不定期エッセイ キッドさんといっしょ。

ダイナマイト・キッド

文字の大きさ
42 / 1,319

入江弥彦さんは化け物か。の巻

しおりを挟む
今回は入江弥彦さんの新作、前回のイベントで2冊出されていた
「雪の日にはじめまして、雨の日に永久に」
「尾ひれのあるヨメ」
このうちの「雪の日にはじめまして、雨の日に永久に」のなかから一作ご紹介させていただきます。
一部作品のネタバレを含みます。
ご興味のある方は是非、そちらを先にご覧ください。


私キッドはココや小説家になろうで愚にもつかない話や、プロレスに対する暑苦しいエッセイを書き散らかしているだけではなく。
意外と小説も書いております。パッとしないだけで。
大きなお世話だ。

そんな小説を書いて出している数ある人々の中で、もうこれは敵わない、バケモンだ、と思う人が二人だけ居ます。
それが黄鱗きいろさんと、入江弥彦さんです。
この二人は私の中ではインディーズ最強とでもいうべき、別格の存在です。
自分が同じ土俵に立っているとすら思えない。
確かに私はごく一部の作品だけとはいえ書籍化もして頂いた(宝島文庫「廃墟の怖い話」好評発売中)けれど、基礎とか技術とかあらゆる面で言えばこの二人には全然及んでない。どうやったって長い目で見れば彼女らの勝ちは揺るがないのだ。そのぐらい、私にとって大変に魅力的な作品を世に送り出し続け、異彩を放つのが黄鱗きいろさんと、入江弥彦さんなのです。
プロレスで言えばメジャー団体には居ないけどインディーでは並ぶもののないカリスマを持つ、葛西純選手とか松永光弘さんとかそんな感じの位置に居ます。例えがデスマッチ戦士ばっかりですが、お二人ともかなり独自の世界を突っ走っているうえに、その世界が半端なく面白く、隅々まで読めば読むほど楽しませてもらえるから、って意味ではかなり近いです。

で今回。冒頭でも述べたように入江弥彦さんの新作、前回のイベントで2冊出されていた
「雪の日にはじめまして、雨の日に永久に」
「尾ひれのあるヨメ」
このうちの「雪の日にはじめまして、雨の日に永久に」のなかから一作ご紹介させていただきます。この先、ネタバレを含みます。ただ全部紹介しちゃうのはホントに勿体ないので、是非、出来ることなら今すぐ入江弥彦で検索して通販でなんも知らずにご覧になって欲しいです。そのぐらい、頭真っ白で読んだ方がより入江ワールドの深いところに突っ込んでいけます。
そのぐらい、のっけから面白いです。
両方とも作風としては椎名誠さんとか、テリー・ギリアムとかに近いです。
よくある日常なんだけどどこか狂ってたり、我々の生活とは違う世界軸だったりします。水没した世界、工場裏の泥濘に棲む半魚人、神様に作られた機械などなど。そういうちょっとヘンな世界のちょっとヘンな住人たちと、少年や少女の不思議で切ない交流を描いた短編が沢山あります。
同じ事をもっと大きな会社のCGアニメ映画で謳われてても食指が伸びない私ですが、入江弥彦さんの作品ではそれがもっと身近で、ともすればこれは現代生活そのものの中で狂っちゃった妄想の世界なのでは…?とすら思わせる、読めば読むほど心地よく深みにハマることが出来ます。お勧めします。

さてその入江弥彦さんの最新作。
「雪の日にはじめまして、雨の日に永久に」
からトップバッターの「蛸の足は腕だという」という作品をご紹介します。
舞台はどこか遠くの街の小学校。のっけから「僕」の独白で、好きな人には下半身にタコの足が生えている、と明かされる。そんなお話とは。

クラス替えで一緒になったガキ大将のカズイ君。
短気で怒りっぽいけど大人びた言動や、他のクラスの連中は知らないようなことを教えてくれる男。だけど話が進むにつれて、主人公の僕ことヒカル君はカズイ君のことを、空気が読めない乱暴者から、頼りになるけど実は彼も友達が欲しかったんだな、と思うようになる。
私キッドは本名がカズヤなので、なんだかちょっと親近感がわく。こういうカズイ君みたいなキャラは他人な気がしない。
カズイ君に連れられて、学区外に出かけるヒカル。この学区外というのが小学高学年の冒険サイズとして物凄く的確だと思います。あの頃、ヘルメットなしでチャリ乗るのと、校区の外に子供だけで出るのと、学校サボって昼間出歩くのってすげえ冒険してる気がしたじゃん。BGMは斉藤和義の「歩いて帰ろう」か、和田アキ子の「さあ冒険だ」で。
その学区外の街も、大阪の三ツ寺とか宗右衛門町みたいな雑然としててちょっと怖い感じがする場所。でも自分たちにさほど興味を示されない。お互いに不干渉な場所ってのがいい。つまり本当に知らない場所。日ごろの生活圏を飛び出して、子供だけで未知の世界を歩いている。でもその未知の世界は普段の自分たちの暮らす街のすぐ隣にある。これが、子供のスケールを凄くよく表現していると思います。

そこで目撃するのは、喋る軽トラックと背広の男が繰り広げる移動式の見世物小屋。
荷台に据え付けられた水槽には、蛸女。
カズイ君は気持ち悪い、というけど、ヒカル君は蛸女に心を奪われる。
そして蛸女を奪うことにする。

蛸女とのカケオチを決めたヒカル君はカズイ君にだけこのことを打ち明ける。
ここで二人の関係性は完全に変わる。それまでも変わりつつあったものが、ココで固まったというべきか。永遠の友情と、長い長い別れの時。
それが、この計画を実行することによって生まれて、動き出す。
ラストまで圧巻の手に汗握るランナウェイ。
軽トラが喋るという伏線も、蛸女とのキスも、全てを飲み込んで川を流れて行くふたり。

正直言えば、入江弥彦さんの作品にしては幸せ過ぎるほど幸せなエンディング。
物凄いカタルシス。
小さな本だけど、中に詰め込まれてる広大な世界の入り口にはこれ以上ないほどピッタリな作品でした。
まだ通信販売も受け付けているかも知れないので、ご興味のある方は是非ご覧になってみてください。この記事をご覧になって下さったからといって、決して遅くはありません。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...