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第10回。キッドさんの少林寺拳法修行日記
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掲載日2017年 02月13日 21時16分
(原題:赤鬼の金的蹴り)
少林寺拳法の急所蹴りは、まず膝を高く上げて腿をしっかり引く。
足首の力を抜いて相手の睾丸の下側から裏側を掬い上げるように爪先を立てて蹴り込み、足の甲でブラブラしているところにスパコーーン!と当てる。
初段の修行で必ず習うのだが、これがまた痛くってねえ。
私は同年代の子が居なかったので、少林寺歴ウン十年の五段を持っている岩瀬先生といつも修行をしていた。
名前の通り岩みたいな拳と柔軟な関節、さらには赤銅色に日焼けした180センチオーバーの鍛え上げられた肉体を持ち、オマケに顔がちょっと怖い岩瀬先生は、さながら“赤鬼”とでも言えそうな外見とは裏腹に、温和で優しい先生だった。怒鳴ったり体罰をするようなことはただの一度もなかったし、逆に丁寧にじっくりと、理解・体得できるまで何度でも付き合って下さる先生だった。
で、そんな心優しい赤鬼から丁寧に丹念に念入りに金的蹴りを習うとどうなるか。
私が小学6年で初段を取得してから高校2年で道場を移るまでの間、ほとんどずっと岩瀬先生と稲垣先生(この方が私の直接の師匠だ。今は整体治療でお世話になってる)に面倒を見ていただいていた。
ただ技の動きを繰り返すのではない。組手と言って基本の型をまず身に着け、その次に乱捕りで実戦を想定した修行を行うのだ。
まず私が前蹴りを放つ。するとそれを払い受けという動きで先生が受け、お返しに私の股間へ金的蹴りを放つ。私は拳を股間の前で下向きに突きだし(地面にグーを向ける形)、金的蹴りを防ぐ。ここまでの動作を反復練習する。何度も何度も。
言葉で書くと簡単だが、まず私の前蹴りを払い受けする先生の前腕が硬くて…。払い受けとは相手の蹴りを前腕で内側から払い、その時に脛を打つ。この時点で私の弁慶は悲鳴を上げている。が、次の瞬間には金的蹴りが跳んでくる。こいつを拳で防ぐのだが、もうお判りの通り拳ごとキンタマを蹴りあげられて御仕舞である。
何度これをもらって悶絶したか。
本当に何日か腫れていたこともあった。
あのまま膨れ上がったサイズでデカくなったままならよかったのに。
この他にも、少林寺独特の手首を極める関節技も岩瀬先生に稽古つけて頂いてた。
これが私がいくらやっても先生にはちっともかからない。多少ねじったりひん曲げた所で、あの恐ろしく柔軟な手首には通用しない。反対に、石像が動き出したような巨大な手のひらで私の手首をきゅっと軽く掴んでひねるだけで、気が付くと私は畳の上でうつ伏せになり呻き声を上げているという按配で。
最初のうちは何をどうされたのかサッパリわからなかった。
いや理屈とか手順はわかるのだが、それにしたってあんまり簡単に負けてしまうので、私はすっかり自信を無くしてしまった。
今思えば、これが良かったのだと思う。
乱暴者ですぐ短気を起こしていた私に、稲垣先生が少林寺を進めてくれたのは8歳の時だった。まず守り、それから攻めるという事から、空手や柔道などはちょっと・・・という親御さんや気弱なお子様に人気だった少林寺拳法だが、私のような暴れん坊にも効果覿面。
小学生の頃、同年代の仲間にはそういった気弱な子たちが多く、組手で突きや蹴りが入ってしまい相手を泣かせてしまう事も多かった。それで私は得意になっていた。
小学6年で初段を取ったのをシオに辞めてしまう子が多い中で、私は中学に入って始めた柔道と並行して少林寺拳法の修行も続けていた。
そして自惚れ盛りの暴れん坊の鼻を見事に叩き折って頂いたわけ。
私が少林寺拳法で痛い目を見ながら学んだこと。それは
「世の中は化け物ばかりだ、こんな奴らには逆立ちしたって勝てっこねえ」
だった。
稲垣先生は今も家族ぐるみでお世話になっている整体師さん。
岩瀬先生は板金職人。
二人とも普通の市井の人なのだ。超有名格闘家とか元軍人とかそういうんじゃ全然ない。
私は思ったね。ああ、世間にはこんな化け物がゴマンと居るんだ、と。
頭がクラクラしてきたが、それまで気に入らない相手を力でブチのめす事しか考えていなかった身には非常に新鮮な発見だった。
ガキ大将が御山の大将になった所で、初段からがキツかった。岩瀬先生はじめ先生方はみんな優しいし教えるのも本当に丁寧でわかりやすかった。ただ、技の切れ味が半端ないだけで…。気は優しく温厚だが、実はすんごく強い。これが少林寺拳法の目指す人物像、修行の目標である。私の出会ってきた先生はみんなこうだった。
痛い目に遭うだけの価値はある。月謝も格安だし。キンタマ蹴られて悶絶しながら覚えた事は、ずっと忘れないしな。
稲垣先生は言う。「折角痛い目みて覚えたんだから、今度は君が教えれば良いんだよ。」そうだなあ。一応、小拳士弐段だから子供に教えるぐらいは出来るんだよね。道院があれば、だけど。
