転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

文字の大きさ
113 / 174
第四章

4-20 立ち往生

しおりを挟む
 トンデモ話を聞いて心臓を抑えている梢賢しょうけんはるかが聞いた。
 
「話を戻すけど、梢賢くんは眞瀬木ませきの派閥のことは知ってたの?」
 
「まあ、ルミがそこまで話したんなら、しらばっくれてもしゃあないけど」
 
「知ってたんだ」
 
 やっぱりな、と永は思っていた。梢賢から助けを求めてきたくせにこう情報を小出しにされては全く要領を得ない。
 しかし梢賢は悪びれずに言う。
 
「噂だけな。そもそも里に雨辺うべの支援者がおるかもって最初に話したやろ?その時点でオレの中では眞瀬木のぬえ肯定派やろな、とは思ってた」
 
「なんでその時に言ってくれなかったんです」
 
 鈴心すずねが素直に不満を述べると、梢賢は開き直っていた。
 
「ええ?今ならまだしも、会ったばかりで人となりも知らない君らに言うのはちょっと難しいよ。助けを求めたのはオレの方やけど、眞瀬木かて親戚みたいなもんやんか!」
 
「……そうでしたね、梢賢も身内をやたらと疑いたくはありませんよね」
 
「そうそう」
 
 渋々引き下がった鈴心の代わりに、永がズバリと言ってのける。
 
「梢賢くん。どっちつかずでバランスを取る事は君の美徳かもしれないけど、そろそろそうも言ってられなくなるかもよ」
 
 これまでの梢賢の言動で永が感じていることは、梢賢は永達、雨辺うべ、眞瀬木を盤上の駒として配置してそれぞれの動向を岡目八目で見ているのではないかということだ。
 その場合、盤上のゲームマスターは梢賢だ。梢賢に動かされている感覚が拭えなくて永は厳しい言葉を選んだ。
 
「……そうかもな」
 
 梢賢はそんな永の言葉を噛み締めてから頷いた。自分のやり方が限界に近づいていることを受け止め始めているととった永は更に追求した。
 
「という訳で、梢賢くんは眞瀬木の鵺信者は誰だと思う?」
 
「そら、当主の墨砥ぼくとのおっちゃんは違うやろ。ルミかてそんな話を君らにするんじゃ肯定派やない」
 
「消去法で、眞瀬木ませきけい?」
 
 いよいよ核心をついた永の問いにも、梢賢は険しい顔で首を振った。
 
「……いや、それは考えたくない」
 
「……」
 
「でも、状況を考えたら珪兄やんが濃厚なのは、頭ではわかる」
 
「うん……」
 
「けどオレは信じたい。珪兄やんはそんなことせえへん」
 
 永は梢賢の考えは甘いと思っていた。身内だろうが何だろうが情に縛られては本質を見失う。そして眞瀬木珪はおそらくそれを狙っている。
 梢賢が身内に甘い性格なのは知り尽くしているだろうから、結局梢賢は珪に強く出られないと舐められている。
 だが、部外者である永はそれを許さない。その気持ちが視線に出てしまっており、梢賢は自身の気持ちが二つに割かれてその狭間で立ち往生してしまう。







===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

処理中です...