 店の者たちは皆、仲間を庇うように各々が身を寄せ合った。

 ――それを、フォイが見過ごすはずがない。

 颯爽と右手の人差し指をズラリと引き抜いた。そして、片端を握ったまま、勇者パーティ一行へ人数分のそれを投げる。青鈍色の鎖は、勇者パーティ全員に巻き付き、店の者たちに危害を加えるすんでのところで止めることに成功した。
 ギチギチと引きながら、フォイは徐々に距離を縮めていく。距離が縮まる中、青鈍色の鎖も少しずつ短くなっていった。そのため、彼らの拘束が緩むことはなかった。
「だ、誰だ!?」
「ま、待って……、これって、まさか――!」
「――よう」
 見物していた人々が、後ろから上がった声によって道を譲っていく。
 その中心にいたのはフォイとシオルで。彼らは譲られた道を堂々と通った。

 ――再び、勇者パーティ一行と、対峙する。

 ギチギチと締め付ける鎖を手にして引っ張りながら、フォイはニヤリと笑ってやる。
「まだ、懲りていなかったらしいな、クズ勇者ども」
 フォイはそう言って、右手でしかと握っていた鎖を力任せに引く。そして、そのまま一行全員を、人混みの外へと落下させた。その際、彼らが手にしていた商品はすべて別に出した青鈍色のそれで回収、店の者たちに渡してやる。
 店の者たちが口々に感謝を述べる中、フォイはひらりと手を振るだけで、再度勇者一行に歩み寄っていく。
 その後ろを、シオルがピッタリと寄り添うかのように後を追いかけた。
 一定の距離を保ったまま、フォイは拘束を緩めることなく、勇者たちと対峙する。そして、地面に寝転がるしかない彼らを冷ややかに見下ろして、鼻で笑ってやる。
「昨日、散々痛い目に遭ったというのに、まだ理解しねえとはな」
「き、貴様……、あの時の――」
「噂は元から評判最悪だったようだな、滑稽なことだ」
 フォイは「カヒッ」と笑う。喉を震わせて笑うその姿は、まさに馬鹿にしていると言わんばかりで。
 怒りに震える勇者一行は、青年の後ろにいる少女の姿を見つける。そして、怒りのままに口を開いた。
「てめえ、人の恩を忘れやがって……!」
「……っ!」
 シオルが恐怖のあまりに息を呑む。手にしていた杖を握る手を強くした。
 フォイは彼女の視界から相手を遮るかのように、少女の前に立ち、彼女へ背中を向ける。その際、ぽんと頭に手を乗せることを忘れない。そして、小声で囁くように言い聞かせた。
「大丈夫だ」
 シオルはそれを聞いて、頭を振る。今度は勇者に強い視線を向けた。
 フォイはそれを見てから勇者たちと向き合う。
「もう、お前たちに怯えている彼女ではない。言っておくが、彼女を今までと同じだと思うな、桁違いに格上になっているのだからな」
 フォイはクイッと少女を顎で示す。
 すると、じっと見ていた勇者パーティの女性二人が驚きの声を上げた。魔法士だからなのだろう、シオルの桁違いな魔力にようやく気がついたらしい。
「な、何よ、その装備……!」
「っていうか、何なのよ、その魔力……!?」
「……今頃気がつくとはな」
 フォイは呆れた。本気で彼らはシオルの凄さに気がついていなかったらしい。
 ……まあ、知っていたとしても、奴らのねじ曲がった根性はどうにもならんか。
 フォイは肩を竦める。そして、「さて」と気を取り直したように、黒い笑みを称えて告げた。
「――シオルへの数々の非礼、そして、街の者たちへと横暴について、少し話し合おうか」



 Ⅲ

 フォイは怒りの感情を胸に抱えたまま、彼らを冷たく、そして汚いものを見るかのように見下ろす。
 勇者は地面と友達になりながら、声を張り上げる。
「お、俺は勇者だ、俺たちは勇者パーティなんだ!    だから――」
「――だから、何をしても許されると言うのか」
 フォイは唸るように言い返す。言葉を遮って言い返したのは、聞くに絶えなかったからだ。
 だが、フォイの言葉だけでは納得しなかったらしい、彼らは負けじと言い返す。
「そ、そうよ!    私たちは魔王を倒しに行くのよ!」
「協力するのは当然だろうが!」
 口々に言い返す勇者パーティの言葉は止まらない。
 だが、フォイの耳は、違う声を拾った。微かに、聞こえたのだ。

