転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

文字の大きさ
122 / 174
第五章

5-8 RPG⑦傍若無人

しおりを挟む
「おい、けい。いいのか?」
 
「構いませんよ、身内の恥をお話することになりますが、今の僕にかけられた疑いを晴らすためですから」
 
 八雲やくもの言葉を軽くあしらって珪は少し自嘲気味に笑う。
 
「疑いって?」
 
 瑠深るみの質問を無視して珪はまた饒舌に語った。
 
「その者は銀騎しらきで修行を重ねるうちに、ぬえそのものに魅入られてしまったんです。そしてとうとう銀騎から鵺の遺骸の一部を持ち出して帰ってきた」
 
 瑠深は聞き入れてもらえなかったことに落ち込んでいたが、構わず珪は続ける。
 
「彼は眞瀬木ませきの中にいながら、鵺を崇拝するようになった。持ち帰った遺骸を依代にね。そして秘密裏に仲間を増やしていったんです」
 
 そこまで言うと、沈黙を守っている八雲に向かって珪は言う。
 
「おじ様、あれを見せて差し上げてください」
 
「それは、墨砥ぼくと兄さんの許可がなければ……」
 
「いやだなあ、何をそんなに怯えるんです?あれにはもう何の力も入っていないことはおじ様自身で太鼓判を押したでしょう?」
 
「それはそうだが……」
 
 躊躇ってその場を動かない八雲をおいて、珪は作業場の角で黒い布を被っている何かまで歩みを進めた。
 
「なんてことない、普通の仏像ですよ」
 
 その布を珪が取り払うと、二メートルほどの木製の観音像とおぼしきものが姿を現した。
 はるか鈴心すずねはそれに目を奪われていた。首から下はごくありふれた仏像に見える。問題はその頭部だ。一見穏やかな、人に似せた顔をしているが、その目元が大きく欠損していた。何かをくり抜いた様にも見える。
 
「当時の八雲が彫ったものです。今ではただの木偶人形ですよ。何の魂も入っていない」
 
「以前は何かが入っていたんですか?」
 
 永が聞くと、珪は待ち構えていたようにスラスラと像の成り立ちを説明する。
 
「ええ。この像の瞳。ここに眞瀬木製の秘石がおさめられていました。かつて銀騎から持ち出した鵺の遺骸と、雨都からお借りした慧心弓から鵺の妖気を拝借して、それらの妖気を石におさめて仏像の瞳にしたんです」
 
「──!」
 
 珪は簡単に言ったが、その処置が常識外れの高度な技術だとわかる鈴心は言葉を失うほど驚いていた。それで永の方が落ち着いて感想を述べる。
 
「言うなれば、仮想の鵺像というわけですね」
 
「そうです。当時はここまでの物を作って鵺を崇拝していた。そしてその余波が雨都うとに及んでしまった」
 
「まさか、それが──」
 
「厄介なのは、雨都側の鵺信者は暴走状態だったことです。我々は呪術の知識がありますから、節度を持ってひっそりと鵺を崇めていた。だが、素人はその匙加減がわからない」
 
 永の言葉を最後まで聞かずに、珪は滑るように語っていく。
 
「ある時、暴走した雨都の鵺信者がこの仏像の瞳を奪って里を出ていったんです。それが今の雨辺うべ家です」
 
「……」
 
「崇拝する依代を失った眞瀬木の鵺信者は次第に減っていきました。雨辺の件があって、雨都では更に鵺を毛嫌いするようになった。元はこちらの落ち度ですから、我々も雨都を立てて鵺を否定している──というのが現代の話です」
 
「なるほど。しかし、現代の今でも個人的に鵺に興味を持つことは禁止されてはいない……」
 
 永が改めて言うと、珪はそこでやっと笑って言った。
 
「正しく理解していただけたようで良かった。先ほど名前が上がった亡き伯父の灰砥かいとも個人的に鵺を研究していただけ。──私も同じです」







===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

処理中です...