転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

文字の大きさ
43 / 174
第二章

2-23 雲水の見解

しおりを挟む
 はるか蕾生らいおの会話が終わった頃を見計らって、梢賢しょうけんは書物を指差しながら聞いた。
 
「で、その本によれば、初代が君らを探し当てた時、君らは随分と憔悴してたみたいなことが書いてあるんやけど、本当なん?」
 
「うん。その通りだ。正確には僕が。自分の運命に絶望して自暴自棄になってた。そんな時に雲水うんすい氏──お坊様が現れたんだ」
 
 永は大きく頷いた後更に続けた。
 
「お坊様は自分が出会った鵺の亡霊の話をしてくれたよ。そしてやっと僕らは生と死を繰り返しているという確証を得たんだ。
 お坊様が僕らの話を聞いてくれて、自分が会った亡霊の証言と照らし合わせてそう結論付けてくれた時は、心が晴れたみたいだった」
 
「呪われてるって言われたのに?」
 
 梢賢が怪訝な顔で聞き返したが、永は何ら恥じることのない顔をして頷いた。
 
「うん。それまではこの境遇を自分達でさえ疑っていたからね。僕らは頭がおかしいだけじゃないのかっていうことも考えてた。
 けど、お坊様によって客観視を得られた。呪われていること自体がわかっただけでもその時はありがたかった。自分の立ち位置がはっきりしたからね」
 
「へえ、やっぱハル坊はすごいなあ」
 
 梢賢は思わずのけぞって感嘆の声を上げる。
 永は恥ずかしそうに頭をかいた。
 
「そうでもないよ。そこで腹を括っただけさ」
 
「いや、永はすごい」
 
 蕾生の真面目な援護射撃で、ますます永は恥ずかしそうにしていた。
 
「ははは……うん、とにかくそこで自分の状況がわかった。次は何でもいいから情報が欲しかった。
 お坊様にしつこく聞いたよ、その亡霊のことを。その姿はとても美しい男性だったって。
 ただ、見たことがないほど奇妙な髪型と格好をしていたから異国の人間じゃないかって言ってた」
 
 永の言葉を受けて、梢賢が書物を開く。
 
「ちょうど、この辺やな。ええと、狩衣かりぎぬみたいなのに袖が短かった。括りくくりばかまみたいなのに裾が長かった。って言うのはハル坊はどう理解しててん?」
 
「狩衣とか、括り袴ってどんなのだ?」
 
 蕾生の質問に答えながら永は言った。
 
「ええっとね、狩衣って昔の貴族の衣装なんだけど、ひとえっていう着物の上に着るやつで合わせがないんだ。お坊様が言うにはそれを直に着ていたらしいんだけど……」
 
 その続きは梢賢が引き継いだ。
 
「初代が異国の人だって言うのを信じるなら、実際に来てたのは狩衣やないんやろな。当時の人からしたらそう見えたってことかもしれんよ」
 
「僕もそう思う。着物の様な合わせがない、ということは洋服を着ていたんじゃないかって、今なら思うよ」
 
「洋服か」
 
 昔の着物にも色々あるし、それが洋服だろうと言われても、蕾生にはいまいちピンと来なかった。








===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...