 ――そんな、強引な協力があるのかよ、と。

 フォイは長いため息をついて、パーティ一行の止まらない言葉を、グイッと鎖を引くことで黙らせた。それから、一つ一つの言葉を、彼らの胸の内に刺さるように告げていく。
「……協力と、強奪の違いも分からねえのが、お前ら勇者パーティなのか」
 フォイの言葉に、勇者パーティの誰かの口から「……は」と言葉が零れ落ちた。
 フォイは気にすることなくさらに続けた。
「お前たちの目は何を映している。周囲を見てみろ、周囲の瞳は何を訴えている。お前たちに――、勇者パーティに感謝している者たちが、この場のどこにいる」
 フォイの言葉に、勇者パーティ一行は視線を周囲へとようやく向ける。
 彼らに向けられていた視線は、怒り、恐怖、憤り、疑念……。そんな感情しか灯されていなかった。
 勇者パーティたちは、息を呑んだ。初めて、民たちの視線をきちんと向けたのだろう、そしてその瞳に恐怖を覚えたのだ。
 フォイは言葉を紡いでいく。
「皆が、迷惑をしている。お前たちが、好き放題に暴れたことによって。好き放題に言葉を放ったことによって。……森に住まう動物たちだけではなく、同族であるはずの彼らに対しても、お前たちは優しくないらしい」
 フォイは左手の人差し指をズラリと引き抜こうとした。だが、今さらに割れていることに
「……ああ、そうだったな、お前との戦闘で割れていたんだったか」
 フォイは肩を落として、べロリと自身の左手の人差し指を舐める。血を舐めるかのように、爪に舌を這わせた。

 ――これは、わざとである。

 フォイが戦えないと、主張しているように見せるためであった。
 奴らが目にしたのは、緋色の刀、青鈍色の捕縛、そして乳白色の壁……。手の内はすべて晒すものではないが、多少はやり返さないと気が済まない。
 フォイの中では、燻る炎が静まることはない。むしろ、炎の威力は上がっていく一方だ。シオルへの非例の数々も、街の人を困らせたことにも、怒りが沸き起こって仕方がない。
 さてどうしようか、そう思っているフォイに、勇者パーティは声を上げる。
「はっ!    わざわざしゃしゃり出てきて戦えないとは笑わせる!    おい、貴様ら、俺たちを解放させろ!    勇者の俺に、いつまで地べたを這わせる気だ!」
「そうよ、その男を捕らえなさい!」
「痛い目を見てえのか!」
 街の者たちは顔を見合わせる。
 フォイはオッドアイの鋭い視線を、街の者たちへと向けた。だが、その視線は責めているものではない。彼らの意思を、聞こうとするものであった。
「……街の者たちよ、お前たちは何を考える」
「……」
「俺は、彼女を苦しめた奴らを許すことはできない。森に住まう動物たちの居場所すら汚そうとする者たちだ。それを黙って見過ごすことなどできない。……それに、俺はこの街に感謝している」
 フォイは自身の思いを告げていく。
 街の者たちは黙ってそれを聞いていた。
「……俺はこの街にたまたま寄っただけだ。だが、お前たちは温かく声をかけてくれた。俺はお前たちに声を荒らげる奴らが許せない」
「……」
「俺の言葉を信じられないというのなら、それを隠すことはない。だが、ここはお前たちの街だ。お前たちが街を守ることに、我慢することなどない」
 フォイはそれだけ告げると、あとは彼らの言葉をただ待った。視線はただただ、彼らへと向けている。
「フォイさん……」
 シオルが心配そうに青年の名を呼んだ。
 フォイは口元を緩めるだけであった。だが、それだけで「安心しろ」と少女には伝わっていた。
 すると、勇者パーティの声だけが響いている中で、街の誰かが何かをポツリと零す。それを皮切りに、次々と街の者たちが意を唱え始めた。
「許せねえよ、そんな自分勝手な奴ら!」
「俺たちだって、生活するために商売してんだ!    タダでやれとか、そんな横暴があるか!」
「そんな勇者、こっちから願い下げよ!」
「盗賊と変わらないじゃない!」
 勇者パーティの声は、いつしか負けていた。
 街の者たちの不満が、どんどん吐き出されていく。誰もが不満を抱えていたのだろう、押し殺していた感情が蓋を開けたことにより、勢いを増して流れていく水のように止まる気配はない。
 だが、それでも声を張り上げるのは、他でもない勇者で。
「……っ、貴様ら、ふざけるな!    俺たちにそんなことを言えばどうなるか、分かっているな!    この街が侵攻されようが、知ったことか!    絶対に助けねえからな、俺たちに刃向かったことを後悔しろ!」
 その言葉に、さらに街の者たちは怒りを露わにする。
 そんな中、フォイはシオルへと視線を向けた。
 急に向けられた視線に、シオルは息を呑む。
「……シオル、俺の言葉は本心だ」
「……っ!」
「お前は、どうしたい」
 フォイの言葉に、シオルは言い淀む。だが、瞳に涙を滲ませながらも、彼女は言い切った。
「……私は、変わりたい、です」
「……」
「フォイさん、私を……、私の未練を、断ち切ってください!」
「……分かった」
 フォイは少女の願いを聞き入れる。満足な表情で頷き、そしてフォイは左手の中指に右手を添えた。
「……俺は英雄になりたいわけでも、ましてや勇者になりたいわけでもない。だが――」
 フォイはゆっくりと中指を抜いていく。その指の爪は、黄色で染まっていた。
 すると、その抜かれていく途中で、バチバチと電気が激しく放たれていった。まったく痛みを感じることなく、彼は言葉を淡々と紡いでいく。
「――守りたいものを守るために、俺は今、力を振るう」
 フォイがすべてを引き抜けば、左手の中指が完全に消失するのと同時に、右手には電気を放っている槍が握られている。
 それは良く見ればいかずちで、フォイの右手の周囲で小さな電気がいくつも落ちている。だが、握っている本人は痛みに耐えている様子もなく、ただそれを一つの武器として握って立っているだけであった。
「……この間は生温かったらしい。二度と、街の者たちにも、そしてシオルにも、このような行いができないようにその身体に覚えさせてやる」
「か、みなり……?」
 シオルがフォイの手にあるものを見てポツリと呟く。
 フォイはその声に反応するかのように、振り返った。
「……シオル、少々手荒くなるが、お前を縛り付けるものを俺が断ち切ってやる」
「……っ!」
「だから、お前はもう解放されて良い。自信を持って良いんだ」
 フォイは手にしていた雷を、勇者へと向ける。地面に這っている勇者の上に矛先を向け、いつでも振り下ろせるように勇者の腹に近づける。

