39 / 174
第二章
2-19 残されたモノ
しおりを挟む
梢賢が再び蔵に入ろうとするので、永もそれに続く。
「僕らも入っていい?」
「おう」
そうして改めて四人は蔵に入る。灯りはないが、真夏の日中なので中はそれなりに明るかった。
「ええーっと」
「元々蔵書はどれくらいあったんですか?」
内部をキョロキョロしながら歩く梢賢に鈴心が聞いた。
「蔵書なんて言うほどのもんやないよ。ライオンくんの言った通り、見かけに反して中身は元からスッカスカや。一つにまとめたら段ボール一箱で済むやろうね」
「すると、棚に一冊ずつ、まるで資料館みたいに陳列してた感じかな?」
その話を受けて、蔵内部に設置された多数の棚を見て永が分析する。
「そうやね。婆ちゃんや母ちゃんの目盗んで読むんや。短時間でパッと探せるような置き方をしとった。父ちゃんがな」
「それはとても盗みやすい環境で……」
気持ちはわかるが、ずさんな管理の仕方に永は苦笑した。そして棚を隈なく見て周りながら梢賢が悲嘆に暮れる。
「ああー、うわー!あれもないー!」
「見た感じ、ほとんどやられてねえか?」
近寄って見るまでもなく、入口付近にいる蕾生にすらそれはわかっていた事だった。
「そうだねえ。根こそぎって感じ?」
「あかんわ、昔のやつは全部やられとる。秘伝書も、日記も──」
「秘伝書!?」
梢賢の言葉に鈴心と蕾生が目を光らせた。
「おい、なんだそのワクワクワードは」
「雨都、の前の雲水一族が代々体験した鵺との出来事を記したやつや。八代目と十四代目が纏めたやつがあんねんけど、どっちもないわ」
永が興味を持ったのは別の単語だった。
「日記って言うのは?」
「全員やないけど、何人かの先祖が書いた個人的な日記や。中には鵺のことが書いてあるやつもある。それも全部ない」
「じゃあ、何も残って──」
鈴心ががっくりと肩を落とすと、梢賢は一番隅の棚を指差して言った。そこは一際暗がりだった。
「いや、最近のは残ってる。里に来た時の記録と、雨辺が去っていった時の記録。それから檀婆ちゃんの日記も残ってるな」
「檀さんの、ですか」
「恨み言ばっか書いてある根暗日記や。まてよ、すると──ああ!ない!クッソォ!」
何かを思いたった梢賢はもう一度暗がりに戻って確認すると殊更に悔しがった。
「何だよ?」
「楓婆の日記が、ない」
「楓サンの?」
永はドキリとして梢賢の方を見た。
「死ぬまでの七年間でつけとったもんや。あれこそ──」
梢賢は歯噛みして立ち尽くす。
「楓が何か残してくれていたかもしれない……」
「くそっ!」
鈴心も永も憤りを隠せなくなった。蕾生にも残念な気持ちはあるものの、二人のような感情をまだ共有することができない。別の悔しさを感じて一歩後ずさると、足に何かが触れた。
「うん?なんか落ちてる」
拾い上げたそれは、とても古い書物のようだった。
「ああっ!それ!」
それを見た梢賢が歓喜の声を上げる。
蕾生は表紙のタイトルが平仮名だったので読むことができた。
「うつろがたり……?」
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
「僕らも入っていい?」
「おう」
そうして改めて四人は蔵に入る。灯りはないが、真夏の日中なので中はそれなりに明るかった。
「ええーっと」
「元々蔵書はどれくらいあったんですか?」
内部をキョロキョロしながら歩く梢賢に鈴心が聞いた。
「蔵書なんて言うほどのもんやないよ。ライオンくんの言った通り、見かけに反して中身は元からスッカスカや。一つにまとめたら段ボール一箱で済むやろうね」
「すると、棚に一冊ずつ、まるで資料館みたいに陳列してた感じかな?」
その話を受けて、蔵内部に設置された多数の棚を見て永が分析する。
「そうやね。婆ちゃんや母ちゃんの目盗んで読むんや。短時間でパッと探せるような置き方をしとった。父ちゃんがな」
「それはとても盗みやすい環境で……」
気持ちはわかるが、ずさんな管理の仕方に永は苦笑した。そして棚を隈なく見て周りながら梢賢が悲嘆に暮れる。
「ああー、うわー!あれもないー!」
「見た感じ、ほとんどやられてねえか?」
近寄って見るまでもなく、入口付近にいる蕾生にすらそれはわかっていた事だった。
「そうだねえ。根こそぎって感じ?」
「あかんわ、昔のやつは全部やられとる。秘伝書も、日記も──」
「秘伝書!?」
梢賢の言葉に鈴心と蕾生が目を光らせた。
「おい、なんだそのワクワクワードは」
「雨都、の前の雲水一族が代々体験した鵺との出来事を記したやつや。八代目と十四代目が纏めたやつがあんねんけど、どっちもないわ」
永が興味を持ったのは別の単語だった。
「日記って言うのは?」
「全員やないけど、何人かの先祖が書いた個人的な日記や。中には鵺のことが書いてあるやつもある。それも全部ない」
「じゃあ、何も残って──」
鈴心ががっくりと肩を落とすと、梢賢は一番隅の棚を指差して言った。そこは一際暗がりだった。
「いや、最近のは残ってる。里に来た時の記録と、雨辺が去っていった時の記録。それから檀婆ちゃんの日記も残ってるな」
「檀さんの、ですか」
「恨み言ばっか書いてある根暗日記や。まてよ、すると──ああ!ない!クッソォ!」
何かを思いたった梢賢はもう一度暗がりに戻って確認すると殊更に悔しがった。
「何だよ?」
「楓婆の日記が、ない」
「楓サンの?」
永はドキリとして梢賢の方を見た。
「死ぬまでの七年間でつけとったもんや。あれこそ──」
梢賢は歯噛みして立ち尽くす。
「楓が何か残してくれていたかもしれない……」
「くそっ!」
鈴心も永も憤りを隠せなくなった。蕾生にも残念な気持ちはあるものの、二人のような感情をまだ共有することができない。別の悔しさを感じて一歩後ずさると、足に何かが触れた。
「うん?なんか落ちてる」
拾い上げたそれは、とても古い書物のようだった。
「ああっ!それ!」
それを見た梢賢が歓喜の声を上げる。
蕾生は表紙のタイトルが平仮名だったので読むことができた。
「うつろがたり……?」
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる