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第三章
3-15 イケおじ
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「じゃあ、僕らは全員ライくんになれば良いって事だね」
「おい、俺がバカだってことか?」
蕾生はこの手の話題にだけ鋭敏な反応を示す。
「せやな。ライオンくんくらい白紙な感じがちょうどいいかもしれん」
「難しそうですね、ハル様の溢れる知性を抑えるなんて」
「おい、クソガキ」
不服そうな蕾生を宥めながら永はわかりやすくそうする目的を悟らせようとした。
「まあまあ。つまり僕らが何にも知らない態度を取れば、ここぞとばかりに洗脳しようとするって事でしょ?」
「ああ。それをオレは狙ってん。君らのバカさ加減では菫さんからかなりの情報が引き出せるかもしれんで」
それでも蕾生は不貞腐れていた。
「うつろ神信仰の全容が掴めるかもしれませんね」
「おう。だから頼んだで、皆──」
鈴心が歩くのを制して梢賢は突然真面目な顔を見せた。その視線は逆方向から歩いてくる人物に向けられている。
背の高い男性だった。夏なのに黒いハイブランドのスーツ姿で、黒いハットを被っている。
「──!」
その姿を見た途端、鈴心は体を強張らせた。その様子を見て永も緊張を高める。蕾生はあまりよくわかっておらず、二人が緊張しているので黙って様子を窺っていた。
スーツ姿の男が四人に近づき、梢賢を一瞥だけして通り過ぎる。表情は読めなかったが、顔から年齢を重ねていることだけがわかった。
「今のが伊藤や」
男が数メートル歩いた先で角を曲がってから梢賢が緊張を孕んだ声で言った。永はとりあえず見た目の評価しかできなかった。
「まじ、イケおじじゃん……」
隣で震える鈴心に蕾生が声をかけたので、永もそちらに注目する。
「鈴心、どうした?」
「リン?大丈夫か?」
「あ、大丈夫、です。ちょっと迫力に呑まれそうに……」
鈴心の顔色は真っ青だった。その反応をそのまま信じる永も息を呑んだ。
「確かにただ者じゃなさそうだ」
「俺は、よくわかんなかった」
一人首を傾げる蕾生を見て、梢賢も複雑な顔をしている。
「君らの感知能力はかなりバラつきがあるんやね」
「そうかも。あんまり気にしたことなかったけど」
「そういうの、気にした方がええで。何があるかわからんからな」
「うん。今後は気をつけるよ」
永は頭で考えるだけではどうにもならない事態がこれからは増えるだろうことに気を引き締めた。
「向こうから歩いてきたってことは、雨辺の家に行ってたのかな?」
「そうやろな。急に菫さんから電話が来るなんておかしいと思ったら、あいつの差し金やったんか」
「伊藤に入れ知恵されてるってこと?」
「ああ。こらいっそう気が抜けんな」
「そうだね」
永は改めていつでも一触即発の状態であることを実感する。鈴心は不安でいっそう顔を曇らせた。蕾生もまた、二人の様子を見て緊張していた。
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「おい、俺がバカだってことか?」
蕾生はこの手の話題にだけ鋭敏な反応を示す。
「せやな。ライオンくんくらい白紙な感じがちょうどいいかもしれん」
「難しそうですね、ハル様の溢れる知性を抑えるなんて」
「おい、クソガキ」
不服そうな蕾生を宥めながら永はわかりやすくそうする目的を悟らせようとした。
「まあまあ。つまり僕らが何にも知らない態度を取れば、ここぞとばかりに洗脳しようとするって事でしょ?」
「ああ。それをオレは狙ってん。君らのバカさ加減では菫さんからかなりの情報が引き出せるかもしれんで」
それでも蕾生は不貞腐れていた。
「うつろ神信仰の全容が掴めるかもしれませんね」
「おう。だから頼んだで、皆──」
鈴心が歩くのを制して梢賢は突然真面目な顔を見せた。その視線は逆方向から歩いてくる人物に向けられている。
背の高い男性だった。夏なのに黒いハイブランドのスーツ姿で、黒いハットを被っている。
「──!」
その姿を見た途端、鈴心は体を強張らせた。その様子を見て永も緊張を高める。蕾生はあまりよくわかっておらず、二人が緊張しているので黙って様子を窺っていた。
スーツ姿の男が四人に近づき、梢賢を一瞥だけして通り過ぎる。表情は読めなかったが、顔から年齢を重ねていることだけがわかった。
「今のが伊藤や」
男が数メートル歩いた先で角を曲がってから梢賢が緊張を孕んだ声で言った。永はとりあえず見た目の評価しかできなかった。
「まじ、イケおじじゃん……」
隣で震える鈴心に蕾生が声をかけたので、永もそちらに注目する。
「鈴心、どうした?」
「リン?大丈夫か?」
「あ、大丈夫、です。ちょっと迫力に呑まれそうに……」
鈴心の顔色は真っ青だった。その反応をそのまま信じる永も息を呑んだ。
「確かにただ者じゃなさそうだ」
「俺は、よくわかんなかった」
一人首を傾げる蕾生を見て、梢賢も複雑な顔をしている。
「君らの感知能力はかなりバラつきがあるんやね」
「そうかも。あんまり気にしたことなかったけど」
「そういうの、気にした方がええで。何があるかわからんからな」
「うん。今後は気をつけるよ」
永は頭で考えるだけではどうにもならない事態がこれからは増えるだろうことに気を引き締めた。
「向こうから歩いてきたってことは、雨辺の家に行ってたのかな?」
「そうやろな。急に菫さんから電話が来るなんておかしいと思ったら、あいつの差し金やったんか」
「伊藤に入れ知恵されてるってこと?」
「ああ。こらいっそう気が抜けんな」
「そうだね」
永は改めていつでも一触即発の状態であることを実感する。鈴心は不安でいっそう顔を曇らせた。蕾生もまた、二人の様子を見て緊張していた。
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