 ――その距離、わずか一センチメートル。

 もう少しで触れそうというところで、止められている。
 それを見た勇者は、拘束されたまま、逃げようと足をバタバタさせる。
 だが、フォイが逃がすことはない。
「これが、シオルの受けた、街の者たちが受けた痛みになるかは分からないが、お前ほどの者なら荒療治も必要だろう。少しは……、痛みとやらを理解すると良い」
 フォイは勇者の言葉を待つことなく、勇者に雷を突き刺す。
 勇者の口から、聞くに絶えない悲鳴が上がった。だが、徐々にその悲鳴は消えていく。表紙抜けたような顔をして、笑い始めた。耳障りな笑い声であった。
「なんだ、なんだ、これはあ!    口ほどでもないじゃないか、何も痛みなんてないじゃないかあ!    これがあの女の、街の奴らの痛みなんて笑わせる!」
「ああ、そういえば忘れていたな」
 フォイは勇者の言葉を鼻で笑い飛ばして、今思い出したかのように口を開く。そして、呆ける勇者を冷ややかに見下ろした。
「その雷は、俺が電圧を変えることができる。先ほどまで俺が手にできたのは、それのせいだ。ならば、まったく痛くなくてもおかしくはないな」
「はっ……、負け惜しみを――」
「――さて、どこまで耐えられるか、見ものだな」
 フォイは「カヒッ」と笑ってから、左手の人差し指を天に向かってクイッと上げる。

 すると――。

「ぎ、ぎゃあああああああああっ!?」
「な、何っ!?」
「ゆ、勇者様!?」
 勇者の口からは、今度こそ聞くに絶えない悲鳴が上がった。
 断末魔の声に、勇者パーティが目を見開く。口々に勇者を心配するものの、その声は彼には届くことがなかった。
 フォイは冷たく見下ろす。再度、クイッと指を天にあげれば、勇者の悲鳴が酷くなる。そして、それを冷ややかに見下ろした。

