お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~

保月ミヒル

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第23話 沈黙の人魚姫ー4

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 どれくらい眠っていたのだろうか。
 俺は明かりが消えた部屋の中で目を覚ました。
 窓からはほの青い月明かりが差し込んでいて、夢見の静かに上下する白い毛並みを浮かび上がらせている。
 どうやら夢見はまだ眠っているようだ。

「……目覚めても夢の中だなんて、気が狂いそうだな」

 ぼそりと呟いてから、寝返りを打つ。
 しかしすっかり目が冴えてしまったらしく、なかなか寝付けなかった。

 ――仕方ない。散歩でもいくか。

 結局外の様子を直接知ることもできなかったし、何か新しい情報が手に入るかもしれない。
 俺は呑気に寝息を立てる夢見を置いて、廊下に出た。



 静まり返った広い廊下は薄暗く、自分の足音がやけに響いて聞こえた。
 蝋燭の明かりが不規則にに揺らぎ、俺の影をまるで不吉な死神のように浮かび上がらせる。
 窓の側にやってきたところで、俺はふと足を止めた。

 裕美さんは、外には魔物がいると言っていた。
 昼間はとてもそうは見えなかったが、夜はどうだろう。もしかしたら今窓の外を覗けば、魔物とやらの正体が分かるかもしれない。 
 状況把握の一環として、ここで外の様子を確かめてみるべきだろう。
 窓に手をかけ、覗き込もうとしたところで――まぶしいほどの月明かりが目に飛び込んできた。
 煌々と輝く満月は、人間の根源的な恐怖を呼び起こす。
 そのまま地面の方へと視線を向けようとして、俺は動きを止めた。

 ………………やめとこ。

 窓から離れ、再び廊下を歩きだす。
 きっとどうせよく見えないだろう。夜だし。
 昼間にどうにか外に出て探索してみるほうが有益かもしれない。
 うん。そうだ。きっとそう。
 別に怖いから見ないようにしようとかそういうのじゃ――

 ひたすら不毛な自分への言い訳を重ねていると、ふいに廊下の向こうに自分以外の人影を見つけてしまった。

「ひっ……」

 思わず息を飲み、こちらには気づかず廊下の奥へと歩き去っていく人影を見つめる。

 長い髪をほどいたその後ろ姿は、マイだった。
 ……なんだ。驚かせやがって。
 マイは俺に気付かないまま、廊下の角を曲がり、奥へと進んでいく。

「それにしても……こんな時間にどこに行くつもりなんだ?」

 俺はマイの後を追ってみることにした。
 決して一人じゃ怖いからついていこうというわけではない。決して。
 
 マイの背中を追ってやがてたどり着いたのは、昼間魔女がいた玉座の間だった。
 マイはきょろきょろと辺りを気にするようなそぶりの後、扉を開け、中へと入っていく。
 まるで人に見つからないようにしている様子だった。

 扉が閉まって音を立てる前に、部屋の中に体を滑り込ませる。
 廊下よりも毛足の長いカーペットが敷いてあるせいか、自分の足音が途端に聞こえなくなる。
 そのせいか、マイは俺が入って来たことに気付いていないようだった。

 マイは、玉座の後ろに回ったり、壁側の棚を見たり、はたまた燭台をひっくり返したりと、急いで何かを探すように動き回っていた。

「マイ?」

 呼びかけると、その細い背中がびくりと跳ねる。
 そして、どこか怯えたような目で俺の方を見た。

 ――手元に視線を落とすと、そこにはナイフのような短剣が。

 ……なんかこの展開知ってるぞ!!
 強烈なデジャブが俺を襲う!

 いわずもがな、デジャブの原因は前回の夢の中での出来事である。
 つーか、どうして毎回毎回ナイフを持ち出すんだこの子は。一昔前の学園ドラマに出てくる不良か!?
 しかしマイは、前回と違って攻撃してこようとはしない。
 ただ俺をにらみつけ、牽制するように短剣の刃先を向けているだけだ。
 その様子は、まるで怯えているようにも見える。

「ちょっと待て。落ち着け。俺はただ、廊下を歩いてたらお前の姿を見つけたから、後を追ってみようかと――」
「…………」

 ますます警戒が強まったような気がする。
 じりじりと円を描くように、互いの距離は詰めないまま視線で牽制し合う。

「大丈夫だからそれ下ろそう。な? お前がここで何してたのか知らないけど、別に他の人間に言うつもりもないからさ」

 なだめるように、なるべく柔らかな声で言う。
 すると、マイは少し躊躇うようなそぶりを見せてから、かすかに刃先を下ろす。

 はぁ……。また殺されかけたらたまったもんじゃない。
 俺はほっと安堵の息をつくと、ゆっくりとマイに歩み寄った。
 これはチャンスかもしれない。マイがこの部屋を家探ししていたということは、やはり何かを求めてるということだ。
 それは奪われた声かもしれないし、もしくはまた別の何かなのかもしれない。
 とりあえず、会話を試みてみるべきだろう。

「なあ――」

 俺が口を開いたその瞬間。
 バタンと音を立てて扉が開け放たれ、複数人の男が部屋の中に入ってきた。

「そこで何をしている!」

 鋭くこちらに呼びかけたのは、昼間見た門番二人だった。片方はすでに腰につけていた長剣を構えている。

「まさか何かを盗もうとしていたんじゃないだろうな」
「ま、待て! 俺はこの城の構造なんてわからない、ただの客だ。便所を探してたらたまたまこの部屋に迷い込んでだな――」
「嘘をつけ。こんな華美な作りの扉が便所なわけはないだろう」

 ……おっしゃる通りでございます……。

 くそ。夢見がいれば、マイ以外のものに対しては対抗できるってのに。
 剣を持った男たちなんて、ちぎっては投げちぎっては投げできるだろう。
 知らんけど。まあ、あれでも一応物騒な牙を持った猛獣だし。

「観念しろ。……マイ、お前もだ」

 門番に睨まれ、マイがびくりと肩を揺らす。
 マイはこの城の連中に疎まれている。
 だが、この門番の雇い主は、あの魔女――マイをこの城に受け入れ、保護している張本人だ。

「ちょっと待て。この子は魔女のお気に入りなんだろ? 勝手に罰しちゃマズイんじゃないか?」
「……」

 門番二人が顔を見合わせて、後ろへと下がる。
 よしよし。聞き分けがいいな。教育が行き届いている。
 別に俺の成果でも何でもないのだが、得意げにそう思った瞬間、俺の期待は裏切られた。
 後ろに下がった門番たちの代わりに、長いドレスをまとった人物が前に出てきたのだ。
 窓から差し込む月明かりが、彼女の胸元に光る不思議な色をしたペンダントを照らす。

「……マイ。外部の者と結託して悪さをするなんて、お仕置きが必要なようですね」

 苦悩を滲ませた声でそう言ったのは、『魔女』だった。
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