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第六章
6-5 盲点
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「ところで祭がいよいよ明日ですが、眞瀬木珪や雨辺菫はどう動くのでしょうか」
蕾生以外の三人が思考のために数分黙ったままでいると、鈴心が話題を切り替えた。
それにまず梢賢が答える。
「珪兄やんは明日は大忙しやで。実質、眞瀬木は織魂祭の責任者やからな。悪巧みしてる暇なんかないで」
「けど、明日は村中のエネルギーがここに集まるよね」
「絹織物のことか?そらまあ、そうやけど。ハル坊は珪兄やんがそれを利用する思てんのか?」
「どう利用するかはわからないけど、そんな膨大なエネルギーをただお焚き上げするなんて勿体無いと思うんだよねえ」
梢賢にとっては永の意見は盲点だった。毎年の行事なので慣れてしまっている梢賢には、それが警戒すべき事だとは思っていなかったからだ。
「けどそれは毎年やってんで。なんで今年に限ってそうなるんや?」
すると鈴心が神妙な面持ちで割って入った。
「雨辺葵が覚醒間近だからです」
「ちょ、っと待てよ。葵くんにそのエネルギーを使うっちゅーことか?あり得へん!そもそも、雨辺は里に入れへんよ!」
慌てる梢賢を他所に、やはりこの手の知識が足りない蕾生が鈴心に尋ねる。
「葵にそのエネルギーを使ったらどうなるんだ?」
「そこまではちょっと」
「なんだよ」
てっきり鈴心にはその先の想像がついているのかと思った蕾生はまたもがっかりした。詳しい見解がないのなら、鈴心の杞憂に終わるかもしれない。梢賢も蕾生もそう感じていると、突然永が叫ぶ。
「あ!」
「なんだよ?」
「例年とは違うことが今年は起きてる!」
「それって?」
首を傾げて蕾生が問うと、永はおもむろに編み上げたレースを見せた。
「これだよ」
「──永が編んだやつか?」
それを見て鈴心の方が青ざめて答える。
「ハル様のエネルギー……」
「あ──」
そこまで言われてとうとう梢賢も口を開けて固まる。更に永は不安気な顔で続けた。
「これに、キクレー因子が吸われてるとしたら?」
「葵くんに使ったら、鵺化の引き金になってしまうかも……」
「──まじかよ」
蕾生にもやっと非常事態だとわかった。それと同時に永は珍しく焦って狼狽えていた。
「どうしよう、梢賢くん!今からでも断れない?」
「んなこと出来るかいな!康乃様の決定は絶対やし、ハル坊かて喜んで参加する言うたやんか!」
「だってこんな事になるなんて思わなかったもん!」
「オレかてそうや!」
言い合う二人に向けて、鈴心は疑いの眼差しである可能性を述べる。
「待ってください。そうなると、私達を織魂祭に招待した康乃さんはどうなんです?」
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
蕾生以外の三人が思考のために数分黙ったままでいると、鈴心が話題を切り替えた。
それにまず梢賢が答える。
「珪兄やんは明日は大忙しやで。実質、眞瀬木は織魂祭の責任者やからな。悪巧みしてる暇なんかないで」
「けど、明日は村中のエネルギーがここに集まるよね」
「絹織物のことか?そらまあ、そうやけど。ハル坊は珪兄やんがそれを利用する思てんのか?」
「どう利用するかはわからないけど、そんな膨大なエネルギーをただお焚き上げするなんて勿体無いと思うんだよねえ」
梢賢にとっては永の意見は盲点だった。毎年の行事なので慣れてしまっている梢賢には、それが警戒すべき事だとは思っていなかったからだ。
「けどそれは毎年やってんで。なんで今年に限ってそうなるんや?」
すると鈴心が神妙な面持ちで割って入った。
「雨辺葵が覚醒間近だからです」
「ちょ、っと待てよ。葵くんにそのエネルギーを使うっちゅーことか?あり得へん!そもそも、雨辺は里に入れへんよ!」
慌てる梢賢を他所に、やはりこの手の知識が足りない蕾生が鈴心に尋ねる。
「葵にそのエネルギーを使ったらどうなるんだ?」
「そこまではちょっと」
「なんだよ」
てっきり鈴心にはその先の想像がついているのかと思った蕾生はまたもがっかりした。詳しい見解がないのなら、鈴心の杞憂に終わるかもしれない。梢賢も蕾生もそう感じていると、突然永が叫ぶ。
「あ!」
「なんだよ?」
「例年とは違うことが今年は起きてる!」
「それって?」
首を傾げて蕾生が問うと、永はおもむろに編み上げたレースを見せた。
「これだよ」
「──永が編んだやつか?」
それを見て鈴心の方が青ざめて答える。
「ハル様のエネルギー……」
「あ──」
そこまで言われてとうとう梢賢も口を開けて固まる。更に永は不安気な顔で続けた。
「これに、キクレー因子が吸われてるとしたら?」
「葵くんに使ったら、鵺化の引き金になってしまうかも……」
「──まじかよ」
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「どうしよう、梢賢くん!今からでも断れない?」
「んなこと出来るかいな!康乃様の決定は絶対やし、ハル坊かて喜んで参加する言うたやんか!」
「だってこんな事になるなんて思わなかったもん!」
「オレかてそうや!」
言い合う二人に向けて、鈴心は疑いの眼差しである可能性を述べる。
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