 まるで、彼の命を咬み殺すかのような、獣の目で――。

「何を……、何をしたのよ!?」
 勇者パーティの女性が叫ぶ。
 だが、フォイは淡々と答えるだけだった。
「電圧を上げた、二段階上げれば相当な威力のはずだな」
「な、なんてことを……!」
 パーティ一行がフォイを非難する中、フォイはギロリと彼らを睨む。蛇に睨まれた蛙のように、彼らはすぐに黙った。
「なんてことを、その言葉はそっくりそのまま返させてもらう。……確かに、奴は今、身体に痛みを刻まれている。だが、お前たちはそれとは比べ物にならないほどの痛みをシオルに、街の者たちに与えている」
「……」
「身体の痛みよりも、心の痛みのほうが、深く奥に、そして根強い痛みを与える。身体の痛みは時間が経てば必ず治る。魔法を使えば早く治るだろう。だが、心の痛みは違う。一生、その傷が癒えないこともある。お前たちがシオルたちにしたことは、それだ」
 勇者パーティ一行が息を呑む。
 フォイは電圧を弱めることなく、さらに続けた。
「……では、『言霊』と呼ばれる現象があるらしい。それは、言葉に魂が宿り、絶大な力を宿しているという。誰かが強い想いで言葉を出せば、その力が言葉に与えられ、相手に発した言葉通りの結果が現れる可能性がある。……つまり、相手の絶命を願えば、そうなっていたかもしれないということだ」
 その言葉に、そこにいた全員に戦慄が走った。それは、魔法というものを使わなくても、言葉の力によって影響があるということを初めて知ったからであった。
 フォイはさらに続けた。
「お前たちはシオルや街の者たちへ理不尽で残酷な言葉を投げ続けた。……その痛みは、この電圧以上のものだろう。身体の痛みなどよりも、心の痛みのほうが影響が大きく、思い詰めてしまえば自ら命を絶つことを考えたっておかしくない。その責任を、お前たちは取れるというのか」
「……」
 勇者パーティ一行はただ黙っていた。
 勇者の悲鳴がいつまでも絶えることなく続いている。
 やがて、勇者パーティから「やめてくれ」と悲痛な叫びが出るようになった。
 フォイもそろそろ心が傷んでいた。元々、自らが行ったことだが、自分でもよく理解する。
 ……怒りにとらわれて行えば、自らも傷つくものだな。
「シオル」
 フォイはシオルを呼んだ。それから、顔を歪める。
「……もう、良いか」
 その言葉に、シオルは涙を零した。それから、フォイの腕にしがみつく。
「……もうっ、十分です……っ!    ごめんなさい、フォイさんっ、傷つけて……、ごめんなさいっ……!」
 ああ、違う、そうではないのに……。
 フォイは選択を誤ったことを悟った。そして、シオルのしがみつく手に自身の手をそっと添える。
「……すまない、傷ついたのはお前なのに。俺は余計なことをしたな」
「ちがっ……!」
「痛みで訴えるのは違うな。……それでは俺も、奴らと変わらない」
 フォイは歩み寄り、雷を引き抜く。そして、自身の元ある場所に雷を戻した。左手の中指が、復活する。
 フォイは拘束も解き、そして唸るように勇者パーティに告げる。
「……行け、二度とこの街に、そしてシオルに接触するな。お前たちは、人のありがたみを分かったら勇者として名乗るんだな」
 フォイに恐れをなした勇者パーティは、悲鳴をあげて逃げ始めた。
 フォイはその背中を、なんだか虚しい気持ちで見届けたのであった。



 IV

「兄ちゃん、お前――」
「……すまない、気分を害させた。それに、余計なことをした、二度とここには立ち寄らない」
 フォイは頭を下げて去ろうとする。シオルはその後を追いかけた。

 だが――。

「兄ちゃん、待ってくれ!」
 男の店主が声を上げる。
 フォイとシオルは振り返った。フォイはすでに意気消沈している。
 しかし、街の者たちはニコリと笑った。
「嫌な役目を押し付けて悪かった。俺たちを助けてくれてありがとうなー」
「……っ、いや、俺は――」
 フォイは戸惑う。
 だが、街の者たちは皆笑って礼を告げていった。
「あんたがいてくれたから、私たちは言いたいことを言えた」
「助けてくれてありがとうございました!    あなたが止めてくれなかったら、俺たちは……!」
「スカッとしたぜ、俺たちのために怒ってくれてありがとうな!」
 皆、笑っている。礼を告げて、時には「これ持っていきな」と何かを持たせてくれて、温かく受け入れてくれる。
 フォイはどうして良いのか分からなかった。
 俺は、彼らと変わらないことをしていたというのに……。何故、皆受け入れて……。
「……フォイさん」
 シオルが静かに青年の名を呼ぶ。
 呆然とするフォイに、シオルは涙を浮かべながらニコリと笑った。
「フォイさんの優しさを、皆知ってるんですよ」
「……っ!    俺は、優しくなんか――」
「……私の痛みを分かってくれて、私の未練を断ち切ってくれて……ありがとうございます」
 シオルが涙を零しながら優しい声音で告げる。その姿が、フォイには眩しく見えていた。
 フォイはシオルの言葉に、涙を零す。
 道を誤った俺を、シオルは……、街の者たちは受け入れてくれるというのか……。
 フォイは顔を片手で覆う。

 ――脳裏に蘇ったのは、の言葉で。


『フォイは、優しいからきっと、人の温もりを与えて貰えるよ』


 ああ、そうだな――。

 フォイは心中で答える。
 お前の、言った通りだな……。
 フォイの姿を見たシオルは、青年を支えるように寄り添う。


 賑わいを取り戻したマーケット通りの中心には、彼らを救った青年と、寄り添う少女の姿がそこにはあったのであった――。
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