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第二章
2-26 出頭要請
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「あ、ありがと。それでね、この本を読んだら、少なくとも雲水・雲寛親子と体験したことはかなり思い出せたよ。やっぱり記録に残すって大事だね」
少し照れながらも、永は書物を眺めてうんうん頷いていた。
「せやな。君ら本人は死んだら全くの他人に生まれ変わる。記録を受け継ぐことなんてできん。その代わりにウチのご先祖がこうやって書き記したんやろな」
「だから、これ以降の記録が盗まれたのが本当に惜しいよ。記録が読めたらはっきりと思い出せることが沢山あると思うんだ」
「それはそうかもしらんけど……」
梢賢は少し不安になった。仮に盗難などなくて全ての記録を一気に永に見せれば、九百年ぶんの知識を思い出すことになる。そんな記憶の奔流みたいなことが起こったら、果たして永は正気でいられるのだろうか?
梢賢がそんなことを考えていると、急に永の焦った声がした。
「リン?大丈夫か?顔、真っ青じゃないか!」
「だ、大丈夫です」
全く会話に入って来なかったので、鈴心の存在をつい忘れてしまっていた。ベッドに腰掛けたままくらくらと体が揺れるほどに具合が悪そうだった。
「そうは見えんで!だから横になってもええって言ったのに!」
梢賢がそう叫ぶと、鈴心は意識も朦朧となっているのに顔をしかめていた。
「嫌です……臭い……」
「そこまで!?」
もうショックで立ち直れそうにない。
「梢賢、入るよ」
いきなり襖を開けた優杞の登場が、梢賢には女神のように思えた。
「ああ、姉ちゃん!ええとこに来た!鈴心ちゃんが具合悪いみたいなんや」
「ええ?あらほんと、顔色が悪いね。すぐに別の部屋に布団敷いてあげるわ。ここは臭いからね」
「姉ちゃんまで!?」
ショックで固まった梢賢を他所に、永が優杞に鈴心を託そうとした。
「すみません、よろしくお願いします」
「いいのいいの、女の子はね、色々大変なことがあるのよ」
「そ、そんなんじゃ、ありません……」
鈴心は息苦しそうにしながらも言い張るが、それを優杞が優しくいなした。
「いいからいいから。後は野郎達に任せましょ。梢賢、あんたその二人連れて藤生に行きな」
「へ?」
我に返った梢賢は間抜けな声を出す。そんな弟の反応を無視して優杞は言った。
「蔵の盗難の件で長達が話し合ってる。あんた達からも話が聞きたいってさ」
「ハル坊達は盗んでへんよ!?」
「それはわかってる。でもあんた達を尋問しないと収まらない連中がいるんだよ」
「けど──」
梢賢が躊躇っていると、蕾生も永もケロリとしていた。
「俺達なら平気だ、なあ?」
「そうだね。尋問って言われるとちょっと怖いけど、その場に行くことで何か情報が得られるなら僕らは喜んで行くよ」
二人の態度に優杞は笑っていた。
「いい度胸だ。うちの弟ばっかり女々しくて、あたしは悲しいわ」
「そんなん男女差別やあ!」
そうして鈴心を優杞に預けて、永と蕾生、それから梢賢は藤生家に向かった。
鈴心の体調変化は熱中症だろうと、この時は誰も疑わなかった。
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
少し照れながらも、永は書物を眺めてうんうん頷いていた。
「せやな。君ら本人は死んだら全くの他人に生まれ変わる。記録を受け継ぐことなんてできん。その代わりにウチのご先祖がこうやって書き記したんやろな」
「だから、これ以降の記録が盗まれたのが本当に惜しいよ。記録が読めたらはっきりと思い出せることが沢山あると思うんだ」
「それはそうかもしらんけど……」
梢賢は少し不安になった。仮に盗難などなくて全ての記録を一気に永に見せれば、九百年ぶんの知識を思い出すことになる。そんな記憶の奔流みたいなことが起こったら、果たして永は正気でいられるのだろうか?
梢賢がそんなことを考えていると、急に永の焦った声がした。
「リン?大丈夫か?顔、真っ青じゃないか!」
「だ、大丈夫です」
全く会話に入って来なかったので、鈴心の存在をつい忘れてしまっていた。ベッドに腰掛けたままくらくらと体が揺れるほどに具合が悪そうだった。
「そうは見えんで!だから横になってもええって言ったのに!」
梢賢がそう叫ぶと、鈴心は意識も朦朧となっているのに顔をしかめていた。
「嫌です……臭い……」
「そこまで!?」
もうショックで立ち直れそうにない。
「梢賢、入るよ」
いきなり襖を開けた優杞の登場が、梢賢には女神のように思えた。
「ああ、姉ちゃん!ええとこに来た!鈴心ちゃんが具合悪いみたいなんや」
「ええ?あらほんと、顔色が悪いね。すぐに別の部屋に布団敷いてあげるわ。ここは臭いからね」
「姉ちゃんまで!?」
ショックで固まった梢賢を他所に、永が優杞に鈴心を託そうとした。
「すみません、よろしくお願いします」
「いいのいいの、女の子はね、色々大変なことがあるのよ」
「そ、そんなんじゃ、ありません……」
鈴心は息苦しそうにしながらも言い張るが、それを優杞が優しくいなした。
「いいからいいから。後は野郎達に任せましょ。梢賢、あんたその二人連れて藤生に行きな」
「へ?」
我に返った梢賢は間抜けな声を出す。そんな弟の反応を無視して優杞は言った。
「蔵の盗難の件で長達が話し合ってる。あんた達からも話が聞きたいってさ」
「ハル坊達は盗んでへんよ!?」
「それはわかってる。でもあんた達を尋問しないと収まらない連中がいるんだよ」
「けど──」
梢賢が躊躇っていると、蕾生も永もケロリとしていた。
「俺達なら平気だ、なあ?」
「そうだね。尋問って言われるとちょっと怖いけど、その場に行くことで何か情報が得られるなら僕らは喜んで行くよ」
二人の態度に優杞は笑っていた。
「いい度胸だ。うちの弟ばっかり女々しくて、あたしは悲しいわ」
「そんなん男女差別やあ!」
そうして鈴心を優杞に預けて、永と蕾生、それから梢賢は藤生家に向かった。
鈴心の体調変化は熱中症だろうと、この時は誰も疑わなかった。
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