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第242回。おいでよ!フルーツ王国

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っつって行ってみたら実ってるのが
筆柿
ビワ
カリン
だったらどーよ。

いや悪くは無いけど地味…。

あのー、見知らぬ街に急に行くと面白くってね。
向かってるときは良いんだけど着いちゃってフッと我に返ると
「うわ何処だココ、何やってんだ私」
ってなって、そっからのトリップ感覚が心地よい。

今頃の時期とか5月ぐらいの、暑くも寒くも無いときに出歩くのがいいね。
大きなバス通りがあって、緩やかな上り坂のカーブの向こうに信号の交差点がある。
自分はその手前で別の方向に向かっちゃうんだけど、あの交差点の先が凄く気になって。

そうするとさ、その道の続きが夢に出てきたりするんだよな。
ああー!ココこうなってるんだ!!
って。
でも夢だから支離滅裂で、急に知ってるところに繋がってたり、全然知らない、現実と違うところを別の場所だと認識してたり。青森県とか。行ったこともねえっつうの。

それもさ、原付で青森まで行って今から夕方までに帰るつもりで居たりするんだよな。
お前は何曜どうでしょうだって。

まあ実際に行くのと夢とでは、目が覚めれば帰って来られるのか、それともまたエッチラオッチラ帰らなきゃならんのかで大きな違いがあるんだけどな。

今じゃ原付なんか怖くて乗れないけど、19の時は散々乗ったな。
アレのお陰で行動範囲が無駄に広がったし、原付しかないと、やっぱり原付だけあればいいかなって思うんだよな。
ちょうど色々諦めたり投げ出したりフラれたりしてた時期でもあったので、ハッ!と気が付くと静岡県の山奥に居たりして。原付だから燃料だって大して入らないし、怖かったなあ。
そういう時期だったとしか言えないんだけどもなー。

あとで250のバイク買ったら、もう怖かったなあ原付。
そもそも体が重いから原付だと結構な坂道なんか走るとちょっと後ろ下がりそうになったりするしな。

そういえば後にバンドを組む丸山君も同じ時期に原付を買ったので、一緒に朝早くに茶臼山に向かったことがあった。明け方の暗いうちに出発して何となく走り出した。国道151号線をひたすら北上するだけ。確か12月か11月の終わりだったから、物凄く寒かった。
意味もなく、お金もなく、時間だけがあった。
走ってるとだんだん寒くなくなってくる。麻痺するんだな。
軍手して厚着してヘルメットしてても体が固まっちゃって、そのままの姿勢で走ってると平気になってくる。走ってるのは良いけど、体を動かすと寒い。
あと信号待ちも寒い。

いちばんあったかいのはトンネルだと言うことがわかった。
茶臼山に向かう途中には沢山トンネルがあった。
あの当時は、まだ道が狭いままだったり危険なカーブが残っていた。朝早いからそこまで車は通らないものの、それでも原付だからトラックが来ると怖かったなあ。

茶臼山に向かう最後のトンネルが太和金トンネルっていって、つい最近バイパスが開通して凄く綺麗で広い道になったけど、あの当時は古くて狭くて暗い、物凄い時代を感じるトンネルだった。
トンネルはあったかい!
トンネルに入れば回復だ!

そう思って突入した太和金トンネルは、まるで氷穴のように寒かった。冷たかった。
温かい!
と思っていた分キツかった。あんまり寒いのに加えて、トンネルを抜けると山も深くなるので、とうに日の出を迎えたにもかかわらず気温はぐんぐん下がっていってた。

茶臼山に着いても、別にお店もやってないし自販機で温かいカフェオレを買って二人で震えていた。
日向で風の来ない場所を見つけて、すっかり冷え切って固まった体をウルトラセブンのように陽射しを浴びて回復させていると、土産物屋のおばちゃんが出勤してきて、妙な二人組の若者(私たちだ)を見つけてくれた。

あれまあ!
と怪しむでもなく、豊橋からスクーターで来たけど寒くて寒くって、と訳を話すと中へ入れてストーブを付けてくれた。やっと体が温まって、朝8時くらいに今度は帰らなきゃならなくなった。
もうメンドクサイ。
2人して茶臼山の子になろうとしていると、なんと土産物屋のおばちゃんがお餅を焼いてくれて、それを食ったら体の中からもあったかくなってきた。
「気を付けて帰るのよ」
と言ってくれて、いよいよ茶臼山の子になるわけにもいかなくなった。
あのおばちゃんに美人で独身の親戚か娘が居ないか聞いてみればよかった。

しかし炭水化物とは有難いもので、さっきまでの億劫な気分は何処へやら。
勇躍スクーターにまたがって走り出した。
が、帰りのガソリンが…そして田舎のガソリンスタンドは朝が遅い。
というか、定休日がある。
ことごとく閉店してたり休みだったり開店前だったりして、二人とも最終的にはエンジンを切って下り坂を進むしかないか…と思っていたところで、やっとこ開いていた太陽石油に入る。
このガソリン代の500円少々もきついぐらいの生活のくせに原付で遠出なんかするもんじゃない。

朝も8時を過ぎると普通に車もトラックもバンバン通る。
ダンプや大型トラックより、2トンぐらいの建設屋さんの古いトラックがきつかった。
ちょうどこちらの顔に向かって真っ白だったり真っ黒の煙をブカブカ吐き出すので、吸い込むと目ピリ鼻ツン、喉にケンケン…あの酸っぱい排気ガスを散々浴びることになるのだ。

そうしてどうにか近くまで帰ってきた。もう国道を通るのが嫌だったので、川沿いに南下することにした。この川沿いの道も、一部舗装されてない箇所が残っているような道だった。
デコボコの砂利道を砂煙をあげてプリプリ走っていると、私の後方で
ズゥザザザザ!
ガッターン!
という音がした。慌てて止まって振り返ると丸山君が横滑りしてひっくり返っていた。

オイ!大丈夫かよ!!
と駆け寄ると丸山君は開口一番
お前のせいだかんな!
と。何を言ってやがる、と思っていると、どうも前を走る私の砂煙がきついんで追い抜こうと思ったらデコボコにはまってすッ転んだらしい。

私、悪くないよなあ!?

結局彼の原付は左のウィンカーのガラスが大破し、ズボンの膝が破れてちょっと血が出た。
それでもなんとか走れたので、そのまま帰った。
風呂に浸かって再度解凍して夕方まで寝て、また丸山君の家に行って朝倉君や平松君と一緒にダベっていた。今朝がたの顛末を話して爆笑だった。それで元は取った。
あの頃は、そう思ってた。

今でも大して変わらない。
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