秘密の仕事

桃香

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1.出会い

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「くそっ」

大山けんとは呟いた。

「だから、あの時こいつには見られてはいけなかったんだよ」

大山は只今、ある男を解体中だった。
右手に持っている出刃包丁を壁に叩きつけ、

「もう、ダメだ…」

溢れてくる涙はなんだったのか。

大山はそこで気を失った…


……………………

「手伝いましょうか?」

マネージャーのミツキ(23)は笑顔が可愛い女性。僕のマネージャーをもう2年もしてくれている。

「あっ、大丈夫」

僕は大山けんと(25)
職業アイドルをやっている。
ファンは200名ぐらいしかいない。ただ
200名いるとアルバイトはしなくて済む。
何とか食べてはいける。
仮にアイドルで生活出来なくても、自分には
副業があるから…大丈夫。


副業…いや、こちらが…本業なのかもしれない。


僕の仕事は【殺し屋】


と言っても、そんなに頻繁に依頼を受けてる
訳ではない。
自分の触手が動かないと、こっちの仕事はしない。
なぜか?それは…めんどくさいから…
だから、自分は料金設定を高くしている。
簡単には依頼出来ないように。
まあ、僕の料金設定はタワマンに1年は住めるぐらいかなあ。
とにかく貯金もたんまりある。

「今日のライブは四谷だよね?」

事務所の一室でミツキと話している。

「そうです。場所も知らなかったんですか?」


「まあ、曲も振りも完全に頭に入ってるし
完璧だからね。今、ここでもライブできるよー」

「余裕っすね!けんとさん!」

「まあ、ね。みんなパタパタしすぎなんだよ」

「はあ、、確かに山長さんはいつもパタパタしてますからね…」

ミツキは大きなため息をついた。

山長とは、
芸能事務所【アース】の社長。僕の事務所の社長だ。


「山長さん、今日来るの?」

「来ますよー。たまにはけんとのライブ見なきゃって言ってたから」

「山長さん、本当にいつも来ないよね。
まあ、いいんだけどさ」

「それが、大きな仕事が決まりそうだから、
そのクライアントを連れて今回はけんとさんのライブを観に来るそうですよ」

ミツキは手元にある書類を片付けながら言った。

「大きな仕事…何だろ」


僕はそこにあるお茶を一気に飲んだ。


16時…


四谷のライブ会場は地下にあるライブハウスだ。

いつもはバンドがライブをやっているのだが

最近はアイドルイベントを積極的にやってる。


経営が厳しいんだろう…


「けんと君!おはよう!」

ライブハウスのスタッフやっちゃんが

声をかけてきた。


「おはようございます」


「今日はお客さんどんな感じ?」


「まあ、小屋も小さいし…あっ失礼…100人ぐらいですね」


「すごいね!!なかなかいないよ!100人呼べる人、けんと君1人ですごいよ」


「いや、別にみんな呼べますよ」


僕はこの手の話が嫌いだ。
呼べないやつは辞めればいいと思ってるから。
良い人を演じるのは大変だ。


「じゃ、後でね!」

スタッフのやっちゃんは仕事に戻った。


僕はリハを終えて、19時の客入りまで

楽屋でボケっとしていた。

最近、頭がよく痛くなる。

薬を飲みながら休んでいると、マネージャーと社長と男が入ってきた。


「お疲れ様」

マネージャーのミツキが声をかけてきた。

「お疲れ様です。まあ、楽勝なんで楽しんでいって下さい」


「お疲れ!強気だね!相変わらず」

社長の山長が言った。

「はじめまして、広告会社の冨田です。
CMのモデルを探していまして。今回山長さんにおすすめされたので、観に来ました」


背が低く中肉中背の眼鏡をかけたその男は言った。

「はじめまして…冨田さん」

そう言った時、ある記憶が蘇った。

この男の事、知っている。

どこだったかあ………


ダメだ思い出せない。


そんなもやもやした気持ちの中、


ライブの開演時間になった。

100人超満員の中、ダンスミュージックに合わせていわゆるk-popに似た曲を20曲歌い
ライブは終わった。


「お疲れ様!良かった!!」


興奮しながらミツキが入ってくる。

「うん!君で決定したい!」

冨田も眼鏡を触りながら大興奮だ。

「うわあ!うわあ!ありがとうございます!」

社長は仕事が決まった事に大興奮だ。


うるさいな…


僕は早く休みたかった。


「長崎にある会社のドリンクCMなんだけど、来年は全国CMを予定してるんだよ」

「長崎…」

黒縁眼鏡がどことなく胡散臭い。

……。

僕は思い出した。…こいつ…



詐欺師だ。













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