痛みは全部請け負うけど、ドMじゃないからね?

色彩和

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序章 日常の一コマ

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 ここは森の中にある一軒の病院。
 知る人ぞ知るこの場所はまだ新しい店で、行列ができることは早々なかった。
 それもそのはず、店主の男はあまり商売にやる気がない。のほほんとしており、決まった人間、つまりこの店に常に通ってくれる顧客だけを大事にしているような者であった。金がないと言われれば、状況によっては「いらない」とまで言う始末。この者、新規開拓をしようだとか、顧客を増やそうだとか、そういう向上心がまったくないのであった。
 陽光が窓から差し込む。それだけで店内は明るくなり、温かくなっていく。森の中にあるとはいえ、周囲に木々はまったく生えておらず、野原のような何もないところにポツンと一軒建っているだけであった。夜の帳が降りるまではこの辺りは明るいのである。
 店の主人は陽の当たるところで呑気に読書と洒落こんでいた。
 一応、店の開店時間は決まっているものの、この店主はそれすらも頓着がない。客が来れば店が開いたようなものである。
 まどろみの時間の中、扉の開く音がした。次いで、来客を知らせる呼び鈴がカランと音を奏でる。
 音に気がついた店の主人――エレクシオンは本をそのままに首だけを動かして声を張った。
「はーい、すぐ行くから待っててねー」
 彼の声はモゴモゴとしていた。原因はくわえている棒付き飴だ。毎日、毎回、くわえていない時はないのではないかと思われるほどに、常日頃からくわえている。それは客の前だろうが何だろうが崩すことのない姿勢であった。
 エレクシオンは読みかけの本に栞を挟み、パタンと閉じる。そして、店に続く廊下へと足を進めた。自宅兼店となっているこの建物は本当に楽だ。移動距離やら移動時間やら気にせずに済むので大変大助かりと本人は特に自慢に思っていた。
 エレクシオンの店の看板には、痛み専門の病院であることが記載されていた。

 だが、不思議なことに、この店には医療器具なんてものはのである――。

 エレクシオンが店に顔を出せば、そこには見知った顔があって。彼は朗らかに笑った。
「おー、じいさん、久しぶり。元気にしてたか?」
「エレク、まーた手を抜いとるのう。開店時間をとうに過ぎとるぞ」
「やかましいってーの」
 エレクシオンは客の言葉にカラカラと笑って返す。
 よく来てくれる目の前のおじいさんは常連さんだ。お互い冗談で言い合うところがすでに仲の良さを物語っていた。
「で? 今日はどしたん?」
「実は腰が痛くてのう」
「そういう時は俺を呼べって。わざわざ来てくれるのはありがてえけどさー、悪化するじゃん」
 エレクシオンがやれやれと言いたそうに肩を落とせば、目の前のおじいさんは笑って。
「いいんじゃよ、エレクの顔を見に来ているようなもんじゃからな」
「はいはい。……ま、任せてよ、『相手の痛みは自分の痛み』ってね。その痛み、請け負うよ」
 エレクシオンは笑っておじいさんを名ばかりの診療室へと案内する。

 さて、本日最初の診療、開始である――。
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