転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

文字の大きさ
111 / 174
第四章

4-18 帰還

しおりを挟む
「ただいまさーん!」
 
 三十分も経った頃、陽気な声が聞こえた。梢賢しょうけんが帰ってきたのだ。蕾生らいおも後に続いてはるか鈴心すずねがいる居間にやってきた。
 
「あ、お帰り。今日は門限までに帰ってこれたね」
 
 永が声をかけて顔を上げると、蕾生も梢賢も汗だくになっていた。
 
「まあな。炎天下の中自転車漕ぐはめになったけど」
 
「ああもう、キツイキツイ!汗びっしょりや!」
 
 そんな二人の出立ちを見て、鈴心は少し遠ざかる。
 
「ちょっと、鈴心ちゃん?」
 
「臭いので来ないでください」
 
「ガーン!」
 
 ショックでよろめいた梢賢に、永は笑っていた。
 
「ははっ、じゃあまずシャワーでも浴びてきたら?」
 
「おう!そうさしてもらうわ!行くで、ライオンくん!」
 
 梢賢に肩をがっしと掴まれた蕾生は大袈裟に嫌がった。
 
「ええっ、お前と一緒に入るのか?ヤダよ!」
 
「ワガママ言いなや!時間の節約や!」
 
 上機嫌で蕾生を引きずっていった梢賢がこの世の終わりのような顔をして戻ってきたのは、それから二十分後だった。
 
「……」
 
「どしたの、梢賢くん?」
 
 永が驚いていると、その後ろで蕾生は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
 
「だから嫌だったんだ、俺は」
 
「あかん……完敗どころか、オレなんか豆粒や……」
 
「ああ……」
 
 梢賢の敗北感は、かつて永も味わったことがあるものだった。それを察した永は深く頷いて同意を示す。その様子を見ていた鈴心は更に嫌悪感を強めて男共を見下していた。
 

「あーあ、疲れちゃった!」
 
 梢賢がメソメソしているのを誰も構わなくなった頃、永が急にレース針を投げ出した。
 
「編み物、進んだか?」
 
「遅々として進まないよぉ。すぐ疲れちゃうんだもん」
 
 蕾生の問いに腑抜けた返事をする永を見て、鈴心が楚々と労った。
 
「ハル様、肩をお揉みします」
 
「いいの!?やったー」
 
 無邪気に喜ぶ永を見て、梢賢は少し引きながら言う。
 
「なんか、ハル坊おかしくない?」
 
「永は疲れ過ぎると精神年齢が下がるんだ」
 
 蕾生が説明すると、梢賢は顎に手をあて興味深そうに頷いた。
 
「ほう。自己防衛かね、これ以上疲れないように頭脳を使うのをセーブしてんのかな」
 
 永の手が止まったのを機に、蕾生が話し始める。
 
「永。俺達が街にいる時に皓矢こうやから連絡がきた」
 
「え?マジ?あー、そこそこ!で、何だって?」
 
「例の長男のことだ」
 
 嬉々として肩を揉まれていた永は、その言葉が出た途端、いつもの表情を戻していた。
 
「わかった。聞くよ」
 
「おお、急に正気に戻った!」
 
 梢賢が揶揄うのを無視して、蕾生は辿々しく説明を始めた。







===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...