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プロローグ・悪夢へと誘う白い獣
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辺りは薄暗く、耳が痛くなるほどの静寂に包まれていた。
広大な倉庫のような空間。
みっしりと立ち並んでいたであろう本棚は、ほぼすべて傾き、床になぎ倒されている。
床には無残な姿になった本が何冊も散らばっていた。
天井は不自然なほどに高く、蛍光灯は割れ、コードのようなものがプランと力なく垂れ下がっている。
窓はなく、外の光もない。
それなのに空間全体が、暖色の間接照明を当てられたような不気味なうす明かりで満たされていた。
どこからか、錆びた鉄のような匂いが漂ってくる。
生臭い、まるで血の味に似たそれを、眉をひそめてやり過ごす。
このどこか悲惨な光景を、俺は思いのほか落ち着いて観察していた。
なぜならここは、現実ではないからだ。
傍らに視線をやると、そこには純白の毛並みを持つ獣がいた。
豹かチーターを思わせるようなしなやかな体。足元には鋭い爪。
肉食獣らしい獰猛な風体とは裏腹に、青い瞳には穏やかな知性が灯っていた。
そして――その獣が、ゆっくりと口を開く。
『ここが”傷んだ悪夢”の中です』
獣は、鋭い牙で咬みつく代わりに、おっとりとした声で俺にそう告げた。
なぜ俺が、この得体の知れない獣と一緒に他人の悪夢の中に入ることになったのか。
それは、約一週間前の出来事に遡る――。
広大な倉庫のような空間。
みっしりと立ち並んでいたであろう本棚は、ほぼすべて傾き、床になぎ倒されている。
床には無残な姿になった本が何冊も散らばっていた。
天井は不自然なほどに高く、蛍光灯は割れ、コードのようなものがプランと力なく垂れ下がっている。
窓はなく、外の光もない。
それなのに空間全体が、暖色の間接照明を当てられたような不気味なうす明かりで満たされていた。
どこからか、錆びた鉄のような匂いが漂ってくる。
生臭い、まるで血の味に似たそれを、眉をひそめてやり過ごす。
このどこか悲惨な光景を、俺は思いのほか落ち着いて観察していた。
なぜならここは、現実ではないからだ。
傍らに視線をやると、そこには純白の毛並みを持つ獣がいた。
豹かチーターを思わせるようなしなやかな体。足元には鋭い爪。
肉食獣らしい獰猛な風体とは裏腹に、青い瞳には穏やかな知性が灯っていた。
そして――その獣が、ゆっくりと口を開く。
『ここが”傷んだ悪夢”の中です』
獣は、鋭い牙で咬みつく代わりに、おっとりとした声で俺にそう告げた。
なぜ俺が、この得体の知れない獣と一緒に他人の悪夢の中に入ることになったのか。
それは、約一週間前の出来事に遡る――。
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