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第三章
3-30 気になる子ども
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「それから、雨都の蔵に入った盗人の件ですけど……」
「あ、はい」
「うちでも調査をしたのだけれど、手がかりのようなものが全く見当たらなくてね」
「はあ」
「もう少し時間をくださる?調査を続けますから」
「わかりました。よろしくお願いします」
永は一応頭を下げたが、予想していた通り康乃が有耶無耶にしようとしていることは明白だった。
「まあ、文献については柊達や梢賢が内容は熟知してるのよね?」
「はひ!」
「内容が知りたかったら、柊達と梢賢に教えてもらったらどうかしら」
「ははっ」
梢賢と柊達が揃って土下座するのを見ながら、永は犯人のことは追及するなと言われたのだと思った。
「では、そろそろ帰ります。長居してしまってごめんなさいね」
「とんでもございません!」
「失礼しました」
「剛太様も御足労いただきありがとうございました!」
土下座を繰り返す柊達の様は雨都での威厳ある父親像をかき消す。二人を玄関へ案内しようとする腰の低さも大袈裟で滑稽だった。
座敷を出る直前、剛太は振り返って鈴心を見た。目があったので鈴心が会釈すると、またぽっと頬を赤らめた。その様子を見ていた永は少し胸がムカムカしている。剛太は赤面したまま祖母の後ろをついて行こうとしていた。
「剛太」
「?」
しかし蕾生が呼び止めたので剛太はもう一度振り返る。梢賢は焦って蕾生を嗜めた。
「ああっ、バカ!様つけんかい!」
「……くん」
「な、なんでしょう」
「多分、後で──えっと、眞瀬木のなんてったっけ?」
蕾生に聞かれた鈴心が答えた。
「瑠深さんですか?」
「そうそう。そのルミが後でケーキ持って行くって言ってた」
「は、はあ……?」
「すげえ美味かったから、楽しみにしとけよ」
なんの脈絡もない蕾生の話題に、梢賢が困り果てて言う。
「もう、バカちんが!剛太様へのもん、オレらが先に食べたことになるやろが!」
「なんか問題あんのか?」
あっけらかんとしている蕾生を手で制して鈴心が代わりに謝った。
「すみません、ライが失礼なことを」
「あ、いえ!大丈夫です!お兄ちゃん、ありがとう。楽しみにしておくね」
「おう」
康乃と剛太が帰っていくのを見届けて、永が蕾生に近づいた。
「珍しいね、ライくん」
「何が?」
「わざわざ子どもを気にかけるなんて」
蕾生の図体では子どもには怯えられるのがいつものことなので、自分から世間話をしに行った様に永は多少なりとも驚いていた。当の蕾生は不思議そうに首を傾げている。
「あー、そうだな……なんか気になってな、アイツも」
「ふうん……」
も、と括ったからには他にも気になる子どもがいるのだろう。おそらく藍と葵のことだと永は考える。
三人の子どもと蕾生の共通点。今の所はそれがなんなのかはわからなかった。
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
「あ、はい」
「うちでも調査をしたのだけれど、手がかりのようなものが全く見当たらなくてね」
「はあ」
「もう少し時間をくださる?調査を続けますから」
「わかりました。よろしくお願いします」
永は一応頭を下げたが、予想していた通り康乃が有耶無耶にしようとしていることは明白だった。
「まあ、文献については柊達や梢賢が内容は熟知してるのよね?」
「はひ!」
「内容が知りたかったら、柊達と梢賢に教えてもらったらどうかしら」
「ははっ」
梢賢と柊達が揃って土下座するのを見ながら、永は犯人のことは追及するなと言われたのだと思った。
「では、そろそろ帰ります。長居してしまってごめんなさいね」
「とんでもございません!」
「失礼しました」
「剛太様も御足労いただきありがとうございました!」
土下座を繰り返す柊達の様は雨都での威厳ある父親像をかき消す。二人を玄関へ案内しようとする腰の低さも大袈裟で滑稽だった。
座敷を出る直前、剛太は振り返って鈴心を見た。目があったので鈴心が会釈すると、またぽっと頬を赤らめた。その様子を見ていた永は少し胸がムカムカしている。剛太は赤面したまま祖母の後ろをついて行こうとしていた。
「剛太」
「?」
しかし蕾生が呼び止めたので剛太はもう一度振り返る。梢賢は焦って蕾生を嗜めた。
「ああっ、バカ!様つけんかい!」
「……くん」
「な、なんでしょう」
「多分、後で──えっと、眞瀬木のなんてったっけ?」
蕾生に聞かれた鈴心が答えた。
「瑠深さんですか?」
「そうそう。そのルミが後でケーキ持って行くって言ってた」
「は、はあ……?」
「すげえ美味かったから、楽しみにしとけよ」
なんの脈絡もない蕾生の話題に、梢賢が困り果てて言う。
「もう、バカちんが!剛太様へのもん、オレらが先に食べたことになるやろが!」
「なんか問題あんのか?」
あっけらかんとしている蕾生を手で制して鈴心が代わりに謝った。
「すみません、ライが失礼なことを」
「あ、いえ!大丈夫です!お兄ちゃん、ありがとう。楽しみにしておくね」
「おう」
康乃と剛太が帰っていくのを見届けて、永が蕾生に近づいた。
「珍しいね、ライくん」
「何が?」
「わざわざ子どもを気にかけるなんて」
蕾生の図体では子どもには怯えられるのがいつものことなので、自分から世間話をしに行った様に永は多少なりとも驚いていた。当の蕾生は不思議そうに首を傾げている。
「あー、そうだな……なんか気になってな、アイツも」
「ふうん……」
も、と括ったからには他にも気になる子どもがいるのだろう。おそらく藍と葵のことだと永は考える。
三人の子どもと蕾生の共通点。今の所はそれがなんなのかはわからなかった。
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