転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第五章

5-6 RPG⑥頑なな八雲

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 八雲やくもの工房は、眞瀬木ませき邸の裏にあった。屋敷の影に隠れてひっそりと佇んでいる。外見は倉庫と言えなくもないが、はっきり言って木造の荒屋だった。
 
「八雲おじさーん、いる?」
 
 硬そうな木戸をガタガタと引いて瑠深るみが中の人物に声をかける。
 
「む。瑠深か。どうした」
 
 八雲は何か作業をしていた様だったが、さりげなくそれを隠して振り返った。
 
「おじさんに会いたいって人連れてきたんだけど」
 
「──なんだ、貴様らか」
 
 歓迎されるはずもないのはわかっていた。八雲のはるかを見る視線は鋭い。
 
「先日はどうも」
 
「お邪魔いたします」
 
 だがここで怯んでは情報が得られない。永と鈴心すずねは図々しさを装って荒屋の中に入る。中は木材や道具が散らかっており、瑠深は歩く場所を探しながら呆れていた。
 
「うわ、相変わらず座るとこもないね」
 
「ここには客など来ないのでな」
 
「あ、僕らなら大丈夫です!お仕事中すみません」
 
 永がわざとお愛想すると、八雲はさらに視線を尖らせて睨む。
 
「前置きはいい。用件を言え」
 
「は。では、慧心けいしんという名の弓をご存知ありませんか?」
 
「昔から雨都に伝わる弓だな」
 
 即答されたのは予想外だった。永は慎重に言葉を選んで尋ねる。
 
「その通りです。ご覧になったことは?」
 
「ない。あれは雨都うとかえでが持ち出して以降戻っていないと聞く。俺を幾つだと思ってる」
 
「おじさん四十七、生まれてない」
 
 瑠深が耳打ちしてくれたので、永は一礼してから質問を変えた。
 
「失礼しました。では先代とかそれよりも前に、慧心弓けいしんきゅうについての記録などは残っていませんか?」
 
「何故、そんなことを聞く」
 
 訝しむ八雲の顔は、生来の強面も手伝って重厚な圧があった。だがそれに臆することなく永は続けた。
 
「雨都の古い資料に、眞瀬木に慧心弓を貸したという記述がありまして。呪具の専門家なら心当たりがあるかなーって」
 
「……心当たりがないではないが」
 
「えっ!」
 
 即座に永は期待したが、八雲は目を閉じて短く答えただけだった。
 
「黙秘する」
 
「……そういう態度を取られるということは、疑ってもよいということですか?」
 
「好きにしろ。俺は嘘はつけん。だから黙秘する」
 
 八雲の頑なさは嫌でも伝わってくる。永も鈴心も顔には出さなかったが内心で困っていた。
 
「残念だったね。八雲おじさんが口を噤んだら何も出てこないよ」
 
 少し面白そうな顔をして瑠深が得意げに言うと、それまで黙っていた鈴心が口を開いた。
 
「あの、八雲さんはぬえについてどう思いますか?」
 
「何も。それを考えるのは眞瀬木本家の仕事。俺は道具屋にすぎん」
 
「──では、眞瀬木ませき灰砥かいと氏は鵺信者ですか?」
 
「リン!?」
 
 鈴心の直接的な言葉にさすがの永もぎょっとしていた。鈴心は真っ直ぐに八雲を見ている。八雲は眉を震わせて動揺していた。
 
「──」
 
「おじさん……」
 
 瑠深が心配そうに声をかけた時、木戸の方から人影が現れた。
 
「お嬢さん、踏み込み過ぎですよ」
 
「!!」
 
「兄さん!」
 
 そこに立っていたのは、余裕の笑みを浮かべた眞瀬木ませきけいだった。







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