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第三章
3-32 特別な道具
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すっかり陽も落ちた夕食時、雨都家を訪ねる者があった。
「御免」
「はい、あ、八雲様!」
優杞が出迎えると玄関には作務衣姿の中年男性が立っていた。その男、八雲は無表情で用件だけを簡潔に言う。
「周防何某という御仁はいるか?」
「ええ、もちろん。どうぞ」
「いや、ここで結構。呼んでいただきたい」
「かしこまりました。お待ちください」
優杞はお淑やかに返事をした後、八雲が見えないであろう所から全力ダッシュして居間へ向かった。
「梢賢!梢賢!!」
「なんや、姉ちゃん」
食事中の梢賢と永達は食べながら優杞が慌てる様に驚き、その名を聞いて更に驚く。
「八雲様、来た!」
「ブッ!もうかいな!」
「あんた達も行きな!玄関でお待ちだから!」
もう夜になったのですっかり油断していた四人は飯を喉に詰まらせながら急いで玄関へ向かった。
「む、食事中だったか。すまない」
「いいえ、とんでもない!わざわざすいまっせん!」
八雲の姿を認めた途端にスライディング土下座をかます梢賢。そのすぐ後ろで永達も会釈しながら名乗る。
「初めまして、周防永です」
「唯蕾生ッス」
「御堂鈴心と申します」
すると八雲は三人を順番にゆっくりと品定めでもするように見ていく。
「ふ……む……」
「あのー……?」
その視線に居心地の悪さを感じて永が声をかけると、八雲は我に返って道具箱を取り出した。
「む、失礼した。康乃様の御命令でかぎ針などを持ってきた」
言いながら八雲は道具箱から様々な太さの金属製の編み棒等をその場に並べる。永はそれを見て興奮して言った。
「うわっ、すごい!いろんな太さがある。レース針もありますね。手芸屋さんみたい!」
「ハル坊!失礼なこと言うたらあかん!」
「あ、すみません……」
慌てて諌める梢賢の声に永も罰が悪そうに謝ると、八雲は特に気にしていないようで表情も変えなかった。
「いや、最近は裁縫道具ばかり作っているからな。言い得て妙だ」
「はあ……」
「好きなものを使うといい」
「ええと、じゃあ、これとこれ、お借りしてもいいですか?」
永は数ある中から普段使っているかぎ針とレース針に長さが近いものを二本選んだ。
「うむ。構わない」
「ありがとうございます」
永は新しい裁縫道具にご機嫌だったが、それを見る鈴心の視線は重たかった。
そんな鈴心の反応を見定めた後、八雲は蕾生の顔を凝視していた。
「……?」
じろじろ見られて少しムッとした蕾生は目上であろうと関係なく睨み返す。
すると八雲はまた表情を出さず視線を逸らし、残った道具を片付けた後立ち上がった。
「──ふむ。ではこれで失礼する」
「どうも、ご苦労様でございました!」
ペコペコ土下座が止まらない梢賢を無視して、八雲は何も言わずに雨都家を出て行った。
===============================
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「御免」
「はい、あ、八雲様!」
優杞が出迎えると玄関には作務衣姿の中年男性が立っていた。その男、八雲は無表情で用件だけを簡潔に言う。
「周防何某という御仁はいるか?」
「ええ、もちろん。どうぞ」
「いや、ここで結構。呼んでいただきたい」
「かしこまりました。お待ちください」
優杞はお淑やかに返事をした後、八雲が見えないであろう所から全力ダッシュして居間へ向かった。
「梢賢!梢賢!!」
「なんや、姉ちゃん」
食事中の梢賢と永達は食べながら優杞が慌てる様に驚き、その名を聞いて更に驚く。
「八雲様、来た!」
「ブッ!もうかいな!」
「あんた達も行きな!玄関でお待ちだから!」
もう夜になったのですっかり油断していた四人は飯を喉に詰まらせながら急いで玄関へ向かった。
「む、食事中だったか。すまない」
「いいえ、とんでもない!わざわざすいまっせん!」
八雲の姿を認めた途端にスライディング土下座をかます梢賢。そのすぐ後ろで永達も会釈しながら名乗る。
「初めまして、周防永です」
「唯蕾生ッス」
「御堂鈴心と申します」
すると八雲は三人を順番にゆっくりと品定めでもするように見ていく。
「ふ……む……」
「あのー……?」
その視線に居心地の悪さを感じて永が声をかけると、八雲は我に返って道具箱を取り出した。
「む、失礼した。康乃様の御命令でかぎ針などを持ってきた」
言いながら八雲は道具箱から様々な太さの金属製の編み棒等をその場に並べる。永はそれを見て興奮して言った。
「うわっ、すごい!いろんな太さがある。レース針もありますね。手芸屋さんみたい!」
「ハル坊!失礼なこと言うたらあかん!」
「あ、すみません……」
慌てて諌める梢賢の声に永も罰が悪そうに謝ると、八雲は特に気にしていないようで表情も変えなかった。
「いや、最近は裁縫道具ばかり作っているからな。言い得て妙だ」
「はあ……」
「好きなものを使うといい」
「ええと、じゃあ、これとこれ、お借りしてもいいですか?」
永は数ある中から普段使っているかぎ針とレース針に長さが近いものを二本選んだ。
「うむ。構わない」
「ありがとうございます」
永は新しい裁縫道具にご機嫌だったが、それを見る鈴心の視線は重たかった。
そんな鈴心の反応を見定めた後、八雲は蕾生の顔を凝視していた。
「……?」
じろじろ見られて少しムッとした蕾生は目上であろうと関係なく睨み返す。
すると八雲はまた表情を出さず視線を逸らし、残った道具を片付けた後立ち上がった。
「──ふむ。ではこれで失礼する」
「どうも、ご苦労様でございました!」
ペコペコ土下座が止まらない梢賢を無視して、八雲は何も言わずに雨都家を出て行った。
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