それで小さな子供が興味を持ってくれて一緒に修行して上達したら…息子ぐらいの子に私のムスコを蹴られて悶絶する日が来るんだなあ。…蹴られてばかりかよ。まさに踏んだり蹴ったりだな。
(原題:赤鬼の金的蹴り)
少林寺拳法の急所蹴りは、まず膝を高く上げて腿をしっかり引く。
足首の力を抜いて相手の睾丸の下側から裏側を掬い上げるように爪先を立てて蹴り込み、足の甲でブラブラしているところにスパコーーン!と当てる。
初段の修行で必ず習うのだが、これがまた痛くってねえ。
私は同年代の子が居なかったので、少林寺歴ウン十年の五段を持っている岩瀬先生といつも修行をしていた。
名前の通り岩みたいな拳と柔軟な関節、さらには赤銅色に日焼けした180センチオーバーの鍛え上げられた肉体を持ち、オマケに顔がちょっと怖い岩瀬先生は、さながら“赤鬼”とでも言えそうな外見とは裏腹に、温和で優しい先生だった。怒鳴ったり体罰をするようなことはただの一度もなかったし、逆に丁寧にじっくりと、理解・体得できるまで何度でも付き合って下さる先生だった。
で、そんな心優しい赤鬼から丁寧に丹念に念入りに金的蹴りを習うとどうなるか。
私が小学6年で初段を取得してから高校2年で道場を移るまでの間、ほとんどずっと岩瀬先生と稲垣先生(この方が私の直接の師匠だ。今は整体治療でお世話になってる)に面倒を見ていただいていた。
ただ技の動きを繰り返すのではない。組手と言って基本の型をまず身に着け、その次に乱捕りで実戦を想定した修行を行うのだ。
まず私が前蹴りを放つ。するとそれを払い受けという動きで先生が受け、お返しに私の股間へ金的蹴りを放つ。私は拳を股間の前で下向きに突きだし(地面にグーを向ける形)、金的蹴りを防ぐ。ここまでの動作を反復練習する。何度も何度も。
言葉で書くと簡単だが、まず私の前蹴りを払い受けする先生の前腕が硬くて…。払い受けとは相手の蹴りを前腕で内側から払い、その時に脛を打つ。この時点で私の弁慶は悲鳴を上げている。が、次の瞬間には金的蹴りが跳んでくる。こいつを拳で防ぐのだが、もうお判りの通り拳ごとキンタマを蹴りあげられて御仕舞である。
何度これをもらって悶絶したか。
本当に何日か腫れていたこともあった。
あのまま膨れ上がったサイズでデカくなったままならよかったのに。
この他にも、少林寺独特の手首を極める関節技も岩瀬先生に稽古つけて頂いてた。
これが私がいくらやっても先生にはちっともかからない。多少ねじったりひん曲げた所で、あの恐ろしく柔軟な手首には通用しない。反対に、石像が動き出したような巨大な手のひらで私の手首をきゅっと軽く掴んでひねるだけで、気が付くと私は畳の上でうつ伏せになり呻き声を上げているという按配で。
最初のうちは何をどうされたのかサッパリわからなかった。
いや理屈とか手順はわかるのだが、それにしたってあんまり簡単に負けてしまうので、私はすっかり自信を無くしてしまった。
今思えば、これが良かったのだと思う。
乱暴者ですぐ短気を起こしていた私に、稲垣先生が少林寺を進めてくれたのは8歳の時だった。まず守り、それから攻めるという事から、空手や柔道などはちょっと・・・という親御さんや気弱なお子様に人気だった少林寺拳法だが、私のような暴れん坊にも効果覿面。
小学生の頃、同年代の仲間にはそういった気弱な子たちが多く、組手で突きや蹴りが入ってしまい相手を泣かせてしまう事も多かった。それで私は得意になっていた。
小学6年で初段を取ったのをシオに辞めてしまう子が多い中で、私は中学に入って始めた柔道と並行して少林寺拳法の修行も続けていた。
そして自惚れ盛りの暴れん坊の鼻を見事に叩き折って頂いたわけ。
私が少林寺拳法で痛い目を見ながら学んだこと。それは
「世の中は化け物ばかりだ、こんな奴らには逆立ちしたって勝てっこねえ」
だった。
稲垣先生は今も家族ぐるみでお世話になっている整体師さん。
岩瀬先生は板金職人。
二人とも普通の市井の人なのだ。超有名格闘家とか元軍人とかそういうんじゃ全然ない。
私は思ったね。ああ、世間にはこんな化け物がゴマンと居るんだ、と。
頭がクラクラしてきたが、それまで気に入らない相手を力でブチのめす事しか考えていなかった身には非常に新鮮な発見だった。
ガキ大将が御山の大将になった所で、初段からがキツかった。岩瀬先生はじめ先生方はみんな優しいし教えるのも本当に丁寧でわかりやすかった。ただ、技の切れ味が半端ないだけで…。気は優しく温厚だが、実はすんごく強い。これが少林寺拳法の目指す人物像、修行の目標である。私の出会ってきた先生はみんなこうだった。
痛い目に遭うだけの価値はある。月謝も格安だし。キンタマ蹴られて悶絶しながら覚えた事は、ずっと忘れないしな。
稲垣先生は言う。「折角痛い目みて覚えたんだから、今度は君が教えれば良いんだよ。」そうだなあ。一応、小拳士弐段だから子供に教えるぐらいは出来るんだよね。道院があれば、だけど。
それで小さな子供が興味を持ってくれて一緒に修行して上達したら…息子ぐらいの子に私のムスコを蹴られて悶絶する日が来るんだなあ。…蹴られてばかりかよ。まさに踏んだり蹴ったりだな。
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