転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第二章

2-37 薄情

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「なんか、気に入らねえ」
 
「うん?」
 
 それまで黙っていた蕾生らいおが少し怒気を孕んだ声で訴える。
 
「お前らの考えが正しければ、あのけいってやつは藤生ふじきの人に無理させて金儲けしようとしてるんだろ。誰かが犠牲になって村を維持するなんておかしい」
 
 はるか鈴心すずねも蕾生らしい考えに頷く。だが、梢賢しょうけんはそれを嘲るように一蹴した。
 
「ライオンくんは優しいなあ。でもここではそういう正論は通らんよ」
 
「え?」
 
「この里はな、藤生の藤生による藤生のための場所なんや。眞瀬木ませき以下里のもん達は藤生の駒であり、藤生に生かされとる存在や。逆もまたしかりで、藤生は里人を生かす義務がある」
 
「……?」
 
 梢賢の割り切った言い方に蕾生は眉を顰めたが、構わずに続けた。
 
「君主は、民のために犠牲になるもんや。だからこそ民も君主に命を賭して従う。それがこの里では当たり前のことなんや」
 
「封建的だなあ。この村は時間が止まってる」
 
 永は溜息を吐いた後、あまり深刻にならないようにフラットな調子で感想を述べた。
 
「否定はせんよ。遠い昔、成実なるみが命からがらわずかな従者を伴ってここに逃げてきてから、何も変わってへん」
 
「……」
 
 全てを諦めているような梢賢の口調は、蕾生の心にモヤモヤを植えつけていく。そんな蕾生の反応を見て、梢賢は笑った。
 
「ははは、ピュアなライオンくんは受け入れがたいよなあ」
 
「お前は何とかしたいとか思わないのか?」
 
「思わんな。何度も言うけど雨都うとはこの里の客人なんや。オレたちにこの里をどうこうしようっていう権利がそもそもない」
 
 はっきりと他人事だと言ってのける梢賢に蕾生は納得がいかなかった。少なくとも、優杞ゆうこと梢賢の姉弟には村の影響が強く出ているのに。それも飲み込んで仕方ないで済ませるつもりなのだろうか。
 
 蕾生が口をへの字に曲げて俯いていると、鈴心が優しい口調で言った。
 
「ライの気持ちはわかります。梢賢の言葉に冷たさを感じているのも。けれどやはり私達部外者にはどうにもなりません」
 
「まあ、村の人達にそれで不満や疑問がないなら周りがどうこう言うことはできないよね。尤も、誰もそれを持たないこの環境は充分異常だけど」
 
 永が皮肉を絡めて言うと、梢賢も軽く息を吐いて何の感情も出さずに言った。
 
「だからよ、この話はただの世間話として聞いといてや。オレも君らに里のことを頼ろうとは思ってへん。雨都もどうせここを出るだろうし」
 
「そうなんですか?」
 
 鈴心が驚いて聞くと、梢賢はあっけらかんとして言ってのけた。
 
「今すぐってことはないけどな。少なくともオレは里を出るよ。銀騎の呪いは解けたんやからここにいる理由はないやろ」
 
 それは薄情にもとれる言い方だった。梢賢は自分さえよければ村のことはいいんだろうか。それは逃げることにならないか。蕾生にはそういう割り切った考えができないので、梢賢の言葉を飲み込むことができなかった。








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