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第一章
1-3 思い出
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雨都梢賢がダサい件についての話題が一段落すると、蕾生は少し遠慮しながら別に話題を切り出した。
「あのさ」
「うん?」
「今のうちに聞いておきたいんだけどさ」
「どしたの、改まって」
蕾生があまりに消極的に聞くので、永は深刻になり過ぎないように明るい声音で聞き返す。
それで蕾生は思い切って言うことができた。
「楓って人のこと」
「あー……そっかあ……」
「まだ、俺が知らない方がいい事があるなら無理には聞かねえけど──」
蕾生の疑問は当然だった。蕾生だけは転生する度に記憶がリセットさせているのだから、雨都梢賢の大叔母である楓に関する知識はゼロだ。
蕾生が鵺に変化する身であるほどの濃い呪いを受けていることを隠しておきたかった永は、つい最近まで前世を知りたがる蕾生の質問をずっとはぐらかしていた。
過去には自分が鵺化する運命だと知った途端に、その心的衝撃で鵺になってしまったこともある。
そういう経験から永は蕾生には最小限の知識しか与えてこなかった。常に心的ストレスによって鵺化してしまう危険があるので、蕾生は消極的なのだ。
だが、もう隠しておく必要はない。蕾生は鵺化を乗り越えたのだから。
「いや。正直、僕にもここから先のことはどうなるかわからないんだ。いつもならライが鵺化したら即終了だったからね」
だから永は蕾生が疑問に思ったことはこれからは全て答えるつもりでいる。
「鵺化の向こう側があるなんて初めてのことですからね」
鈴心にもその方針は言わなくても伝わっている。
「なら──」
「うん。これからは僕らが知ってることは何でも教えるよ。僕らも知らない事だらけだけどね!」
「じゃあ、頼む」
そうして蕾生はやっと安心してずっと聞きたかったであろう話をせがんだ。
「わかった。雨都楓サンに初めて会ったのは、前の前の転生だからええとどれくらいだ?」
「およそ五十年前です」
永は少し眉を顰めて記憶を辿る。
鈴心のアシストがあってようやく思い出したように当時の説明を始めた。
「そうそう、それくらいだね。僕がまだライくんにも転生の事を伝えていない、リンも合流していない頃、突然彼女は現れた。セーラー服を翻して颯爽と、ね」
「どうやってわかったんだ?」
リン──転生前の鈴心が毎回都合よく現れることは既に聞いていた蕾生だったが、雨都楓までも突然永を訪ねてくるとは不思議で仕方ない。
「いやあ、それについては楓サンに聞いても教えてくれなくって。今回の事といい、雨都には僕らの居所がわかるツールがあるのかもしれないね」
「麓紫村に行ったらわかるでしょうか?」
「──期待はしてるけどね。で、いきなり目の前に慧心弓を突きつけて彼女は言ったよ、「返しにきた」って」
どうやら永と鈴心にも雨都のことはわからないことがあるらしい。
全てを呪いが引き合わせていると考えてもよいものか、蕾生は迷った。そこで思考を停止してしまってはいけない気がする。
「慧心弓ですが、随分前に雨都に──当時は別の名前でしたが預けたんです。そして彼らは弓を持ったまま行方知れずになってしまった」
鈴心の言葉を引き取って、永はやはり思い出すように、所々眉を顰めながら続けた。
「楓サンは雨都家がこれまで僕らに関わってきたことを、宿命って言ってた。
蔵に隠すように仕舞われていた弓と一本の矢。それから一緒に置かれていたこれまでのことが書いてある文献を隈なく読んでそう思ったって。
宿命は果たさなければならない、ってなんか思い詰めた感じだったんだよね、最初」
すると鈴心も頷きながら補足する。永に比べて鈴心は記憶を引き出すのに淀みがない。
「当時、雨都は銀騎に男子が生まれない呪いをかけられていましたから、その事も大きな要因だったんでしょう。
私達と関われば自ずと銀騎も出てくる。そうすれば雨都にかけられた呪いを解くことができるかもしれない」
