転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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エピローグ

8-8 未来の象徴

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康乃やすの様、折言ってお願いがございます」
 
 ふと廊下で控えていた優杞ゆうこが手をついて切り出した。
 
「姉ちゃん?」
 
「何かしら?」
 
 梢賢しょうけんも康乃も首を傾げてそちらを注視すると、楠俊なんしゅんも妻に続いて頭を下げて言う。
 
「そちらの雨辺うべあおいくんを私共夫婦の養子に迎えたく存じます」
 
「ええええ!」
 
 梢賢は大袈裟に驚いたし、はるか達もその展開に驚いていた。そして康乃も少し目を開いて声を上げる。
 
「まあまあ」
 
 すると夫妻は頭を下げたまま続けた。
 
「夫婦で二晩考えました結果にございます」
 
「何卒お聞き入れいただきたく……」
 
「そうねえ。雨辺さんはそちらの親戚ですもんね、自然な形だとは思うけど──」
 
 康乃はすでにいつも通りに深刻ぶらない口調で考えながら梢賢の方を振り向いた。
 
「梢賢ちゃんはどう思う?」
 
「そ、そ、そんなん……」
 
 梢賢は驚きのあまり口をパクパクさせながらも、終いには大粒の涙を零した。
 
「大賛成に決まってますやん!」
 
 それを見ていた永も蕾生らいお鈴心すずねも、心から良かったと思った。当初の梢賢の願いは叶わなかったけれど、葵だけでも迎え入れることができたことは梢賢にとっても喜ばしい結果になった。
 
「じゃあ、後は葵くん次第ね」
 
 康乃が満足そうににっこり笑って少し身を引くと、梢賢は涙をぐいと拭って殊更に明るい声で葵に呼びかける。
 
「葵くん!あんな、葵くん、これからはオレのうちで暮らさへん?」
 
「お兄ちゃんの?」
 
 葵はキョトンとして梢賢を見上げた。少し瞳に光が差した。
 
「そう!オレは大学とかあるから出かける事が多いけど、オレの兄ちゃんと姉ちゃんが君とずっと一緒におるから!」
 
「ずっと、一緒……?」
 
「ずうっと一緒やで!」
 
 梢賢が胸を叩いているのを見ながら、葵は菫石を握りながらただ純朴に尋ねる。
 
「おかあさんも?」
 
「……当たり前やで!」
 
 梢賢の望みは叶わなかった。
 
 菫はいない。
 その罪の意識は永劫に消えないだろう。
 
 けれど梢賢の家族は、その罪を共に抱える選択をしてくれた。
 
 後悔はある。けれど過去は変えられない。
 だからせめて未来だけは笑って過ごせるように守っていきたい。
 
 葵と菫石はその誓いの象徴である。
 梢賢はその未来ごと、葵を抱き締めて泣いた。
 
「ずうっと……一緒……」
 
 梢賢の温もりに包まれて、葵の瞳からもすうっと涙が一筋流れ落ちた。


 
銀騎しらきさんと、鵺人ぬえびとのお三方、ちょっとよろしいかしら?」
 
 楠俊と優杞が葵と話しながら打ち解けていく姿を見届けてから、康乃は皓矢こうやと永達に向き直って言った。
 
「は?」
 
「ご覧にいれたいものがあるの」







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