「そうだね、彼女の目的はむしろそっちだった。僕らに関わるのはついでだってはっきり言ったから」
===============================
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「あのさ」
「うん?」
「今のうちに聞いておきたいんだけどさ」
「どしたの、改まって」
蕾生があまりに消極的に聞くので、永は深刻になり過ぎないように明るい声音で聞き返す。
それで蕾生は思い切って言うことができた。
「楓って人のこと」
「あー……そっかあ……」
「まだ、俺が知らない方がいい事があるなら無理には聞かねえけど──」
蕾生の疑問は当然だった。蕾生だけは転生する度に記憶がリセットさせているのだから、雨都梢賢の大叔母である楓に関する知識はゼロだ。
蕾生が鵺に変化する身であるほどの濃い呪いを受けていることを隠しておきたかった永は、つい最近まで前世を知りたがる蕾生の質問をずっとはぐらかしていた。
過去には自分が鵺化する運命だと知った途端に、その心的衝撃で鵺になってしまったこともある。
そういう経験から永は蕾生には最小限の知識しか与えてこなかった。常に心的ストレスによって鵺化してしまう危険があるので、蕾生は消極的なのだ。
だが、もう隠しておく必要はない。蕾生は鵺化を乗り越えたのだから。
「いや。正直、僕にもここから先のことはどうなるかわからないんだ。いつもならライが鵺化したら即終了だったからね」
だから永は蕾生が疑問に思ったことはこれからは全て答えるつもりでいる。
「鵺化の向こう側があるなんて初めてのことですからね」
鈴心にもその方針は言わなくても伝わっている。
「なら──」
「うん。これからは僕らが知ってることは何でも教えるよ。僕らも知らない事だらけだけどね!」
「じゃあ、頼む」
そうして蕾生はやっと安心してずっと聞きたかったであろう話をせがんだ。
「わかった。雨都楓サンに初めて会ったのは、前の前の転生だからええとどれくらいだ?」
「およそ五十年前です」
永は少し眉を顰めて記憶を辿る。
鈴心のアシストがあってようやく思い出したように当時の説明を始めた。
「そうそう、それくらいだね。僕がまだライくんにも転生の事を伝えていない、リンも合流していない頃、突然彼女は現れた。セーラー服を翻して颯爽と、ね」
「どうやってわかったんだ?」
リン──転生前の鈴心が毎回都合よく現れることは既に聞いていた蕾生だったが、雨都楓までも突然永を訪ねてくるとは不思議で仕方ない。
「いやあ、それについては楓サンに聞いても教えてくれなくって。今回の事といい、雨都には僕らの居所がわかるツールがあるのかもしれないね」
「麓紫村に行ったらわかるでしょうか?」
「──期待はしてるけどね。で、いきなり目の前に慧心弓を突きつけて彼女は言ったよ、「返しにきた」って」
どうやら永と鈴心にも雨都のことはわからないことがあるらしい。
全てを呪いが引き合わせていると考えてもよいものか、蕾生は迷った。そこで思考を停止してしまってはいけない気がする。
「慧心弓ですが、随分前に雨都に──当時は別の名前でしたが預けたんです。そして彼らは弓を持ったまま行方知れずになってしまった」
鈴心の言葉を引き取って、永はやはり思い出すように、所々眉を顰めながら続けた。
「楓サンは雨都家がこれまで僕らに関わってきたことを、宿命って言ってた。
蔵に隠すように仕舞われていた弓と一本の矢。それから一緒に置かれていたこれまでのことが書いてある文献を隈なく読んでそう思ったって。
宿命は果たさなければならない、ってなんか思い詰めた感じだったんだよね、最初」
すると鈴心も頷きながら補足する。永に比べて鈴心は記憶を引き出すのに淀みがない。
「当時、雨都は銀騎に男子が生まれない呪いをかけられていましたから、その事も大きな要因だったんでしょう。
私達と関われば自ずと銀騎も出てくる。そうすれば雨都にかけられた呪いを解くことができるかもしれない」
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